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軽い気持ちで国民的アイドルと友達になったら、周りの美少女達から激重感情をぶつけられる件――え!? トップアイドルの君まで!?  作者: 沢田美


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思わぬ出会い

 夏休みが始まって間もなく、僕はとある場所に一人で立っていた。


 潮風が頬を撫でるように吹き抜けていく。遠くで波が砕ける音が、ゆっくりとした律動で耳に届いてくる。視界の端では白い波頭がきらきらと光を弾いていて、こんな場所に自分がいることの非現実感を、じわじわと強めていた。


 僕は今、海にいる。ただし、芸能人が訪れるような高級リゾートとか、そういう話ではない。ごく普通の、家族旅行だ。


 なぜこんな陰キャが海辺のリゾート施設に立っているのか。理由は至って単純で、家族旅行以外の何物でもなかった。


「裕二ー? 何一人でボーッとしてんの?」


 聞き慣れた声が背後から飛んできた。振り返ると、姉の優花が砂浜を歩いてくるところだった。


 僕は一瞬、目のやり場に困った。


 姉が身に着けているのは、白と水色のストライプが入ったビキニだ。露出が多い、という言葉では足りないくらい、肌の面積がとにかく広い。相手が姉であることは頭では分かっているのに、視線をどこへ向ければいいのか咄嗟に判断できなくなって、僕は反射的に快晴の空へ目を逃がした。


 その反応を見ていた優花が、にやりと口の端を吊り上げる。


「なに? お姉ちゃんの魅力的な体を見て、興奮した?」


「なんでそうなる……それより、母さんと父さんは?」


「二人はイチャイチャするために、私らを置いてドライブ行ったよ」


「なんだよイチャイチャって」


 困惑していると、優花は僕の隣へ歩み寄り、そのまま脇から腕を絡めてきた。水着姿の柔らかい感触が腕に伝わってくる。引き剥がそうとする気力も湧かないまま、僕はため息をついた。


「なぁなぁ? 最近学校どうなの? 彼女とかできたー?」


 優花は甘えるように声を上げ、さらに体を密着させてくる。日焼け止めの甘い香りが鼻先をかすめた。


「彼女もなにも……周りの女子がめんどくさくて、大変だよ」


 言った瞬間、しまったと思った。


 優花は、僕がこの半年でどういう状況に置かれているか、何も知らない。白須賀のことも、天雨のことも、柊先輩のことも。話したことが一度もない。なのに、うっかり口が滑った。


「へぇ!? 裕二が女子達にモテてる!?」


「誰もそんなこと言ってない」


「でもさ、小中で友達すらいなかったアンタが女友達作ってるなんて、お姉ちゃん嬉しいよ!!」


 優花はそう言いながら、わしゃわしゃと僕の頭を撫でてくる。


 普段の姉のいつもの調子に、僕は二度目のため息をついた。もしこの場面を——白須賀や、天雨に見られでもしたら、僕はどんな目に遭うんだろう。想像しかけて、思考を強制終了した。考えたくない。


「あ……」


 そのとき、聞き覚えのある声が聞こえた。


 白須賀でも天雨でもない。柊先輩でもない。


 ゆっくりと声の方向へ視線を向けた瞬間、僕の思考は完全に止まった。


 砂浜の少し先に、二人の女子が立っていた。


 一人は吉良明日香。オレンジのビキニが鮮やかで、潮風に揺れる金髪が日光を受けてきらきらと輝いている。屈託なく明るいはずの顔が、今この瞬間だけは固まったように僕を見つめていた。


 もう一人は、西条静。薄いカーディガンを羽織っているが、その下に覗く黒のビキニが、彼女の白い肌との対比で異様なほど目を引く。いつも通りの無表情に近い顔で、けれどその瞳だけが、僕の腕に絡みついた優花をじっと見ていた。


 姉の優花も気づいたらしく、腕を絡めたまま二人へ視線を向けた。


「こ、こんにちは沢渡くん!」


「……奇遇ね、裕二くん」


 明日香の声は少しうわずっていた。静の声は静かで、けれどどこかひんやりとした温度があった。


 僕は完全に詰んだと悟った。


「え!? 裕二! この子達、あのショートドラマで共演してた子じゃん!?」


 優花が僕の腕を揺さぶりながら聞いてくる。すでに姉の全身から好奇心の圧が溢れ出していた。


 姉の姿は瞬く間に明日香と静のそばへ移動していた。


「えっと……沢渡くんの、彼女さんですか?」


 明日香が、どこかぎこちない笑顔で優花に問いかける。


 静は何も言わなかった。ただ、その黒い瞳が優花の腕——僕の腕に絡んでいた場所——をゆっくりとなぞって、それから僕の顔へ戻ってきた。感情が読めない顔なのに、なぜかその視線に射貫かれたような気がした。


「残念! 私は沢渡裕二くんの、お姉ちゃんでーす!!」


 優花は満面の笑みで言い放つ。


 明日香の目が丸くなった。静の目も、ほんのわずかに見開かれた。


「えー!? お姉ちゃんなんですか、沢渡くんの!?」


「……驚いた」


 二人の空気が、明らかに変わった。ほんの少しだけ、肩の力が抜けるような。安堵なのか、それとも別の何かなのか、僕には判断がつかない。


 僕はそっとその場を離れようとした。砂浜の端の方へ、自然な流れで歩き出して——。


「どこ行くの?」


 手首を掴まれた。


 振り返ると、優花の手が僕の手首をしっかりと捕まえていた。その力は見た目よりずっと強くて、逃がす気がまったくないことが手のひら越しに伝わってくる。


 優花はにこにこと、どこか楽しそうな笑みを浮かべたまま言った。


「お姉ちゃん、裕二の女子友達のお話、いっぱい聞きたいなー?」


 明日香が、じわりと笑みを深めた。静の唇が、ほんの少しだけ緩んだように見えた。


 逃げ場が、どこにもなかった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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