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>コマンド?  作者: オムライス
第三話
14/120

*2*




優はベッドで打ちひしがれていた。

目は赤く擦り切れていて、もうこれ以上涙も出ない。


賢さ230 。


優の賢さの、実に40倍に迫る数値。

戦闘力1万だ2万だ言ってる所に、唐突に戦闘力53万ですとか言い出すアイツみたいだ。


そんな彼女の前で、自分が今までどんな風に振る舞っていたか。優はそれを思い返して戦慄する。


40倍近く賢い女の子を、なんだかんだと子供扱いしてバカにしてきたこと。

腕立て10回でヘバる自分の筋力を、なんでか知らんが世界のトップクラスだと思っていたこと。

そもそも10程度と決めつけていた能力の最大値が、二桁を突き抜けて三桁まで行っちゃってたこと。


恥ずかしくて体が核融合を起こしそうだ。


タイムマシンがあれば、あの場に乗り込んで過去の自分をボコりたい。いや生まれる前に行って、二番目の子はいい子だが、最初の子はバカだから覚悟してくれと母親に警告したい。



あの後、優は(かげり)から全力ダッシュで逃げ出した。

後ろで翳が卑怯者、嘘つき、待て、なんてことを叫んでいたが、煽りにもならないお決まりのセリフで済ませてくれているあたり、仏の対応と言ってよかった。

ラインにもメッセージが来ているが、死んでもそれを読みたくない。


翳の怒り顔が天井に重なる。

優は寝返りを打ち、ベッドにうつ伏せになった。


230 という数値がどれ程なのかは、優にとってはどうでもよかった。翳が一体何者なのかも、この際どうでもいい。

二人の間に埋め難い差があるという現実が辛かった。


これでは、サルが人に恋慕しているのと何ら変わらないではないか。


「嘘ですね、あのウィンドウが妙な力を持ってる事、もうだいぶ信じちゃってるでしょ」


翳の言葉が思い出された。

翳は頭がいいが、そればかりは誤解だ。

信じてなどいない。自分に力がないから、アレにすがるしかないというだけの話だ。


優は、麻薬に手を出すような気分で「さくせい」コマンドを実行した。

表示されたウィンドウには、優をまた泥沼へといざなうように、新しいコマンドが一つ増えていた。





スマホの地図アプリに設定した目的地は、住宅街のど真ん中にあった。

こんなところに金物屋があるなんて、自分とご近所さん以外に知るものなど居ないだろう。


たどり着いてみると、こりゃご近所さんも知らないな、という店構えだった。通りから入った行き止まりの奥にあり、看板すら出ていないのだ。

だがガラスの引き戸から覗いてみると、確かに鍋やら竹箒やら金ダライやらが置いてある。


「すみません~」


思わず言ってしまう。店で挨拶なんて何年ぶりのことだろう。

店の奥は居間になっており、一人の老婆がテレビの前でこちらに振り返っていた。


「あら、いらっしゃい」


見た目、可愛い系の妖怪といった感じだ。猫を撫でていて欲しい雰囲気だが、残念ながら見当たらない。


「ゆっくり見てって」


彼女はそう言ったきり、またテレビに視線を戻した。

優は礼を言うと、金物のジャングルの中に身を投じた。


指定された物は、カナヅチ。


1000円という値札シールが貼られているそれらの中に、一つだけ1999円という値札のものが混じっているらしい。果たしてそれは、カナヅチの山の中に確かにあった。


何も言わないのに、あら、これ間違ってるわーと言って、おばあちゃんは謝りながら1000円を要求した。

ありがとうね~という言葉に会釈しながら店を出ると、優は茶色い紙袋からカナヅチを取り出し、しげしげと眺めた。・・・大きめだが、木の柄に鉄の頭がついた何て事はないカナヅチだ。唯一変わっているのは、柄に紐を通す穴が空いていることくらいか。

優はすっきりとしない顔をしていたが、それをまた袋に戻してから歩き始めた。



もう一つの材料は、家のタンスにあった。


それは祖父が使っていた懐中時計だった。銀製の立派な物だが、かなり昔から壊れていて、ゼンマイを巻いてもすぐに針が止まってしまう。


形見をこんな事に使うべきかと少し迷ったが、仏壇に向かってしばらく合掌したあと、優はそれをタンスから持ち出した。





今回は簡単だった。

懐中時計の鎖をカナヅチの柄の穴に通して完成だ。いつもの鬼畜な要求や手順に比べると、あまりに大人しすぎて不気味に感じる。優は水着や聖剣の不快な思い出を押しやった。


完成したアイテムの名前は、忘却の鉄槌。

説明文によると、このカナヅチで自分の頭を思い切りぶん殴ると、短い間だけ能力値を自由に移動できるようになるらしい。例えば能力値を全部1にして、減らした分の値を全て賢さに振るといった事が可能になる。


ただし頭を殴るだけあって相応のリスクがあり、一回やるごとに能力値が減少、クリティカルヒットが出たら死亡と言うハードコアなルールが書き添えてある。


懐中時計はお守りみたいな物らしい。

カナヅチを使う前にゼンマイを巻くと、能力値が減少する値を文字盤が教えてくれる。例外として、4時ぴったりで止まるとクリティカルヒット予告となる。


ならばいい時刻に止まるまでゼンマイを巻き続ければいい話だが、この時計は三日に一回しか能力を発揮しない。それ以上の使用では、止まった時刻は参考にはならなくなる。

そもそも時計が結果を保証する期間も謎だ。結果が出たらさっさとやってしまうのが良さそうである。


以上の事を、優は紙にメモって何とか頭に入れる。そして理解した。これはヤバいやつだ。頭をカナヅチで思い切り殴るとか正気ではない。


飯食ってから考えよう・・・。


優は晩飯の用意に取りかかるため、階段を降りはじめた。廻の受験が近いため、夕飯の用意と皿洗いは優が担当していた。とはいえ、料理など出来ないから、残念ながらスーパーで買った惣菜がメインだ。





優と(めぐる)は、テーブルに向かい合って座っていた。

勉強で疲れたのか、廻は少しばかりぼうっとしている。それでも食欲はあるらしく、さっきから美味そうに惣菜を頬張っていた。そんな油断している顔も凶悪に可愛かったが、今の沈みきった優を元に戻す事までは出来なかった。


「廻」

「んんー?」


廻はアジフライにかじりついたまま顔を上げた。


「自分よりアホな奴でも好きになれる?」


優の質問に、廻は眉をしかめた。何を言ってんだこいつと顔に書いてある。


「うーん、程度によるかなぁー」

「およそ40対1くらい」

「40対1で、相手がアホなの?」

「そう」


廻はモグモグしながらしばらく沈黙し、飲み下してから言った。


「・・・それ、相手は子供とかじゃなくて?」


優は答えなかった。かわりに、彼女が投げ掛けた質問を噛み締めているかのように、黙って座っていた。廻はそんな優を、あれっ?という顔で眺める。

やがて彼は立ち上がると、自分の皿にラップをかけ始めた。


「どーしたの、食わんの?」

「ごめん、食欲ないや・・・あとで食べる。食器は流しにそのまま置いといてね」


怪訝な顔をする廻を後に、優は死刑囚のような面持ちでリビングを出ていった。



部屋に戻ると、優は例の時計のゼンマイを巻いた。時計が差した時刻は3時半だった。

優はハンマーを持ち上げると、全力で自らの頭頂部にそれを振り下ろした。


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