26 庭師
注意
作者はバラが嫌いな訳ではありません。
その理由は読めば分かります。
ロマンティックなのが好きな人は「酷い!」と思うかも知れません。
注意してお読みください。
「気にしてなかったけど、バラしかないの?」
そういえばここに初めて来た時、王城の庭みたいって思ったっけ。
王城の庭と言えば、綺麗なバラが常に咲き誇る庭園だ。その見事さに女性達を常に魅了している。バラは一種類につき一ヶ月程しか咲かないのだが、上手くずらしていつでも見れる様にしてある。その時々にバラの種類が変わるため、いつ来てもまた違うバラが楽しめると人気なのだ。
この庭園に憧れを持つ女性達は多く、フィランダーの妹であるイーディスも恐らくその一人だろう。
「えぇ。綺麗ではあるのですが、維持が大変で……夫も困っておりました」
「バーナビーが?」
「はい。一応庭師長ですから」
バーナビーとはセリーナの夫で庭師長の大柄な男の事。
ツンツン頭の茶色の髪に、切れ長の茶色の瞳のワイルドな美形の男だった。背も屋敷の中では一番高くてがっしりとした体格だ。
聞けば以前は冒険者をやっていたという。
「今から会える?」
「なら、ちょうどそこで働いているので、行きましょうか」
セリーナに着いて行くと、屈強そうな男達がせっせとバラの世話をしていた。
「おう。どうした?」
そう言ったのは私達が近づくのに真っ先に気づいたバーナビーだった。
私に対しても気さくな口調なのはいちいち敬語に直して話していると日が暮れるので、いつもの口調で良いと私が許可をしたから。
「散歩のついでに寄ったの。セリーナからバラの話を聞いてね」
「これだな。……綺麗なんだが、世話がなぁ……」
今、バーナビーが世話をしているのは赤いバラだった。
「バラって確か……害虫がわくのよね。それによく病気にもなるって聞いた事がある」
「よく知ってるなぁ。だから大変なんだよ」
うんざりしているらしく、小さくため息をつく姿がなんだか疲れを感じる。
「……バーナビー。ちょっと聞いて良い?」
「ん? なんだ」
「ここの庭師って騎士団の仕事もしているんでしょ? それなのにバラの世話もしなきゃならないし……それにフィランダーの事だから、それ以外の仕事もこなしているんじゃない?」
私の質問に周りの空気が変わった。バーナビーは真剣な目になり私に問い返す。
「……どうしてそう思う?」
「最近私が庭を歩いているのは知っているでしょう?」
「あぁ。若から聞いてるからな」
「たまに遠目で貴方達が仕事をしているところを見ていたのだけど……たまたま二人だけで作業している時もあったのよね。……もしかして、騎士団としての活動かなとも思ったのだけど……か……」
「それ以上言うな」
冷えた目で見下ろすバーナビーに、私はこの話が正解であると確信した。
「やっぱりね。そっちの仕事も受け持っていたの」
「……はぁ。気づかなきゃ良いのに……」
「なら、かなりの重労働よね」
「俺は一応元冒険者だぞ? 体力には自信がある。庭師の奴はほとんどが元冒険者だ。心配いらねぇよ」
「でも、今は平気でもあとで響く事もあるわ。それにバラの世話なんて辞めたいでしょ」
「そりゃあ……」
げっそりしているバーナビー。周りの庭師も作業は止めないが同じ表情だ。これは改善しないと不味い。
「まず、どうしてバラばかり植えてあるの?」
「それは確か……イーディス様のわがままで『王城の庭園みたいにしろ』って前任の庭師達に言ったんだよな。……あ」
またイーディス様か。
「もう居ないわよね。イーディス様は」
「……だな」
「それ以前は何が植えてあったか分かる?」
するとバーナビーはバツの悪い顔を浮かべる。
「……俺が来た時はもうバラだったんだよな。だから詳しくは分からんが……主にヘインズ領に咲く花が植えられてたと言ってた様な……」
「そうだったのね。……てっきり王女様が輿入れした家だからかと」
「その王女様はバラは少しで良いって言ってたそうだぞ」
「なら、バラは少し残して、世話がしやすい自領の花を選定しましょうか」
「色は?」
「色……」
「統一感とかあるだろう。色で統一するのか花の種類で統一するのかで庭の雰囲気も変わるしな」
「そんな事まで考えなきゃいけないのか……知らなかった」
「話を挟んで申し訳ございませんが……」
そう言ったのはネルだ。
「このヘインズ家は水の精霊に好かれているとされる家系でございます」
「水……あぁ。フィランダーも水魔法だもんね」
「そうです。代々水魔法を持つ当主が多いため、そう言われているのですよ。なので青系統の色は欠かせないかと」
「青……青い花か。水色とか?」
「はい。何かしらあった方が良いかと」
「そっか。バーナビー」
「よし。まず青系統で育てやすい花を探して見るか」
「仕事増えちゃうけどお願い出来る?」
「あとで楽するためなら喜んで」
「まだバラは抜かないでよ」
「抜かねぇよ」
念のため庭の改造をフィランダーにも報告すると、許可が出たためそのまま進めてもらう事に。
数日後。本当に嬉しかったのか、バーナビーは割とすぐに花の選定をしてきた。
今、私の部屋のソファーには私とバーナビーが対面に座り、机とにらめっこしていた。
「数日ほっといても良さそうな花を選定してみた。なるべく華やかな花にしたんだが……」
「それでも多い……」
机の上にはバーナビーが調べてくれた花の書類がドンと置かれていた。一枚に一つの花の情報が掲載されている。絵もついているのでとても見やすかった。
これを見ると、ヘインズ領には青系の花が多い様だ。
「この辺りの気候は?」
「雪は滅多に降らねぇな。冬でも薄いコートを羽織るくらいですむ」
「そう。……これなら通年楽しめそうね」
「そうなんだよ。青でまとめてもいいんだが、今度は暗くなる気もしてな」
「あー……」
確かに青でまとめるのは綺麗ではある。しかし暗く感じてしまうのは良くない。
「青と相性が良いのは……黄色とか紫……あと桃? でも白も欲しい」
「女が好むのは桃だな。白は必ず入れたい」
「そうだよね。外せないよね」
「同じ様な雰囲気の色にするなら青、白、紫、桃でまとめるのが良いか」
「うん。それで良いと思う。あとバラなんだけど、見えないところに移動する?」
「あぁ……そうだな。世話が面倒だし」
うまく庭に取り込めればとも思ったが、数日放置する間にしおれていても困る。
「ならプライベートスペースに植えましょうか。そこで新人の庭師さんに育ててもらうとか」
「それ良いな。良い研修になる」
育て方を学ぶのにはバラは最適な素材だろう。育てにくいというのもそうだが、花が病気になった時や害虫が出た時はどう対処すべきかなどが、一気に学べて一石二鳥だ。
「けど全部って訳にはいかんだろう。残りのバラはどうする?」
バーナビーの問いに、私は自分の中の悪魔の囁きを口にした。
「……今考えてるのは、イーディス様に送りつけるか……売っちゃうのは……ダメ?」
するとバーナビーはニヤリと笑う。
「金にもなるし、その金で新たな植物を集められるな」
「節約したいのなら……アリよね?」
「若に相談して見るか」
互いにニヤリと笑うと、バーナビーは私に背中に乗れと指示。私は躊躇したが早く執務室に行きたい気持ちを抑えきれずその提案に乗ってしまった。侍女三人が顔を青くする中、凄い勢いであっという間に執務室に到着。
私はバーナビーの背に乗っているのを忘れ、二人で意気揚々と執務室に入ると、フィランダーが持っていた書類を床に落とした。
私がバーナビーの背中に乗っていた事にフィランダーが激怒し、しばらく二人で怒られたのはいうまでもない。
注意
作者はバラが嫌いな訳ではありません。(二度目)
特に好きな花って訳でもありませんが。
たまたま物語の関係上、多くのバラの世話をするには大変という事でこの結果に。
バラがデリケートというのはこの話を書く時に知りました。調べたら育てやすいバラもあるみたいですよ!
バーナビーは使用人ですが「侯爵家」のという自覚は薄いです。
そのためこんな行動に出てしまいました。
登場人物紹介
名前 バーナビー
所属 ヘインズ家
年齢 30歳
容姿
・髪 ツンツン頭の茶髪
・瞳 茶
・体型 がっしりマッチョ
・顔 切れ長の目 美形
・身長 195cm
魔法 土魔法 高




