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クワガタ、室町末期に放たれる?  作者: 双鶴


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第19話 正覚寺の籠城、堺の激突

 閏四月――

 京では政元が新将軍・義遐を擁立し、

 新体制が静かに動き始めていた。


 だがその頃、

 河内ではまったく別の空気が渦巻いていた。




 義材と畠山政長は、

 細川軍に追い詰められ、

 正覚寺に籠城していた。


 正覚寺はもはや寺ではなかった。

 百を超える櫓が立ち並び、

 堀は深く掘り下げられ、

 土塁は幾重にも積み上げられた。


 最も高い櫓には、

 義材の御座所が置かれた。


 その姿は、

 敗北を認めぬ将軍の意地そのものだった。


「ここで討たれるなら本望よ」

「政長、最後まで戦うぞ」


 義材の声は震えていなかった。

 だが、その背後には

 “帰る場所を失った男”の影があった。




 やがて、

 政長の領国・紀伊から援軍が動いた。


 根来衆を中心とする、

 数千から一万ともいわれる大軍。


 その足音は、

 河内の空気を震わせた。


「紀州勢が来るぞ!」

「これで形勢は逆転だ!」


 正覚寺の兵たちは歓声を上げた。


 だが――

 その希望は、

 堺で止められる。




 堺の港町。

 海風が吹き抜ける街道に、

 赤松政則の軍勢が立ちはだかった。


 紀州勢は怒号を上げた。


「通せ!」

「通さぬ!」


 両軍は堺の街を挟んで対峙し、

 数日のあいだ睨み合いが続いた。


 そして――

 閏四月二十一日。


 ついに火蓋が切られた。




 紀州勢は海に数十の軍船を並べ、

 陸と海の両面から赤松軍を攻め立てた。


 海上には太鼓の音が響き、

 陸では槍の林が揺れ、

 堺の街は戦の煙に包まれた。


 根来衆の鉄砲が火を噴き、

 赤松軍の盾が火花を散らす。


 だが――

 赤松政則は怯まなかった。


「押し返せ!

 ここを抜かせれば、京が危うい!」


 政則は自ら馬を駆り、

 最前線で兵を鼓舞した。


 その姿は、

 かつて義材と親しかった男とは思えぬほど、

 政元への忠義に満ちていた。




 戦いは数時間に及んだ。


 紀州勢は海と陸の連携で攻め続けたが、

 赤松軍の防御は崩れなかった。


 やがて、

 紀州勢の隊列が乱れ始めた。


「退け! 退けぇッ!」


 怒号が響き、

 紀州勢はついに敗走した。


 堺の海には、

 沈む軍船の影が揺れていた。




 その報せは、

 正覚寺にも届いた。


「紀州勢……敗れたり」


 義材は櫓の上で、

 しばし空を見つめていた。


 政長は拳を握りしめた。


「まだだ……まだ終わらぬ……!」


 だが、

 その声には力がなかった。


 正覚寺の兵たちの顔から、

 希望の色が消えていった。




 京では、

 政元が静かに文を読んでいた。


 元司が報告に来ると、

 政元はわずかに頷いた。


「堺は……赤松が守ったか」


「はい。

 紀州勢は壊滅にございます」


「そうか」


 政元は文を閉じた。


 その仕草は、

 まるで“予定通り”と言わんばかりだった。


 元司は思った。


(殿は……

 戦場にいなくとも、

 すべてを見通している)


 正覚寺の籠城は、

 もはや時間の問題だった。


 そして――

 その時間は、

 確実に政元の側へと流れていた。


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