↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
軽い気持ちで国民的アイドルと友達になったら、周りの美少女達から激重感情をぶつけられる件――え!? トップアイドルの君まで!?  作者: 沢田美


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/110

神崎玲音は少しばかり重い

 翌日、僕は葵に送られてきた集合場所に立っていた。


「なに、私がいるのに暇そうな顔してんのよ」


 不満そうな顔で僕の隣に立っているのは、神崎玲音だった。


 なぜ彼女がここにいるのか。その原因は僕にある。昨夜、葵から届いたメッセージを読んだとき、どう考えても一人で行く気にはなれなかった。『明日、友達誰でもいいから連れてきて! いないなら一人でもいいよ!』――後半に嫌みが混じっているのは間違いない。そして連絡できる相手として真っ先に浮かんだのが、玲音だった。


「ごめん」


「……謝れって言ってるわけじゃない」


 玲音は視線を逸らし、指先で髪をくるくるといじりながら呟いた。夏の陽射しの中、彼女の横顔に淡く影が落ちている。やがて玲音はゆっくりとこちらへ目を戻して、頬をわずかに赤らめたまま口を開いた。


「次の約束のとき、埋め合わせしてよね」


「分かった」


 仕方ない。これも全部、僕が招いたことだ。


「それより……なんで私なわけ? 白須賀とか柊さんとか、他にも色々いたでしょ」


「玲音さんの方が一緒にいて安心するから」


 何となく、そう口から出た。けれどそれは嘘ではなかった。白須賀と一緒にいれば、どこへ行っても彼女の重い言葉と視線が纏わりついてくる。柊先輩や天雨を誘っても、たぶん結果は大差ない。それに比べて玲音は――芸能界のことを分かったうえで、適度な距離感を保ってくれる気がした。


 そう伝えると、玲音はぱちりと瞬きをして、しばらく黙ったまま僕を見つめた。


「……私、そう思われてたんだ」


「思うも何も、事実だよ」


「……バカじゃないの」


 声は低かったが、その耳が赤くなっているのはしっかり見えた。


 今日の玲音は変装もなく、ラフな格好でここに来ていた。薄手のワンピースが夏の風に揺れて、さらりとした栗色の髪が肩の上で揺れている。普段のステージ上とは違う、素に近い彼女が隣にいることに、どこか落ち着かない感覚があった。


「変装、しなくていいの?」


「いいのよ。今の世間は私みたいなアイドルより、"白須賀沙也加"というビッグスターに夢中なんだから。見られたところでそっくりさんで終わるわよ。……それに、今日は世間に見られるよりアンタに――」


 玲音は途中で口をつぐんだ。


「何か言った?」


「なんでもないわよ!」


 そう吐き捨てて、玲音はわずかに顔を背けた。その横顔がうっすら赤いのを、僕は見なかったことにした。


 そんな会話をしているうちに、遠くから葵の姿が見えてきた。数名の男女を連れている。みんな揃ってイケイケな雰囲気を漂わせていて、明らかに僕が普段うろついている層とは違った。


「お待たせ! 沢渡くん!」


 葵が上目遣いで僕の元へ駆け寄ってくる。胸元が開いたキャミソールがゆれて、日に焼けた肌が眩しい。


「待ってないよ、ちょうどいいくらい」


「そっか。……それでこの人が、沢渡くんが連れてきたお友達?」


 葵の視線が玲音へ流れた。玲音はその視線を受け取ると同時に、芸能活動で磨いてきた百点満点の笑顔をすっと浮かべた。


「ども、神崎玲音でーす」


 柔らかく手を振る。声のトーンも表情も完璧で、それが逆に玲音の"仕事"の顔だと分かる。


 一人の女子が声を上げた。


「え!? 神崎玲音!? 白須賀と同じ事務所の!?」


 周りがざわつき始める。そうか、これが普通の反応なんだ。毎日アイドルや女優と接しすぎて、感覚がすっかり麻痺していた。神崎玲音という名前が持つ重さを、僕はとっくに忘れかけていた。


「あはは、あまり大きな声だとちょっと困っちゃうな。今日は沢渡くんに誘ってもらったから来ただけだから」


 玲音はそう言いながら、自然な動作で僕の肩に手を置いた。


 その瞬間、視線が僕にも集まる。当然といえば当然だ。神崎玲音と並んでいる人間を、気にしないわけがない。


 少しのざわつきのあと、僕たちはそのままショッピングモールへ入った。


「結城、今日は何するの? てか、なんで僕をこの大人数の遊びに誘ったの?」


 葵を含めて十人以上いる集団。僕がここに呼ばれた理由が、まだ腑に落ちていなかった。


「本来来るはずだった子達が急に来れなくなってさ、その埋め合わせ的な感じで誘ったの。……それに、久しぶりに再会したんだし、記念に、って思って。私、見た目とか雰囲気は変わったけど、沢渡くんのことは忘れてないからさ」


 そう言う葵の顔が、少しだけ陰った。大人びた格好の裏に、昔の顔がちらりと覗いたような気がした。


 そのままみんなで服屋やアクセサリーショップを回った。玲音は持ち前のコミュ力でいつの間にかこの集団の中心人物に収まっていた。一方の僕は、完全に蚊帳の外だ。いつもの学校での立場と大差ない。


 ただ、少し孤立し気味の僕に、葵が適度に話しかけてくれた。昔から変わらない、あの気遣いの細かさだ。見た目は随分と変わったが、根っこのところは同じなんだと思った。


 気づけば、一行はゲームセンターへ流れ着いていた。


 僕はひとり集団から少し外れて、クレーンゲームの列をぶらぶらと見て回った。景品を眺めているのか、単に頭を空っぽにしたいのか、自分でも判断がつかない。


 そのとき、肩を軽く突かれた。


 振り向いた瞬間、指先が頬を押してきた。


「なにしてんのさ、沢渡」


 玲音だった。さっきまで集団の輪の中心にいたはずの彼女が、いつの間にか僕の隣に立っている。


「他の人達と回らなくていいの?」


「沢渡と一緒に回りたいから来たんだけど、ダメ?」


 玲音はにこっと微笑む。屈託のない顔をしているが、その目に宿っている光だけは、少し違う温度を持っていた。


「それに今は沙也加もいないし、ライバルもいない。ここは私の独壇場でしょ」


 そう言いながら、玲音は僕の腕にするりと腕を絡めた。柔らかい感触と、仄かな香水の匂いが肌近くに滲んでくる。


「一緒に回るわよ!」


 押しの強さに任せて、僕たちはそのままゲームセンターを歩いた。


 ある台の前で、玲音の足が止まった。クレーンゲームのアクリルケースの中に、小さなクマの縫いぐるみが入っている。玲音はじっと、物欲しそうにそれを見つめていた。口には出さない。けれどその目が、ちゃんと言っていた。


「ちょっとやってみるか」


 財布からお金を出して台の前に立つ。


「沢渡こういうの得意なの?」


「得意ってほどじゃないけど……こうすればいけるかな」


 クレーンを慎重に動かして、狙いを定める。ボタンを押す。クレーンが景品を掴んで、そのまま落下口へ運んでいく。


「凄っ! 一発で取れた!?」


「今日は運がいいかも」


 取り出し口からクマを取り出して、玲音に差し出した。


「いいの?」


「欲しそうに見てたから取っただけだよ」


「……ありがと」


 玲音の耳がじわりと赤くなった。視線を逸らして、それでも両手でクマをしっかりと抱きかかえる。その仕草が、アイドルの仮面を脱いだ素の彼女に見えて、僕は少し目を逸らした。


「一生大切にするね」


「……それちょっと重いかも」


「これくらいの重さがいいのよ」


 玲音はそう言って、クマを胸に引き寄せたまま微笑んだ。


 他愛ない会話で笑い合う。夏の喧騒の中で、その時間だけがどこか静かだった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

このお話が少しでも面白いと感じていただけたら、ぜひ「♡いいね」や「ブックマーク」をしていただけると嬉しいです。

応援が次回更新の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。