燕尾服の異形
20時のつもりが大幅に遅れてしまい申し訳ございません。
「いつから・・・気づいていたんだ?」
俺は燕尾服の異形の方に歩きながら確認する。
「貴方が崖から落ちて来たあたりですかねぇ。」
燕尾服の異形はわざとらしく顎に手を当てて答えた。
正面から見た燕尾服の異形の顔は、ローマ英数字の文字盤に中央部分が無数の歯車やチェーンなどが見えておりカチカチと音を立てて駆動している、ヴィンテージ風の懐中時計であった。
「私の顔が気になりますかな?」
顔をまじまじと見ていたのがバレたようだ。
「あぁ・・・その・・・あんたは他の異形とは大分違うなと思ってな。」
顔が無機物だしし、服きてるし、まともな会話ができるしね。
「それは、貴方も、ではないですか?」
「まぁ、そうなんだが・・・」
クゥにも特殊だと言われたな。だが、この燕尾服の異形は俺と似たものを感じる。
「貴方は自分が何者か知りたいようですね?」
まるで心の内を読んだかのような問いかけをしてきた。
「そんなこと、分かるのか?」
確かに気になる。自分が何者でどうやって生まれたのかずっと疑問だった。
「えぇ。知っていますよ。貴方が何者なのか。」
「それは・・・教えてくれるのか?」
恐る恐る確認すると、勿論と快く答える。
「しかし、立ち話もなんですから————」
そう言うと俺の真後ろにある木がバンッと言う破裂音がして、振り返ると木が薪のようにバラバラになった。
「座って話しませんか?」
どうぞ。と手で促された。やはり、何をされたのか全く見えなかった。
「なぁ、さっきからやってるその・・・不可視のヤツは何なんだ?」
切り株に腰掛けながら、さり気なく尋ねてみる。
「もしや権能を見るのは初めてですか?」
「権能!?」
権能ってあれか。確か、爵位持ちや王が持ってるって言う特殊能力か?
マジかよ・・・可能性を考えなかった訳では無かったが、まさかこんな所で会うとは。
「因みに、どういう権能なんだ?」
「残念ながら今はお答え出来ません。」
ですよねぇ。流石に自分の手の内は教えてくれる筈もないか。そもそも初対面だから当たり前か。いや、それよりも————
「今は?」
まるでいつか話すかのような口振りだが。
「えぇ、そうです。私はとある王により生み出された爵位持ちなのですが、今は諸事情により、私の権能の正体を明かす事はできません。」
まぁ、初対面の俺に言えるわけないよな。
「まぁ、昔の話ですが・・・」
そう言って、懐かしむかのように空を仰いだ。
「もしかして・・・死んだとか?」
「えぇ。二千年前に・・・」
「ん?二千年・・・?」
仮にも王が死んだんなら、記録に残るだろうし、クゥが知らないとは思えないが・・・
「もしかして、元々の王は七体では無かったのか?」
「そうです。元々は十二体でした。」
十二!?今よりの五体も多くいたのか・・・でも————
「なんで死んだんだ?そんな簡単に殺せるとは思えないが?」
少なくともクゥから聞いた限りでは、人間にどうにか出来る存在じゃなと思うが。
「さて、私も詳しくは・・・」
燕尾服の異形は首を振る。
「話が逸れましたね。貴方自身についての事ですが————」
「お、おう。」
十二体の王の話も気になるが、今は俺の自身について知る方が最優先だしな。
「端的に申しますと、貴方は私と同じタイプの異形です。」
「つまりは、爵位持ちってことか?」
となると、どこの王に作られたんだろう。
そんなことを思ったのが、燕尾服の異形からは予想外な言葉が出た。
「いえ、貴方は爵位持ちではないですよ。」
「え?」
まさか否定されるとは思わなかった。
「どういうこと?」
「見た限り、貴方も権能を保持していますね。」
「マジで?!」
「えぇ。しかも七つも。」
「はぇ?!ななつぅ!!」
余りにも突拍子もない発言に思わず変な声がでる。
「七つ?!七って言ったか?そんなに持ってんの俺?」
「えぇ、間違いないかと。」
燕尾服の異形ははっきりと断言した。いや、しかし。
「俺は権能使ったことが無いはずだけどなんで分かるんだ?」
「刻印ですよ。」
と燕尾服の異形は自身の背中を刺しながら答える。
つられて背中を見ようとするが自分の背中が見える訳がない。
「あの刻印は、権能を持つ者の証です。私にもありますね。」
そう言って燕尾服の袖を捲ると、そこには複雑に絡まる一本の黒い蔦のようなものの内側にローマ英数字が不規則な羅列で並んだ刻印があった。
「見ての通り、一本ですから私の権能は一つです。ですが、貴方は七本の波があります。」
「なるほど、そう言うことなのか。」
ただのお洒落ではないと思ったけど、背中の刻印ってやっぱり意味あったんだな。
「ってことは・・・俺は王ってことか?」
爵位持ちはそれぞれ一つずつ王から与えられたってクゥもいってたし、この燕尾服の異形も一つだから、もしかして俺ってば王なのでは?
「さて・・・どうでしょうね。」
あっ、明らかにはぐらかされた。
「そこまで言ったんなら教えてくれよ。」
「私が説明しなくともその内分かる事で御座います。」
えぇ〜。なんだよそれ、後も先も大差ないと思うがどうやら答える気はないようだ。
「じゃあ、権能。俺がどんな権能を使えるかだけでも教えて欲しい。」
燕尾服の異形が使ったあれですらあの力だ。俺も権能が使えれば複合型なんか怖くない。
「残念ながら、それは私には分かりかねます。」
まさかの知らないだった。
「え?なんで・・・」
「刻印の文字は本人にしか読めませんから、私にはなんの権能かは分かりません。」
「マジかよ・・・」
湖で背中の刻印の文字を呼んでないことをまさか悔やむ事になろうとは・・・
「どうやって使うのかとかは・・・」
「一つとして同じ権能を持つ者はおりませんのでなんとも・・・」
「なら、どうすればいい?」
結局なんも分かんないじゃん。権能があるの分かっても使い方分からんと意味無いやん。
「ご人身で確認する他ないかと。」
「あっ・・・はい。」
ですよね。後で川で確認しよう。
「さて、私はそろそろお暇致します。」
突然背を向けて歩き出す。
「え?いや、まだ何も―――」
分からないんだがの言葉を遮り、燕尾服の異形は意味深な言葉を言った。
「貴方は知り合いを待たせる訳には行きませんからね。」
「なに・・・どういうことだ!クゥに何かあったのか?!」
思わず立ち上がって、声を荒らげてを聞き返してしまった。
「私と話している場合ではないだろう?」
「あぁ。」
燕尾服の異形の言葉に俺は頷いた。
「心配いりませんよ。また近いうちに会うことになるでしょう。それでは――――」
シルクハットを右胸当て、軽く一礼すると姿が掻き消えた。
「・・・村に急ごう。何か嫌なよかんがする。」
俺は元来た道を全速力で走り出した。
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