05 本音
使用人視点です。
まずはネルがユーインと付き合うきっかけになった出来事を話し始めた。
「私はユーインの仕事ぶりに惚れまして……。彼は周りから出自の事を言われてもそれを跳ね除ける努力をしていました。そんなところに惹かれたのです」
ネルの言葉にシェリルは両手を口元に持って来て「キャー」と言うのを抑える仕草をする。
「ユーインがスラムの出というのは?」
「え……知らない。そうとは思えないけど……」
「実はスラム街の出身なのです。彼は以前いた使用人達から煙たがれていました」
そう言うとシェリルは悲しい顔に変わった。
「すると日に日に所作が洗練され、以前とは見違える様な彼がそこに居たのです。嫌味を言っていた使用人達が嫉妬する程でした」
「頑張ったんだね、ユーイン」
「はい。それどころか、私達のフォローまでしてくれる様になって……。一緒に仕事する機会も増えて……気づいたら恋人になっていました」
「素敵ぃ~!!」
「結婚はもうすぐと考えてたのですが、踏ん切りがつかなくて……そしたら若に急かされたので、ちょうどよかったのですよ。シェリル様のお陰ですね」
「それはたまたまだと思う」
シェリルは冷静に返した。
「セリーナは?」
「……どうもバーナビーは私を捕まえた時から気になっていたらしくて……」
「え!?」
「でも私は怖い人というイメージがついてしまって……距離を置いていたんです」
「あー……捕まえられたら怖いよね」
「はい。それで休日、領都を食べ歩いていたら、ばったりバーナビーに会ったのです。最初は気まずかったのですが、食の好みが合いまして一緒に食べ歩こうと誘われてからだんだん頼りになる男に変わって……」
「付き合う事に?」
コクリとうなづくセリーナが照れた顔で答えた。
「出会いは最悪だったけど、結果的には良かったんだね」
「はい。見た目で決めてはダメだと思いました」
「うっ……胸に刺さった」
「若は一度懐に入れればお優しい人ですよ」
セリーナの言葉にシェリルは複雑といった顔になった。
「ルースは?」
「私は餌付けされました」
「餌付け?」
「はい。お腹が空いて、たまに調理場に行っていたのですよ。何か余ってるものがないかなと思って。そしたらニールがわざわざ作ってくれて……それがとても美味しくって毎日通ってました」
「うん。分かる。美味しいもんね」
「はい。でも私が貰ってばかりでだんだん申し訳なくなっちゃって……通うのをやめたのです。そしたらニールとたまたま庭で出くわしまして。申し訳ない気持ちを伝えたら、ニールが欲しいものがあるといって……その……キスを……」
これはネルとセリーナも知らなかった様で三人で「キャー!」と声を上げた。
「そ……そんな事が……!!」
「ニールが一番肉食系だったなんて……」
「今まで聞いた中で一番雄々しいね」
「ルース。突然そんな事されて突き飛ばさなかったの?」
「……何が起こったのか分からず固まっちゃいました。……今冷静に考えてみれば好きな相手からだったから良かったのですね。嫌いな人からだったら叩きのめしてるところでした」
「良かったね。好きな人からで」
私達の言葉を聞いてルースの顔がさらに真っ赤に変わる。
「もう終わりです! シェ……シェリル様も若様とキスなさったのでしょう? どうでした?」
「えぇ!? ……ん~……なんか気絶させる気かって感じだった様な……」
「そ……そんな激しかったのです?」
侍女達は二人の結婚式の事を思い出したが、そんな様子には見えなかった。
「閨の時だったから……」
「あ、あの時の」と三人の侍女達は顔を赤らめる。
「私、閨教育って受けないまま嫁いじゃったから、不安な気持ちの方が強くて……」
「え……お母様から……お手紙は?」
「なかったわ。多分急過ぎてその事を忘れたか、書いても……もしその手紙がどこかへ行ってしまったら家の恥になるもの」
「それも……そうですね」
「だから……目が覚めた時にせめて横にいて頭撫でて欲しかったの」
何気なく言ったシェリルの言葉に侍女達は頬を染めた。
「……きゃー!! それ!! それですよ!! それ!!」
「あるじゃないですか! して欲しい事!」
「分かります。分かりますよ。愛されてるって感じしますよね?」
照れた様子のシェリルはコクリと頭をうつむき気味にうなずいた。
「でも、実際はそうならなかったじゃない? だから思っちゃったのよ。珍しい真っ平らな身体をつまみ食いしたかっただけだって」
侍女達の耳にピシッという音がどこかから聞こえた気がした。
「……それは……違うと思います」
「そもそもシェリル様の目覚めを待てなかったのは、領主館で働いていた幹部達の暴走を止めるためでしたから」
「放置しておいたらお二人の寝室にも入ってくる勢いだったそうですよ」
ルースは若干誇張して言ったが、あながち間違ってはいない。
「それも聞いているけど……初夜の時の記憶はもう曖昧だし……実感ないの」
「熱でそれどころではなかったですからね」
「そうなの。……それに結局男女の愛ってものに私は臆病なのよ」
「臆病?」
「フィランダーって、色んな女性と関係を持っていた事は私でも知ってるから……もし、フィランダーと一度でも関係を持った女性は私を見て笑うでしょうね。私の貧相な身体と美形では無い顔を笑って、自分は優越感に浸るはずよ。『私との方が絶対楽しめる。貴女はお飾り』なんて言われそうだもの」
シェリルの言葉に侍女達は少し同情してしまった。
若が当時付き合っていた女性達は大体節度がある人ばかりだが、関係を持った女性達は別だ。どうしても欲しい情報があった時にはその行為も致し方ないと応じていた事も知っている。そんな女性達は自分の美貌と身体に自信を持っていた事も侍女達は伝え聞いていた。
「そんな言葉気にしませんっていう強い女性だったら良かったんだけど……残念ながら私は口では平気って言っていても、身体に出ちゃうのよね」
「仕方ありませんよ。ただでさえシェリル様はお身体が弱いですし……普通の女性でも体調崩しますよ」
「……若の隣って、かなり身体に負担が掛かることを今更把握しました」
「確かに、私だったら若の隣はごめんですね」
「でしょ! やっと分かってくれた……」
「テナージャの女って貴族もですが平民にもたまにそういう人がおりますから……」
「ちょっと。私もテナージャ人なんだけど?」
「ネルはシェリル様の侍女だもの。別よ別!」
「そうね。ネルは別ね」
「ありがとうございます、シェリル様!」
「それにテナージャ人だけじゃなくてシランキオ人も同じ様なものよ。特に貴族の女性は容姿を気にするから……」
「それでは……気が休まりませんね」
「私は穏やかに生きたいだけなのに……」
「よく分かります。……若の隣は想像しただけでも気疲れしそうですから」
部屋にいた全員がため息をついて、お茶会は終了した。




