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08 お詫び行脚当日







 全ての手紙の返事を書いてその日は終わり、あっという間にお詫び行脚の日になった。


 この日の体調は万全だったため、私も行く事に。


「似合ってるよ、シェリル」


 褒めたのは次期当主として隙のない貴族然とした格好のフィランダー。


「……どうも」


 私は用意してあった水色の訪問着を身につけていた。

 そんな私はフィランダーを見た瞬間に思った。

 「この人の隣に立ちたくない」と。


「シェリル様、お綺麗です」

「とても可愛らしいですよ」


 ネルとセリーナが褒め倒すが私にはそれが苦痛だった。


「……フィランダーの隣じゃなきゃダメ?」


 私の言葉に周りは一瞬凍りつく。


「ダメ! 俺の隣じゃなきゃ絶対ダメ!! シェリル~、俺のどこが悪い?」

「貴方じゃなくて私がダメなの。……隣にいると夫婦じゃなくて兄妹じゃない」


 ……似てないけど。


「シェリル様。お気持ちは分かりますけど耐えてください。私達がしっかりシェリル様をお守ります」


 そう言ったのはルースだった。

 今日の彼女は私の侍女ではなく、護衛騎士として行動してくれることになっている。身に纏う団服姿がカッコ良い。


「何かあったらよろしくね。ルース」

「はい。お任せください」

「……シェリル? 俺が隣で守るからそんな心配……」

「さぁ。馬車の用意が出来た様です。こちらへ」


 そう言ってルースは私に手を差し伸べる。


「ルースが王子みたいね」


 私はその手に自分の手を重ねた。


「シェ……シェリル?」


 フィランダーを置いて私とルースは馬車の方へと向かった。







 領都には私とフィランダー、トミー、ルース、そして騎士団で行く事になった。

 騎士団は私達が乗っている馬車を仰々しく守りながら領都へと進む。


「二人きりが良かったなぁ……」

「どんな危険があるか分かりませんから」

「私は四人でホッとしてる」

「シェリル!?」

「ですよね。四人の方が楽しいですよね」


 楽しそうに言うのはトミーだ。


「今日はトミーも団服なの?」

「えぇ。今日は僕も護衛ですから」

「二人ともかっこいいね。もしかしてそっちの服の方が落ち着く?」

「僕はいつもの方が良いですね。いつもは剣を帯刀してませんし」

「私はこの方が落ち着きます。出来ればいつもが良いです」

「だって。フィランダー、彼女を正式に私の女騎士として働く許可が欲しいのだけど?」

「うーん……考えたんだけど、使用人としての方が周りが油断してくれるんじゃないかと思って……」

「なら……ナイフとか……武器の携帯は?」

「それは侍女全員に許可しているよ」

「……は?」


 待って。ヘインズ家の侍女はいつも武器を携帯してるの!?


「シェリルが襲われてからはあった方が良いと思って許可したんだよ。ルース。申し訳ないけど女騎士は保留で。侍女として頑張って欲しい」

「……はい」

「それよりシェリルも作る? 団服」

「え? ……今鍛錬用に使ってるのがあるから良いよ。……まだ破れてないし」


 その言葉に三人が固まった。


「破れるまで着る気ですか?」

「え……ダメなの?」

「シェリル様は物持ち良いですから、気持ちは分かりますが……」

「シェリル。俺も気にしてなかったけど……あの鍛錬用の服、いつから着てるの?」

「学園入学の時に仕立ててもらったから……三年目?」

「三年だと……ギリか」

「そろそろ変える事をお勧めします。いざという時、服が破れたら洒落になりません。騎士団でも制服は長く着ても三年で取り替えると聞いております」

「シェリル。鍛練用の服作ろうね」

「えー……出費」

「「「必要経費です」」」


 三人の真剣な顔に、私は苦笑いを浮かべた。






 そんな事を話している間に街へと到着した。来た時と変わらず大きな道幅に驚く。


「王都と勘違いするなぁ……」

「そうでしょうね。私も王都に初めて行った時に驚きましたし、ここに来ても同じだったので、都会ではこの道幅が常識なのかと思いました」

「他の領ではあまり見られないけど……栄えているところでは見れるかもね」

「フィランダーは他の領に行った事あるの?」

「主にテナージャ系の領だけどね。職人達を探す時に」

「あぁ。言ってたね」


 フィランダーはこの地を栄えさせるために、各地で不当な扱いを受けていたテナージャ人の職人達を集めたのだ。


「私は王都と自領だけしか知らないなぁ。他の領ってヘインズ領以外見た事がない」

「それは……」

「身体が弱いからね。遠出は王都しかないよ。結局お母様の実家にも行けなかったし。うちの領にも街はあるけど、ここまで栄えてないから楽しみで……あ、今日はお詫び行脚だった」

「シェリルは楽しんで良いんじゃ……」

「一応貴方の妻ですから」

「……俺の妻が可愛過ぎるんだけど」

「それについては同意です」


 全員がうなずくのを見て、私は子ども扱いされていないか一瞬疑う。

 モヤっとした気分を切り替えるため、窓の外に目線を移した。







 それにしても、女性達が浮き足立っているのが馬車の窓から見ても分かる。

 馬車を降りる時にフィランダーが出て来た後に私が出たら、どんな反応をするのだろう。


「シェリル?」

「ん?」

「大丈夫? 緊張してるみたいだけど」

「……まぁ」

「シェリル様。女性達が睨んでいたら、私が睨み返しますから安心してください」

「ルースが?」

「はい。さっきから色めきだってる女が多いので、牽制しなければ」

「あぁ。俺の愛人になりたいなんて言ってる人、まだ居るんだっけ?」

「居ますよ~。若が『遊び人』だった影響ですねぇ」


 ルースの言葉にフィランダーの顔が苦いものに変わる。


「……『遊び人』になる前にシェリルに会いたかった」

「最初から『遊び人』にならなければ済んだ話ですよぉ」

「私もそう思う」

「自業自得ですね」


 しゅんと肩を落としたフィランダーはうつむきながら「すみません」とこぼした。





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