表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/46

第17話:大手製薬会社の電撃訪問と、最高級スイーツ

窓の外は快晴。冷房の効いた快適なリビング。

未亜と一緒に、新作の協力プレイゲームを楽しむ。医療ギルドからせびり取った最新型のゲーム機。画質は最高だ。


ピンポーン。


突然のインターホン。

ゲームの音を一時停止し、モニターを確認する。

映っていたのは、純白の高級スーツに身を包んだ白髪の老紳士。数人の屈強なSPを引き連れている。

一見して只者ではない。


「カケル君、あの人たち……誰?」


未亜が不安げに身を寄せてくる。

無理もない。警察が二十四時間態勢で警備しているはずの我が家の前に、堂々と陣取っているのだから。


「ああ、ちょっと待ってて」


コントローラーを置き、玄関のドアを開ける。


「……天羽カケル様ですね」


老紳士が、深々と頭を下げる。

胸には、見覚えのあるロゴマーク。世界最大手の製薬会社『グローバル・メディカ』のエンブレム。


「初めまして。私、グローバル・メディカのCEOを務めております、ハワードと申します。表の物々しい警察の警備ですが、保安庁の長官に直接話をつけて、強引に通していただきました。」


国家の中枢すら一通の電話で黙らせる、強大な影響力。


「はあ。製薬会社のトップが、こんなボロ家に何の用ですか」


「医療ギルドから、あの『奇跡のポーション』の噂を聞きつけまして。どうしても、その製造工程を拝見したく、強引に押しかけた次第です」


熱を帯びた瞳。便利なスポンサーが向こうからやって来たらしい。

彼らを地下室へと案内する。


「こ、これは……ッ!」


地下室に降りるなり、ハワードは絶叫した。

彼が見たのは、岩肌に設置された『全自動ポーション工場』。


「竹筒から……水が流れている!? そして、この容器の底に溜まっているのは……!」


震える手で、完成したポーションのタンクを覗き込む。


「信じられん……! 不純物が、完全にゼロ!? 魔力の濁りが一切存在しない!? いったい、どのような神聖な濾過システムを!?」


「いや、ただの流しそうめんです。途中でサラダスピナーの要領で回して、アクを弾き飛ばしてるだけで」

「さ、サラダスピナー!? あの、レタスの水気を切る!?」


ハワードが白目を剥きそうになる。大げさすぎる。

ホログラムパネルを操作し、ラインの一部を見せた。

若葉が水流に乗り、見えない遠心力でクルクルと回り、不純物だけがポーンと外に弾き飛ばされていく。

それを見たハワードは、その場にガクリと膝をついた。


「あ、ああ……! 我々が何千億もの研究費を投じ、何十年もかけて到達できなかった『不純物ゼロ』の極致が……こんな、物理ギミックで……!」


「だからサラダスピナーだって言ってるじゃないですか」


「天羽様! あなたは医療の歴史を根底から覆す、まさに神の御手だ! ぜひ我が社と独占契約を! 今すぐ契約書を――!」


コンクリートの床に額を擦り付け、迫ってくる世界的企業のトップ。

小さく息を吐く。


「あー、今ゲーム中で忙しいんで。そういう面倒な話はまた今度にしてください。連れも怖がってるし、早く帰ってもらえますか」


「げ、ゲーム中で……!? 医療の歴史を変える契約よりも!?」


「ええ。とりあえずお近づきの印だけ置いて、今日は帰ってください」


ハワードは息を呑み、即座に懐から漆黒のカードを取り出した。


「も、もちろんです……! こちら、世界各国の王室御用達・最高級スイーツブランドの『VIP無限デリバリーパス』でございます! 世界一のパティシエの新作が、無料でご自宅に届きます! どうか本日はこれでご容赦を!」


ピコン。

スマホに、デジタルパスの認証完了通知が届く。

よし。これで未亜の機嫌を取る極上のオヤツが完全に確保された。


リビングに戻る。

ハワードたちは、まるで神殿を後にする巡礼者のように、何度も頭を下げながら帰っていった。


「カケル君、あの人たち帰った?」


「ああ。明日から、世界一のすごいケーキがいっぱい届くらしいぞ」


「本当!? やったぁ!」


満面の笑みで飛び跳ねる未亜。

再びコントローラーを握り、ゲームを再開する。

平和な午後。冷えた麦茶と、隣で笑う幼馴染。

この完璧な日常を、誰にも邪魔させるつもりはない。


――だが。

その完璧な日常に、すでに『異物』は混入していた。


夕暮れ時。

俺たちがゲームに夢中になっている頃。

一軒家の屋上。給水塔の陰に、一人の女が立っていた。

気配も、魔力すらも一切持たない、虚無の暗殺者。

彼女は妖艶な笑みを浮かべ、手に持った小さな小瓶を見つめる。


「……ふふっ。どんな強力な防衛システムも、物理的な『宅配便』には無力よね」


小瓶の中には、無色透明の液体。

一滴で街一つを死の眠りにつかせる、結社最強の猛毒。


「明日届くという、そのケーキ。少しだけ『甘く』して差し上げますわ」


虚無の暗殺者が、音もなく闇に溶ける。

愛する甘いスイーツが、最悪の死をもたらす凶器へと変わろうとしていた。

「面白い!」「スカッとした!」「続きが読みたい!」と思っていただけましたら、ブックマークに追加と、評価で応援していただけると、毎日の執筆の最大のモチベーションになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ