27 頼もしい領主夫人
私とバーナビーの提案はもっとよく話を詰めた結果、採用された。バラを売るというのが良かった様であとでオークションに出品する事に。オークションで金を得てから徐々に庭を改造していく運びとなった。
一部のバラはイーディス様に送ると言っていたけど……絶対怒られるよね。……仲良くなる気がないからいっか。
それに関してはもう現実逃避する事にした。
「シェリル。庭の改造の件は助かったけど……もう気軽にバーナビーの背中には乗らない事。いいね?」
「……はい」
「背中なら俺のがあるじゃないか。さぁシェリル、俺の背中に乗ってくれ!」
「……どうして寝室で乗らなきゃいけないの?」
ここは夫婦の寝室。まだ本調子ではない私は、添い寝という形でフィランダーと一緒に寝る事を許可していた。しかし今、私はフィランダーの背中に乗る事を強要されている。
「バーナビーには乗った癖に!」
「あの時は移動手段として使ったのよ。私がトロいのを見越した上でやってくれたの。……私だって二度としたくないわ」
「そんな……」
「じゃあ私が乗ったら、何かしてくれる?」
「何か?」
「例えば……私の願いを叶えるとか」
「いいよ」
「なら、そろそろ剣舞を再開したいの。場所と木剣を用意して欲しいのだけど……ダメ?」
「いいよ。その剣舞を俺に最初に見せてくれれば」
「なら都合の良い時を事前に教えて。服も剣舞用のを用意しなきゃいけないし」
「分かった。調整するよ。だからはい! 乗って!」
私は渋々フィランダーの背に乗っかった。
「どう? 満足?」
「……バーナビーが君の足を服越しに触ったのが許せなくなった」
その発言に私は全力で引いた。
「変態! 下ろして!」
「嫌だ! まだ堪能してない」
「もう! 恥ずかしいから下ろして!」
散々喚いたがなかなか下ろしてもらえず、ようやく下ろされホッとしてると今度はなぜかお姫様抱っこをしてきた。
「なんで!?」
「そういえばやってなかったなぁって。誰かに先越される前にやっておこうと」
「下ーろーしーて!」
手足をばたつかせると、フィランダーは苦笑してたが嬉しそうに私をどこかへと運ぶ。
「もう下ろすよ」
そう言ってフィランダーはベッドに私を下ろした。
「はぁ……なんか疲れた……」
「回復だね。任せて」
突然私の身体が水に包まれる。この光景にも慣れてしまった。ある一定時間包まれたら水がポンポン弾けて消える。
「どう?」
「……ちょっと疲れがとれた」
「良かった」
嬉しそうにいうフィランダーに、気になっていた事を質問をしてみた。
「……ねぇ。フィランダー。あのバラって、まさか王家から貰い受けたものじゃ……ないよね?」
実はバラを売ると言った手前、もしそれが王家から貰い受けたものだったらどうしようという気持ちに襲われたのだ。
「違うよ。俺もバラを集めるの手伝ったから、それは違うってはっきり言える。あれは領内各地にあったバラをかき集めたものだ。王家は関係ないよ。……もしかして、ずっと気になってた?」
「売るって言ったけど、まさかオークションに出すとは思わなかったから……」
そこで「王家のものじゃないか?」と指摘されると、ヘインズ家がお咎めを受ける可能性がある。
「王家のバラはね、特徴があるんだよ。普通のバラより何枚も多いんだ。うちのバラはただのバラだよ。ただし、オークションでは『ヘインズ侯爵家由来のバラ』として出す予定だけどね」
「……それ、言って良いの?」
「ヘインズ侯爵邸で育てたバラには変わりないからね」
ふっと笑うフィランダーは貴族の男らしい顔をしている。
「さっ! 寝よっか」
すぐに切り替わった顔はだらしない男の顔だった。
二日後。
フィランダーの日程が空き、今日剣舞を披露する事になった。
練習場までは私とフィランダー、ネル、セリーナ、ルース、ユーイン、トミー。それとなぜかバーナビーまで一緒に来る事になった。
「どうしてバーナビーが居るの?」
「剣舞を披露するんだろ? 俺も見たかったから」
「仕事は?」
「ヘーキヘーキ」
会場は邸の中から行けるそうなのだが、今回は散歩がてら外から行く事になった。「シェリルにも覚えて欲しいし」というのが理由だそう。
私達は邸の玄関から会場へ向かった。
普通に歩けば十分で着くところだそうだ。
「改めて思うけど、ここ広いわね」
王城よりはマシかもしれないが、小さい王城という感じだ。
「アストリー領も広いよね?」
「……土地だけね。うちは領主館込みでヘインズ侯爵邸くらいなの。知ってるでしょ? こんなに移動に時間がかからないんだから」
田舎だから土地はあっただけ。建物を見ると、うちの方が遥かに貧相だった。
「ごめん。馬を用意した方が良かった? それとも馬車?」
普通の令嬢なら用意しても良いくらいの距離だ。しかしそれは広いという事を強調している様に聞こえる。
「……それって嫌味?」
「え……」
「ごめん、黙ってて」
「え!?」
動揺したじろぐフィランダーを私の侍女達が抑え、私は少し早めに歩いてフィランダーを置いて行く。
するとユーインとトミーが謝りに来た。その後ろにはバーナビーもいる。
今私は一人なため、恐らく私の侍女達の代わりなのだろうが、なんだか美形に挟まれると両手に花な気分……いや、自分が余計惨めになるだけかもしれない。
「申し訳ございません。悪気はないのですが……」
「タチが悪いですよねぇ~」
「……昔からそうなの?」
「いえ……私はお小さい時の事は存じ上げないので……」
オレンジ頭を揺らすユーインに私は尋ねる。
「ユーインは代々仕えてるって訳じゃないんだ」
「左様でございます」
「僕の家は代々仕えてますよ~」
「それは聞いた。ジェレミーに会ったし……代々仕えている家の人って皆、水魔法使いなの?」
ネルもそうだし、トミーも水属性の特徴が強い。
「そうですねぇ~、たまたま? 気にした事ありませんでしたね」
「代々仕えている人で違う属性の魔法を持ってる人っていなかったの?」
「居ないんですよね。でももしそんな人がいても、仲良くしてましたよ? いじめたりしません。そんな事したら若が怒るし」
「へぇー……テナージャ人では珍しい」
「あ……この言葉は差別かな?」と思ったがトミーは気にしてない様だ。
「そうかもしれないですねぇ。だから使用人同士、仲が良いんですよ。僕はこの雰囲気が好きですね。ところでシェリル様。新聞に載りましたね。『精霊に祝福された次期領主夫婦』って」
「……貴方のお兄様が書いたのでしょう?」
目を輝かせながら一心不乱にメモをとっていた事は結婚式の中でも目立っていた。
「凄かったですから~あの光景。祝福って言ってもシェリル様は全属性の精霊様からですからね。普通大体一種類の精霊様からだけなのですよ? 雨が降るだけでも珍しいのに……もう凄すぎます」
「まぁ……事情を知らない私でも異常な光景だとは思ったけど……」
「シランキオ人で祝福を受けた初めての女性って言われているのですよ?」
「はぁ? 私が」
「はい。だから自信持ってくださいね。使用人の間では、もうすでに頼もしい領主夫人として認めてるんですから」
「私何もしてないよ?」
「無自覚ですか。十分役立ってるんですよ?」
そんな事言われてもピンとこない自分がいた。
まだトミーの話し方が安定していなくてすみません。
ちなみにシェリルとフィランダーのいちゃつきシーンはここで終わりです。
出来ればもっと入れたかったんですけどね。




