07 新たな不安
主人公視点に戻ります。
※
「シェリル。このあと時間ある?」
フィランダーにそう聞かれたのは朝食の席での事。
「あるけど……どうして?」
「渡したいものがあるんだ」
「間に合ってます」
「そ……そんな事言わずに!!」
「一体何をくださるの?」
「新しいペンダントが出来たんだ」
「……へぇ」
「だから今のと交換して欲しいんだよね」
「……わかった」
「も……もしかして、何か急ぎのものがあった?」
「ううん。友人達から手紙が届いたからゆっくり読もうと思って……」
実は結婚式後のドタバタと学園祭が被り行く事が出来なかった。
代わりにステイシーやエイダやクルー先生、そして剣舞の授業で一緒だった人達から手紙が届いた。
今日はそれをゆっくり読み返そうとしていたのだ。
「あぁ……学園祭はごめんね」
「別にいいわ。それよりお詫び行脚よ。日程は決まったの?」
「あぁ。それなら三日後からやろうかと思ってる」
「そう。私も体調が許せば行くからね」
「うん。全力で守るよ」
「……何から?」
「シェリルが可愛いから拐われるかもしれないだろ?」
「……そうじゃないと思う」
きっとヘインズ家の身代金と引き換えにするために私を拐うんじゃないだろうか?
「市井は危険がいっぱいだから俺から離れないでね。それに騎士達も連れて行くから」
「騎士達も?」
「今回はお忍びじゃなくて領主として行くからね。明らかに貴族ですよってポーズも必要なんだよ」
「せっかくうちの領に来てくれた人達の邪魔にならない?」
「一応うちは侯爵家だよ? これくらいは演出しないとダメなんだ。それに来てくれた人はもの珍しく見る人が多いよ」
「そうなんだ……」
うちは田舎貴族だったから、一家で練り歩くなんてなかったけど。
皆変装して街に行ってたし。
割と自由だった田舎貴族と見栄も必要な都会貴族とでは、考え方が大分違う事を改めて知った。
食事も終わりフィランダーの部屋に行くと、ソファーに座る様促された。
「待ってて。今持ってくる」
フィランダーは机の引き出しに入っていた細長い長方形の箱を取り出し、それを持って私の隣に座った。
「これが新しいペンダントだよ」
箱を開いて私に見せると、そこにあったのはフィランダーの瞳の色に近い大きな雫型のペンダントだった。
フィランダーは私がつけている呪いのペンダントを外し、新しいものに交換した。
「これも俺の魔力じゃないと外れないからね!」
「……うん。知ってた」
「前より防御を強化したから、防御壁も簡単には崩れないからね。あとシェリルがどこにいるかが分かる探知機能付きだよ」
「……は?」
え……以前よりも厄介さが上がってない?
「それとシェリルに何かあったら俺に知らせがくる様になってるからね」
……もう何を驚いていいのか分からない。
「……結構凄いものなんじゃ……」
「まぁね。普通は王族が持つ魔道具かな」
「外して!!」
「だーめ。これくらいしなきゃ。ただでさえシェリルは魔力がなくて身体が弱いんだから。誰に狙われるか分からないでしょ」
くっ……反論出来ないのが……悔しい!
「そうだ。お詫び行脚の時に魔道具扱ってる商会にも行くから、その時に他の魔道具も見ようか」
「え? いいの?」
「うん。行くところには必ずお金も落とす予定なんだよね。シェリルに合う魔道具があれば買おう」
「それ……お詫び行脚じゃなくてデートじゃない?」
「お詫びだけじゃダメでしょ。利益になる事しなきゃね」
あぁ……そういう事。
散々迷惑かけておいてお詫びに謝るだけだと示しがつかないのか。
……お金を渡すよりも商品を買った方が商会としても良いもんね。
「分かりました。買いたいものがあったら買いましょう」
「シェリルには買いたいものは山程あるからね」
「……程々にね」
私はフィランダーの金銭感覚が少し心配になった。
フィランダーと別れ私の部屋に戻ると、早速届いた手紙を読む事にした。
返事を書くのが大変な量の手紙が私の机に積み上がっている。だけどこんなに来るとは思わなかったので、私は少しにやけながら手紙に手を伸ばした。
まずはステイシー。
彼女は学園祭の時に演舞を中心で舞ったそうだ。
「本来はシェリルが居るところだったんだよ」と言うがそれはステイシーの実力だろう。
王城の女騎士になると思っていたが、今回はあまり採用していないので辞めたそうだ。その代わり、ステイシーの家の騎士団に配属する事が決まった。家の方針で嫁に行かないのなら家のために働けと言われていたらしい。
次にエイダ。
彼女は家の手伝いをしながら婚約者探しをするそうだ。家計が安定している令嬢のほとんどはエイダの様な生活になる。本当は王城の文官になりたかったのだが、家計が危うい人の職を奪う訳にはいかないため辞めたのだそう。ただ、文官になる資格は取れたので、何かあればすぐに働けるとの事。
次はクルー先生だ。
私をきっかけにシランキオ人でも魔法学関係の教科について学ぶ許可が降りたそう。来年から始まるそうで、次に入学する予定の人達はちょっと焦っているのを聞いたらしい。シランキオ人は事前に勉強は難しいので場合によってはテナージャ人より甘い試験になるかもしれないと書いてあった。
それとこの事で私が恨みを買うかもしれないとクルー先生は示唆していた。
勉強嫌いなシランキオ人や一部のテナージャ人からやっかみを受けないか心配しているのだ。
……確かに。私には有益でも他はそうじゃなかったりするからなぁ……。
「どうかなさいましたか?」
「お顔の色が悪く見えますが……」
私を心配そうに見るのはネルとセリーナだった。ルースは部屋の外を守ってくれている。
「それが……来年からシランキオ人でも魔法学関係が学べる様になったそうなの」
「革命じゃないですか!」
「考えられなかった事ですね」
「でもね……」
私の顔色が悪くなった理由を告げると、二人の顔が真剣な表情になった。
「可能性はありますね」
「やっかみですか。可能性のある家を調べた方が良いですね」
「いや、そこまでは……まさかシランキオ人からもやっかまれると思わなかったわ」
「勉強嫌いなシランキオ人ているのですか?」
「いるよ。元々武人の国だからね。そういう家の人は大体頼りになる家臣がいるのよ。だから当主がお粗末でも領は安定しているところが多いの」
「なるほど。だから安定しているのですね」
「不安になる事が増えちゃった……」
「何かあれば私達が全力で守ります」
「ご安心を」
それでも私の胸には不安の種が残ったままだった。




