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>コマンド?  作者: オムライス
第五話
37/120

*5*




家の裏庭で怪しげな傀儡作製の儀式を行うと、ナギとナミは疲れ果てた顔でクッキーをそれぞれ一箱ぶん腹に押し込んだ。どうやらかなり体力を消費するらしい。


「傀儡が目覚めるのは恐らく夜中だ。それまでしばらく休ませい」


そう言って二人とも部屋に引っ込んでしまった。


だが(めぐる)が塾から帰ってくると、あの疲れた姿は何処へやら、二人は部屋から次々と転げ出てきた。そして顔を輝かせながら階段を駆け降りると廻の体に飛び付く。廻の方も、ここ数年聞かないような嬉しそうな笑い声を上げている。


優は台所で食事の準備をしながら、そんな三人の姿を眺めていた。自分が引き籠っていた間、廻はこの広い家で独り暮らしのようなものだった。寂しい思いをさせた罪は消えない。だからこそ、妹のあんな姿を見ることが出来る今が、とても大切に思える。


彼は皿に料理を盛ると明るい声を上げた。


「できたよ!」


急いで食卓に着く三人の姿に、優は微笑んだ。





真夜中。


優はツバキの木刀を片手に、忍び足で玄関を出た。そして家の裏庭への角を曲がった直後に、彼は驚きのあまり固まった。


街灯に照らされる畑の上に、すくみずブルーのお面を被った土人形が不気味に直立している。大きい。3メートル近くある。


「・・・こわい」


たじろいでいる優の後ろからナミの声が響く。


「おー、土が良いので出来も上々よな。ナミ、掌握しておるか?」


ナミは頷いた。直後、土人形はこちらにゆっくりと歩き始め、後ずさる優の前で膝をついた。


「問題ないようだ」


満足げな表情を浮かべるナミをよそに、ナギが優の方へと向き直る。彼の表情は真剣だった。


「おいお前、最後に聞いておくぞ。本当にこれを相手にする気なのだな?言うておくが、頭が潰されたり体がバラバラになってしまえば、儂でも蘇生はできんからな。そもそも、この世に死者を復活させる方法など無いのだ。息絶えたのちに体が冷え切ってしまえば、老人から赤子まで等しく土に還るのみ」


優の喉が鳴る。


「・・・わかった。それでも、僕はやるよ」


ナギは呆れた表情を浮かべたのち、ナミに目配せする。それを合図に、土人形はその腕を伸ばして双子を一人ずつ肩に乗せた。


「先程示し合わせた場所で落ち合おう。儂らは先にいくぞ」


人形は音もなく歩き、不意に跳躍して闇の中に消えた。優は目の前の出来事に目を白黒させていたが、やがて慌てて玄関に戻ると、木刀片手に相模川へと自転車を漕ぎはじめた。





それからはあまりに冗長な出来事なので、手短に言う。


相模川の河川敷での修行で、優はここ四日間で計三回、土人形に殺された。その度にナギが蘇生してくれたので、今も生きてはいる。


最初の死亡は早かった。何も考えずに木刀で打ち込んだ優は、土人形の右手にハエのように払われて首を骨折。同じ夜にまたも首を持っていかれて二度目の死亡。蘇生したナギが気絶して、その日は終了した。


それからはかなり用心しつつ間合いを探っていったお陰で、致命傷程度で済んでいた。死にかけた回数は数えきれない。


そしてこの夜、蘇生して起き上がった優は、倒れたまま動かなくなったナギを見下ろすことになった。





「もうやめよ」


次の日の朝、ナミが優に告げた。

優は言われずともそうするつもりだった。彼は一晩中ナギを看病しながら、新たに重ねられた自分の罪を噛み締めていた。


わずかな間に、ナギの体は服の下で痩せ細っていた。この二日間、廻が心配しようと、食事で呼ばれようと、ナギは頑なに部屋に籠りきっていた。あれほど廻に甘える事を喜んでいたというのに。全ては自らの衰弱を悟らせぬためだ。


そうだとしても、気が付かなければおかしい事だった。自分の欲に集中するあまり、回りを見なかった結果だ。


「ごめん・・・」


優の目に涙が浮かんでいた。

自分はなんでこうも、回りの人間を不幸にしてしまうんだろうか。


ナミは、抑えた声で話しはじめた。


「・・・私らは幼い頃に、体の中に呪具を埋め込まれる。優、お前のような神官が作り出す、呪いの道具よ。それは私らから成長する力を吸い上げ、かわりに方術を使う力を与えてくれる。ナギは治癒の力を。私は傀儡を操る力を」


ナミは言葉を一度切ると、優しくナギの額を撫でた。彼女の長い睫毛が僅かに震えている。


「だが私らも既に齢24。体に残された成長への力は限りなく弱い。足りぬ分のかわりに、呪具は生命力を吸いとりはじめておる。今のナギのように」


優の頬には涙が幾条も流れていた。彼は嗚咽を堪えて肩を震わせるばかりだった。


「何を泣く」


優は驚いて目を大きく開いた。

ナギがいつの間にか目を覚まし、優を見上げていた。


「儂は好きな事を好きなようにやっただけだ。お前が悔やむことは何もない」


彼は額に置かれたナミの手を握った。


「・・・儂らに与えられた仕事の期限は、ちょうど明日の終わりだ。・・・それが過ぎたら、どうせ儂らは死ぬ。お前との戯れに付き合うてから逝くほうが、幾らかましというもの」


優は耳を疑った。


「・・・なんだって?」


ナギはそれには答えず、笑いながら言葉を継いだ。


「しかしお前、いくら儂が脅そうとも、一向に無茶を止めなんだな。肝を冷したが、何とかお前を永らえさせる事ができた。儂は安堵しておる」


彼は笑うのを止めると、真剣な目で優を見た。


「優、その心の強さはお前の宝だ。曇らせてはならん」


そう言ってから、ナギは再び目を閉じて昏睡した。





優は部屋に籠り、必死に考えを巡らせていた。


ナミの話では、明日の終わりまでに両神に戻らねば任務失敗と見做され、二人とも呪具に全ての生命力を吸いとられるとの事だった。


優は自分の両手を睨む。

今まで色んな理由を付けて、覚悟を決めてこなかった。

だが今は違う。自分の持てる力の全てで、絶対にあの二人を救う。



夕刻。


襖が開く音がして、未だ眠るナギのそばで船を漕いでいたナミは目をしばたたかせた。彼女が部屋の入り口に目を向けると、そこには決意をみなぎらせて優が立っていた。


「案内してくれ、ナミ。全部ぶっ潰しに行こう」

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