14 ウォーレンの店
※気分が悪くなる描写が出てきます。ご注意ください。
第三章で出てきたウォーレンも登場です。
容姿が変わったところに注目してください。
リンジーの店を出ると、また女性達がジロジロ見てくる。
お忍びで来たとしてもフィランダーはお忍びにはならない気がするなぁ。
こんな状態でデートするのか。
……想像しただけで疲れが溜まる。
デートしたいって言ったけど相手がフィランダーじゃ難しいかも。
私は心の中でため息をついた。
すると、私達の目の前に冒険者と思われる三人の女性達が立ち塞がった。
前方にいる騎士達がすぐに反応し私達を守る。
「お前達は誰だ。自分達がヘインズ家と知っての狼藉か」
「そこにいるカッコ良いお兄さんは貴族なんでしょう? どうです? 私達を雇いません?」
「今は仕事中だ。そこを退かないのなら牢屋に入って……」
騎士が言い切る前に三人の女性達は騎士達を押し退けフィランダーに駆け寄ろうとして来た。しかし騎士達はそう甘くはなくフィランダーに駆け寄る前に捕まえる。
「私達ぃ~こう見えてもBランクの冒険者なんですよぉ」
「それに夜の方も……そこのお嬢さんよりも楽しんで頂けると思いますぅ」
騎士達に押さえつけられても私に向かって上から目線で話す女性達に呆れた。
ただその言葉にクスクス笑う周りの女性達にも陰湿なものを感じる。
するとフィランダーは突然私の肩を掴み抱き寄せた。ちらりと見ると圧が籠った目が女達に送られている。
「……随分と失礼だな。列を止めた挙句、私の妻に向かって敵意を向けるとは……何様のつもりだ?」
「だってぇ……その子よりも私達の方が良いに決まってるでしょう?」
「ここの次期領主様は愛人を侍らせているって聞いたの! 私達が適任かと思って」
「胸が寂しいその子よりやっぱりあった方が楽しめるでしょう?」
その言葉は私の心にダメージを与える。
うん。私もそう思う。でも望んでこうなった訳じゃない。
「それに政略結婚なんですよね? こんな子と結婚なんて……可哀想ぉ~」
するとどこからかブチっという音が聞こえた。
「今すぐこいつらを冒険者ギルドに連れていけ!! 次期領主としてこの領からの出入り禁止を命ずる!!」
「え!?」
「そんな!!」
「ひどいぃ」
「それが聞けなければ牢屋に入って貰おうか」
フィランダーの言葉に何も言えなくなった三人の女性達は騎士三人に促され渋々冒険者ギルドへ連行されて行った。
「大丈夫? シェリル」
「嫌味を言われただけで何もないから平気」
「一応回復しておくね」
「うん」
それにしても、すごい常識外れな人達だった。
全員テナージャ人の様だけど、平民でもああなのかな。
「フィランダー。テナージャ系の領ではこういう事はよくあるの?」
「今回が初めてだよ。領主の行列を止めてまで迫って来ようとする人はね。……どんどんテナージャ人がバカになってる気がするな」
「ここでは学園はないの? 平民の」
「え……平民の?」
「そうよ。学園がなければ教会とかで読み書き計算を学ぶところ」
「……ない」
「教会側の許可があればやっても良いかもね。それか教える場を作るか」
「教える場か……」
「私はヘインズ邸の領主家族用の鍛錬場とかが良いと思うけど?」
「なるほど。考えておくよ」
もし学園が出来て常識も学べば少しはマシになる……かもしれないよね?
次に向かうところはなんとバーだった。
「もしかして……」
「そう」
あのウォーレンの店だ。
着くと店のドアノブに閉店のプレートがかかっていたが、騎士が扉をノックをすると店主であるウォーレンが出て来た。
「あ、ようこそ。お入りください」
中に入ると大衆感溢れる木を基調にした内装が目に入った。
「温かそうな雰囲気の店だね」
「はい。バーに来られる方は癒しを求めている方も多いので」
そして私達をカウンターの席へと促した。
ウォーレンの顔を見ると、ヒゲがさっぱりしていて一瞬誰だか分からなかった。柔和な印象は変わらないが歳は何歳か若返った気がする。そして顔は美形の部類だった。
……どうして私の周りは美形ばかりなんだろう?
「……さっぱりしたね」
「いや……その……あの時は失礼しました。あの騎士達が来てからは身嗜みもサボリ気味でして……久々に剃りましたよ」
「髪も切った?」
前会った時は肩まであった髪をオールバックにしている。だが襟足はあまり長くはない。
「はい。さっぱりしましたよ。やはり、気が引き締まりますね」
「ウォーレン。これ、土産」
フィランダーはリンジーの店で買ったジュースを渡す。
「ありがとうございます。……ジュースですか」
「さっき謝りに行った店で買ったものだ。酒も売ってたんだが、まだシェリルは飲めないからな。これで何か作って欲しい」
「かしこまりました」
「え? ジュースでお酒が作れるの?」
「いえ……ノンアルコールカクテルと言いまして……要はカクテル風のミックスジュースですよ。これならシェリル様も飲めますからね。ただ、今回は特別ですよ? シェリル様はまだここには入れないのですから」
「分かってます。これは飲めない人が来た時に出すの?」
「そういう時もありますね。あとはもう限界だけど飲まなきゃいけない時ってあるのですよ。そういう時にお出しする事もございます」
「へぇ……」
そう言ってウォーレンはジュースを使ってカクテルを作る。私はカクテルを作るところを見るのは初めてだが、ウォーレンの手先をみるとブランクを感じられないほどスムーズだ。
ふとウォーレンの顔を見ると、真剣な表情だが若干嬉しそうな顔を浮かべている。
その顔を見て、私も自然と口角が上がった。
出来上がったのは二種類のジュースが二層になっているカクテルだった。
「どうぞ」
「綺麗……これはどうなってるの?」
「それは秘密という事で」
「シェリル。まずは飲もうよ」
フィランダーに促され、飲むと意外と美味しかった。
「ん。美味しい。ジュースって混ぜた事がないから新鮮だわ」
「お口に合って良かった。少し味見はしましたが……これ、まさかランガ村のもので?」
「そうだ。そこ出身の女性が経営している店で買った」
フィランダーが店名を言うと良い事聞いたとばかりに微笑む。
「今度行ってみます」
「良い取引相手になりそうね。ところで開店はまだしないの?」
「はい。もう少し練習してからですね。大分感覚は戻ったのですが……色々する事がありまして……」
「それもそっか。とにかく元気そうで良かった」
「シェリル様が元気にしてくださったのですよ。領民は妙齢の女性以外はシェリル様を崇めていますし」
その言葉に、口から吹き出しそうになった。
「崇めるって……」
「穏やかな生活が出来るのはシェリル様のお陰ですから」
心なしか「シェリル様」を強めに言うウォーレン。それにはフィランダーは苦い顔になる。
「その通りだ。……ウォーレン。この店で一番高い酒を出してくれ。もちろん客として支払う」
「え……フィランダー。飲むの?」
「今日はここで最後だから。金も落とす必要があるし」
「かしこまりました」
ウォーレンはニッコリと笑ってから、奥へと引っ込み他の酒瓶と比べて小さなものを持ってきた。
ウィスキー用のグラスを置き、彼はそれに人差し指を向け空に円を描く。すると大きな氷の結晶が一瞬現れたがすぐ消える。グラスの中を見るといつの間にか大きな丸い氷が一つ入っていた。
そこに小さな酒瓶を開けゆっくり少量注ぐと、グラスの底には液体が薄っすら虹色に光る。
「どうぞ。精霊樹から取れた霊酒でございます」
「精霊樹?」
「端的に言うと精霊が憑いている樹から取れる酒の事です。精霊は気に入った木があるとそこを寝床にします。するとその木から酒が取れる様になるのです」
「……良かった。界酒を出されたらどうしようかと」
「これも高価なのですよ。まだまだ新米の自分にはこれが最高です」
「界酒って?」
「世界樹から取れる酒の事」
「うわっ……高価そう」
世界樹は大陸に一つしかないという世界一の大樹だ。希少性故に世界樹に関するものは全てにおいて手に入りにくい。なので自ずと高価になる。
「界酒だったら、白金貨一枚ですね」
「はぁ?」
白金貨一枚といったら……金貨一千枚!?
平民ならそれだけで一生過ごせるといっても過言ではない。
「せ……精霊酒は?」
「これは金貨百枚で手に入れました」
「……十分高価じゃない!!」
瓶を掲げていうウォーレンに私は思わず突っ込んだ。
金貨百枚なんて見た事がないよ。
「ど……どうするの?」
「どうするって……払うよ」
そういって兵士達に金貨百枚を出してもらうフィランダー。
「ったく。本当に高いやつ出しやがって……」
「フィランダー様なら用意できるでしょう」
「まぁな……こんなに渡す予定はなかったのだが……」
「いえ、フィランダー様。金貨十枚で結構です」
「は?」
「この量ですから一杯金貨十枚が適正価格です。……うちにだけかなりの金を落とされても困りますし……」
それでもなかなかの価格だ。
「ったく、意地悪い奴」
「貴方様ほどではありませんよ」
にっこり微笑むウォーレンに、私は苦笑した。
「本当そうね」
私の言葉にフィランダーの顔が沈んだ。
この話を読んで気分が悪くなった方はごめんなさい。
第四章で気分が悪くなる話はこれで終わりです。
登場人物紹介
名前 ウォーレン
所属 平民 ヘインズ領民
年齢 32歳
容姿
・髪 肩までストレートの銀の長髪→切ってオールバック
・瞳 紫
・体型 痩せ型
・顔 無精髭→剃って柔和な印象な顔 美形
・身長185cm
魔法 氷魔法 中




