15 強い疲労
シェリル視点からフィランダー視点に変わります。
ウォーレンの店をあとにし、私達は邸に戻るため馬車へと乗り込んだ。
「どっと疲れたな……」
「私は若い女性達に気疲れしたわ」
「シェリル! 回復!」
「……ありがと」
「それ、若のせいですからね」
「愛人候補が何人いるんでしょうかね」
トミーとルースが悪戯な笑みを浮かべながらフィランダーを見る。
「俺はシェリル一筋だから、他の女は目にも入らないね!」
「……それはともかく、フィランダーの隣って想像以上に疲れるのね。まともにデート出来そうにないって事が分かったわ」
そう言った途端、馬車の中の時が止まった。
「シェリル! 分からないで!!」
「だってフィランダーってお忍び出来そうにないじゃない」
「……確かにそうですね」
「いつもバレバレですしね」
「やっぱり……」
「やだ! シェリルとデートしたい!!」
「この環境じゃ厳しいわ。デートしたいって言ってごめんなさい」
「そんな事言わないでシェリル!! 俺!! 全部俺のせいだから!!」
「若い女性達を何とかしてくれないと難しいわよ。今日みたいに騎士達に囲まれていても視線が強かったし、冒険者の女性達は迫って来たし。デートする時は騎士達ついて来てくれないのでしょう? それともルースがついて来てくれるの?」
「頼まれればやりますよ。デート護衛」
「デートでも侍女がついてくるところもあるって聞いた事あるのよ。せめてそれくらいないと絡まれそうで怖いわ。さすがにデート中に剣は帯剣出来ないし……また冒険者に絡まりでもしたら……」
どうしても不安が次々と沸いて出てくる。
そんな事を言っているうちに突然強い眠気が襲って来た。
「シェリル?」
「眠い……ごめ……おやすみ」
「え!?」
私は意識が遠のき、横に座っていたフィランダーの胸に頭を預けたところで完全に途切れた。
※
シェリルはフィランダーの胸に倒れ込むように気を失ってしまった。
「シェリル! シェリル!!」
「若、落ち着いて」
「疲れて寝ているだけですよ。……回復かけてもダメだったという事は強い疲労でしょうか」
「デートの不安要素が増しましたからね。あんなのにまた絡まれたくないでしょうし……」
フィランダーは苦虫を噛んだ顔に変わる。
「貴方のせいですよ。元遊び人」
「……すみません」
「私もあまり学はないですがあそこまでではないです。なんかおかしいですね。テナージャの女性って」
「誰かが吹き込んでいるのか? 俺はそんな簡単に落ちる男じゃないぞ」
「自分で言わないでくださいよ」
「確かに彼女達、迫れば平気って態度でしたね。意外と内情も知ってましたし……。あの~、政略結婚って新聞に書いてありましたっけ?」
「あ……」
ヘインズ領都新聞にはフィランダーが求婚し続けやっと成功したと掲載。
確かにシェリルの家が傾いたため急な結婚ではあったが、この領に限って二人は次期領主が求婚して結婚したという認識……のはずだ。
「兄に確認した方が良さそうですね」
「……まだここを狙っているのか」
「狙った獲物は逃がさないタイプでしょうね。よっぽどシェリル様の存在が邪魔なのでしょう」
「私、嫌ですよ。イーディス様と仲の良い方なんてロクな人じゃありませんもん。シェリル様じゃなきゃ嫌です」
「俺だってシェリルじゃなきゃ嫌だよ」
「同感です」
そんな話をしている間に屋敷に着いた。
シェリルをお姫様抱っこして馬車から下ろすと、邸の前で待機していたネルとセリーナが駆け寄って来る。
「シェリル様!?」
「どうなさったのです!!」
「寝ているだけだ。すぐにベッドの用意を」
「「はい!」」
「ルースは夕食までシェリルの護衛を」
「はっ!」
「トミー。念のため医者の手配を」
「はっ!」
フィランダーの指示に皆すぐ動く。
医者に診てもらったところ、やはり心労だった。
「目覚めても目覚めなくても、明日また来ます」
「ありがとうございました」
「そういえば今日、騒ぎがあったと聞きました」
「はい。躾がなっていない失礼な冒険者達がおりまして……」
「最近は若い娘達の目が怖いですからなぁ。あぁ。目覚めてもしばらくは安静にしてください。無理はさせないように。余計なところに異常を来たす可能性がありますからな」
「分かりました」
「では明日」
そう言って医師はクリフと一緒に影へと飛び込んで行った。
「シェリル」
フィランダーはベッドに横たわるシェリルの側に座り、手を握りしめる。
すると部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「失礼致します。若、書類が溜まっております。早急に執務室へお戻りください」
「ユーイン……お前この状況見て分からないのか?」
「だからでございます。シェリル様が目覚めた後、大量の書類に忙殺されシェリル様に会う時間が減るといった事がない様に申し上げているのです」
「うっ……分かった。何かあればすぐに連絡を」
「かしこまりました」
「ルース。夕食時になったら今日はもう上がって良い。代わりの騎士と交代してゆっくり休め。休まないとシェリルが悲しむからな」
「……はっ。お気遣い感謝致します」
「明日以降のお詫び行脚は俺一人でこなす。ルースは明日、シェリルに付いている様に」
「承りました」
「ユーイン、行くぞ」
「はっ」
フィランダーは執務室に着いた途端、書類を淡々と素早く処理をした。




