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「・・・ナミ。わしらにもようよう運が回ってきたぞ」
優の話を聞き終わるなり、ナギが不気味な笑みを浮かべてそう言った。ナミはきょとんとしていたが、乗っかったほうがいいと思ったらしい。兄の顔を真似はじめた。
「まさかまさか、錬金術師を引き当てるとは。窮すれば通ずとはこの事よ。お前を両神に引き渡せば、儂らは罪を赦されて再び迎え入れられるはず」
ナギは立ち上がり、腰に手をあててカラカラと笑い始めた。遅れてナギもそれを真似る。
優は一瞬で青くなった。
「だ・・・だましたな!!」
その言葉を聞くなり、ナギは笑うのをやめて失望の表情を浮かべた。
「・・・なんと詰まらぬ台詞よ。もう少し工夫せい」
彼はフンと鼻を鳴らすと、座布団の上に座りなおして新しい菓子パンの袋を開き、中身にかぶりついた。
「冗談よ。廻姉のおらぬ、あんなむさい所になど戻りとうないわ。まして手下を標的のいない死地へ送り込む無能の元でなど、働きとうない」
ナミもうなずきながら腰を下ろす。
優は、どう思ってよいやら困惑している。嘘にしてもあまりに質が悪い。
「冗談だと言うておろうが。まったく肝の小さい奴だ。まず最初に言うておく。その「忘却の鉄槌」とやらは、訓練には役立つやもしれんが根本解決にはならん。その道具は、殴られた者に呪いをかける物で間違いない。お前が死んだら効果が消えたのが証拠よ」
呪い。そういえばつららも似たことを言っていた。
「呪いによって能力が一時的に強まったり弱まったりしているに過ぎん。強者にとって、呪いを解くだのかけるだのは呼吸のような事。対峙した瞬間に元に戻されるわ」
あからさまに落胆した優を、ナギは不思議なものを見るような目で見る。
「・・・それにしてもお前、自分が何者で、どんな能力を持っておるのか分かっておるのか?」
優はまだ困惑から抜け出せぬまま、とりあえずその問いに答える。
「役に立たないものばかり作れる、ダメな奴だと思ってる。僕らしいといえばそうだけど」
ナギは盛大にため息をついた。
「猫に小判、いや、豚に真珠とはこの事だ。お前は自分の力の有り難みが皆目分かっとらん。ガラクタから神のごとき力を持つ物を創り上げる事ができるではないか。破壊ばかりの力とは格が違う」
なんで豚で言い直すんだよ・・・不満を抑えつつ、優は思い返す。・・・神の力とは程遠い。むしろ道化の気まぐれのような物ばかりだった。
「それは力の使い方があまりにも下手だからよ。話を聞いておると、お前の道具は必ず何がしかの対価を要求しておる。作る手間であったり、自らの能力そのものであったり、不便さであったり」
確かにそうだ。どちらかと言えばデメリットの印象の方が強いくらいだ。
「本来ならばそんな代償は不要なはずなのだ。あの道志の連中を思い出してみよ。気合いだけで稲妻を発するのだぞ?そこに対価もクソもないわ」
「でも、作ったら嫌でもそうなっちゃうんだけど」
「お前が己れを信じておらんからよ」
ナギは二つ目のパンを食べ終わると、袋を畳んで合掌した。ナミもそれに続く。
二人はテレビに向き直り、再び流れる映像を眺め始めた。
「・・・いいか、石に立つ矢だ。一点の曇りなく信ずれば、その者にとってそれは真実なのだ。お前は己れの力を疑っておる。だから、奇跡には対価が必要であると思い込むのだ」
あまりにも思い当たる言葉だった。だが対価もなしに奇跡を成し遂げるなど、インチキではないか。
「インチキよ。儂らのように自らの命を削って奇跡を起こす者らからすれば、お前たち神官どもの曲事ぶりは噴飯ものだ。まあ儂らの存在も、普通の者から見たら同様であろうがな」
優は驚いた。
「二人とも、その、接続者・・・神官だと思ってたけど」
雪から動く人形を作れる。それはもう常識をはるかに飛び越えた存在だ。優よりよほどそれらしい。
「わしらは普通の人間よ。お前たちとは違う・・・いいか、優。お前の本当にやりたい事を念じるがいい。それが実現すると信ずるのだ。わしらは何人もの神官と出会い、また争ってきたが、その誰もが例外なく自らを狂信しておったぞ。」
ナギは振り返り、優の目を真っ直ぐに見つめて言った。
「もう一度言うておく。まずは己れを信ずるところから始めよ」
*
信じろと言われても。
目の前には、言われた通り必死に信じた結果が置かれている。優は出来上がった物を眺めつつ憮然とした表情で腕を組んでいたが、やがて決心すると、それを手にして部屋を出た。
双子は家の掃除を自ら買って出ていた。完璧な仕事ぶりだ。家の中が旅館のように行き届いた雰囲気に満たされている。使われていない小物を使って風流な飾りや置物を作ったりするあたり、感心せざるを得なかった。
優が居間に入って行くと、二人は寝そべってテレビを見ていた。テレビの存在を知ってはいたが、観るのは初めてらしい。働いている時以外はもうずっと張り付きっぱなしだ。
「お、なにか出来たか?」
ナギか顔だけをこちらに向けた。
優はあまり気の進まぬ様子で持っている物を差し出した。それを見るナギの表情は困惑一色だった。
それは、プラスチックで出来たお面だった。ナギは起き上がると、目をすがめながらそれを受け取った。彼はお面を裏返し、そこにカエデからの手紙がテープで貼り止めてあるのを見つけた。
「・・・一応聞くが、なんだ?これは」
ナギの言葉にうつ向きながら、優は解説を始めた。
アイテムの名前は「じゃきのおもて」だった。ナギの弁によると、「蛇鬼の面」と書くようだ。能楽の言葉らしい。その効果は単純だった。この面で傀儡をつくると、鬼神のごとき強さになるらしい。
ただし。その傀儡は命令されても攻撃しない。自分が攻撃された時のみ反撃する。専守防衛というやつだ。
「・・・お前、儂の話を聞いておったのか?自分から攻撃できんのでは、こんなものガラクタではないか。そもそも儂らが傀儡を作らねばならぬなど、不便にも程があろう。一体何を願ったらこうなる」
「・・・必死に強くなりたいって願ったんだけど」
まさか、作った傀儡を相手に修業せよということか。
ナギはあきれ果てた。身に付けるだけで魔神になれる品を作れる筈の者が、練習用の傀儡を作ってわざわざ苦労する?
その時、ナギの脳裏に天啓が閃いた。
こういう奴にしか、本物の奇跡を起こす力は授からないのだ。
根拠はないが、彼はそう確信した。
そしてそういう奴の回りには、きっと振り回される犠牲者が集まる仕組みになっているのだ。自分のように。
ナギはうんざりした顔で立ち上がると、ナミに声をかけた。
「ナミ、起きよ。こやつの戯れに付き合うてやろうぞ」




