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クワガタ、室町末期に放たれる?  作者: 双鶴


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20/23

第20話 正覚寺陥落、そして一つの命の終わり

 閏四月二十四日――

 紀州勢敗北の報が正覚寺に届いた時、

 義材と畠山政長は、

 まるで地面が抜け落ちたかのような衝撃を受けた。


「紀州勢……敗れた……?」


 義材の声は震えていた。


 政長は拳を握りしめたが、

 その手はわずかに震えていた。


「まだだ……まだ終わらぬ……!」


 だが、その言葉に力はなかった。


 正覚寺の兵たちの顔から、

 希望の色が消えていった。


 食料は尽きかけ、

 援軍は絶たれ、

 京はすでに政元の手に落ちている。


 義材と政長は、

 もはや“帰る場所”を失っていた。




 閏四月二十四日――夜。


 包囲軍は、

 正覚寺城への総攻撃を開始した。


 夜空を裂く鬨の声。

 火矢が闇を照らし、

 土塁が崩れ、

 櫓が倒れた。


 義材の御座所が置かれた最も高い櫓にも、

 火の粉が舞い上がった。


「……ここまでか」


 義材は静かに呟いた。




 閏四月二十五日――朝。


 正覚寺城は陥落した。


 畠山政長は、

 河内守護代・遊佐長直ら重臣とともに

 静かに自害した。


 その最期は、

 長年の戦いに疲れた武将の、

 静かな終焉だった。




 政長の死を知ると、

 義材は側近たちとともに

 城を出た。


 その手には、

 足利将軍家伝来の「御小袖」と「御剣」。


 敗者の誇りを守るための、

 最後の象徴だった。


「……京へ参る」


 義材は、

 その言葉を絞り出すように言った。


 もはや抵抗する力はなかった。


 義材の身柄は、

 京へ送られ、

 龍安寺に幽閉されることとなった。




 龍安寺の門前。

 元司は、義材の身柄を引き渡した後、

 しばし空を見上げた。


 春の雲がゆっくりと流れていた。


「……ついに、政元殿が天下を捉えたか」


 その言葉には、

 感慨と、

 どこか安堵の色があった。


 長い年月、

 政元の影として動き続けた。


 その果てに、

 ようやく“ひとつの時代”が終わったのだ。


(これで……ようやく……)


 元司の胸に、

 ふと温かいものが広がった。


 妻の顔が浮かんだ。

 政元の背中が浮かんだ。

 この世界に来てからの、

 長い長い日々が浮かんだ。


(……戻れるかな)


 その瞬間――


 風を裂く音がした。


 どこから放たれたのか分からない矢が、

 元司の胸を貫いた。


「……あ……」


 視界が揺れた。

 膝が崩れた。

 地面が近づいてくる。


 だが、

 元司の顔には、

 なぜか穏やかな笑みが浮かんでいた。


(ああ……ようやく……)


 薄れゆく意識の中で、

 元司は静かに目を閉じた。


 その表情は、

 まるで長い旅を終えた者のように、

 安らかだった。


 ――桑潟武蔵守元司。

 その生涯は、

 この春の朝に静かに幕を下ろした。


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