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25 提案




 私の提案を聞く前に、まずはお茶を頂く事になった。フィランダーがあまりにも動揺してしまったのを見かねたトミーが、率先してお茶を用意してくれたのだ。


「シェリル様、どうぞ」


 出してくれたお茶は、ネルやセリーナが出してくれるのと同じくらい美味しいものだった。


「美味しい。ありがとう、トミー」

「お口に合って良かったです」


 嬉しそうに微笑む顔はまるで少年の様。しかし彼は私より年上の侍従。自分の専売特許を活かして主人を落ち着かせる時間を作ったのだ。


 目の前に座っているフィランダーを見ると、お茶を飲んで少し落ち着いた様子。このお茶は鎮静作用もある事は私でも知っている。またこのお茶は持って来たお菓子にとても合っていた。


 「トミー、さすが!」と心の中で彼に拍手を送った。







 お菓子も食べ終えたところで、やっと本題に入る。


「それで私の提案なのだけど、どうかしら?」

「……正直今、クリフを影に移したくないんだ。執事が少ない」

「どうしてか教えてくれる?」


 真面目な顔になったフィランダーが事情を教えてくれた。


 先程ちらっとネルから聞いたが、私が倒れた日、とんでもない違反を犯そうとした領館の幹部達を拘束し自宅待機にしたそう。

 今まで見て見ぬ振りをしていた微々たる横領も、歴とした横領事件として明るみに出たため、幹部達やそれに関わる職員を解雇し、横領した分の金を戻してもらい自領へ帰ってもらったのだと言う。


 それで領館の仕事は落ち着いたのだけど、今度は人手不足になってしまった。特にフィランダーの仕事が増え、執事達に手伝ってもらわないと手が回らないと言う。


「あのね。聞こうと思っていたのだけど、フィランダーはいつまで見目の麗しい人しか採用しないの?」


 私の言葉に一瞬戸惑うも、すぐに私が言いたい事に気づいてくれた。


「あ……そっか。もうイーディスは居ないんだった」

「そうよ。妹様はもうヘインズ侯爵家の人間ではないでしょう? 以前、貴方言ってたじゃない。今こそ、下でくすぶっている人達を採用すべきだと思わない?」








 私が言っているのは今、下男下女の人達の事だ。彼らの中には侍女や執事として雇おうと思っていた人もいる。しかしイーディスに阻まれ、見目麗しい者しか採用出来なかった。

 しかし今は別だ。もうヘインズ家にイーディスは居ない。


「すっかり忘れてた……彼らを執事にすれば……」

「クリフは影の方が合っていたみたいだからそちらに変えて、執事は下男とか他の職種に就いていた人から採用すれば良いのよ。信用に値する人達なのでしょう?」


 フィランダーは黙ってうなずいた。


「俺が集めた人達だ。邪魔な奴らが居なくなったから、金もあるし……うん。これならクリフを影に戻しても良い」

「もし今度は下男下女が不足したら、その仕事を委託するというのはどう?」

「委託?」

「領民の手を借りるの。アストリー領の話だけど、たまに領民の手を借りる事があるのよ。もちろん手当も出すから、領民達は臨時収入を得れるとあって快く引き受けてくれるの」

「そんな事が……」

「うちはここと違って田舎だからね」


 田舎だからなのかは分からないが、アストリー領は領民との領主の距離が近かった。なので「何かあったらお互い様精神」が強い。


 それをここでも出来たらと思うのだけれど……。


 ちらりとフィランダーの顔を見ると、目を見開き口は笑みを浮かべていた。


「良いかもしれない。……これを機にやりたかった仕事を使用人達に聞いて見るか。どう思う? ユーイン」

「良い提案かと。ただ、偏らないかが心配ですが……」

「それは調整次第だろう。ありがとうシェリル。新たに採用しようか迷っていたんだ」

「お役に立てた様で良かった。クリフ。これで良いかしら?」

「す……凄いです、シェリル様。無理だと思ってました」

「私が出来るのはここまでよ。あとは自分次第。頑張ってね」

「……はい!」


 困り眉にならず嬉しそうな笑みで答えるクリフに、私は彼の本当の素顔を見た気がした。


 その後、クリフだけでなく多くの使用人が希望の職種に就けたという。






 ※


 その光景を見ていたユーイン、トミー、フィランダーは唖然としていた。


「シェリル様って……」

「既にうちを掌握してない?」

「さすがシェリル。……美しい」


 骨抜きになった主人に呆れながらも、良い方を娶ってくれたと二人は自然と笑顔になった。



 ※







 次に私が始めたのはとにかく歩く事だった。

 執務室への散歩が思ったよりショックであれから毎日欠かさず歩いている。

 特にベッドに寝っぱなしだったため日の光を浴びていない。なので外を散歩するのが日課になっていた。

 ワンピースに上着を羽織って侍女達と外を歩く。秋だからか少しだけ肌寒く感じる。


「もうそろそろ剣舞もしたいなぁ……」

「あ、そういえば剣も使えるんでしたっけ?」


 嬉しそうにいうのは侍女兼護衛のルースだ。


「うん、ルース。剣舞が舞えるなら一緒にやらない?」

「え? 良いんですか?」

「楽しみです。確か以前シェリル様は剣舞で魅了したとか」

「魅了はしてないと思う。魔法使えないし」

「そういう意味では……素晴らしい舞だったと聞いているのです」

「私は普通だと思うけどね。……またフィランダーに許可貰わなきゃいけないのか」


 小さくため息をつくと、セリーナが苦笑した。


「それは当然ですよ」

「それに……私、女主人としての仕事、一個もしてないのよね」


 「ただ散歩しているだけで良いのだろうか?」という気持ちに何回なった事か。しかしネルはやらないでいいという。

 

「しばらくはいいと思います。シェリル様の場合はまずこの土地に慣れて頂く事が重要ですから」

「覚える事がたくさんあるよね。庭は豪華だから、変えないで良いと思うけど……」

「いえ……それが、バラが多いのですが、バラは病気や害虫が多いので、手入れが大変なのです」


 セリーナの言葉に辺りをぐるっと見渡すと、ほとんどがバラだった。





クリフの役職がコロコロ変わるので、一応下に載せておきます。


登場人物紹介


名前 クリフ

所属 平民 ヘインズ家影

年齢 20歳

容姿

・髪 ストレートな紫

・瞳 水色

・体型 中肉中背 細マッチョ

・顔 困り顔 美形 一重

・身長 180cm

魔法 闇魔法 中


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