表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
>コマンド?  作者: オムライス
第三話
15/120

*3*




----------------------

つよさ


 ・ちから   8  ―>   130

 ・かしこさ  6  ―>  -107  

 ・すばやさ  7  ―>   100

 ・たいりょく 7  ―>    15 

 ・こううん  3  ―>  -110

 ・みりょく  1  ―>     1



このように へんこうします。 よろしいですか?


>はい

 いいえ


----------------------


優は、能力値変更の確認ウィンドウを睨みながら冷たい床に横たわっていた。

頭がガンガン痛むが、それすら気にならないほど「はい」という文字に意識が集中している。





数値をいじり始めた当初、優は望みを失いかけていた。

少ない数値を入れ替えた所で、誤差が変化するようなものだった。それでも優は、苦心しつつ能力値の増減を試行錯誤していた。

その時だった。

優は、能力値をマイナスにできる事を偶然に発見した。


優は興奮しながら、全ての能力値を限界までマイナス値にした。423もの余剰な能力値を手に入れた時は、喜びのあまり小躍りしていた。

優はその勢いのまま全能力値を賢さに振ろうとし、そこで新たな問題に突き当たった。


賢さの値を107までしか上げられない。


どれだけ念じても、107より上には絶対に数値が増えなかった。他の能力値も同様で、それぞれに限界値が存在していた。賢さで(かげり)を上回ることは、これで絶望的になった。


優は唇を噛んだ。ここまで来たんだから、諦めるわけにはいかない。翳と肩を並べられる能力値とは何かを模索するため、優は懸命に数字と格闘しつづけた。



その結果が、この確認ウィンドウだ。

そこに並んだ数値のテーマは、ツバキの男版。

つまり、アホだが強いがコンセプトだった。


凛々しく美しいツバキの後ろ姿を、今もはっきりと覚えている。

賢さで翳と対等になれないならば、ツバキのような強さで翳を守れる男になればいいのだ。むしろその方がお互いを支え合える。


強さのために賢さをここまで下げたのは非常に問題があると思うが、魅力を下げることはできない。それで嫌われてしまったら元も子もないからだ。

賢さマイナス107がどれだけアホなのかは分からないが、ツバキほどではないだろう。


優は深呼吸をしたあと、はい、を選択した。

直後に勢い良く立ち上がると、彼は部屋のふすまを開け、階段を下りはじめた。

いそいそと脱衣所に駆け込み、洗面台の前でスウェットを脱ぎ捨てる。


優は長い息を吐いた。


鏡に映った自分の肉体は、美の結晶だった。

つややかな厚い胸板。それにつづくたくましい肩と太く長い腕は、一見するだけで内部に煮えたぎるような力を秘めていることが見て取れる。深く割れた腹筋。長くなった足は膝が細くくびれ、脛は刀のような稜線を形作っている。


そんな都合のいい夢想は、だらしない自分の体を見た瞬間に粉々に粉砕された。


実際の鏡に映っている自分の体は、全く、なんにも、変わっていなかった。

見下ろした腹はつま先が見えないほど丸く突き出ているし、頭身は相変わらず4と5の間くらいだ。

優は祈るように、その場で反復横とびをしてみる。

足を乗せたマットが床をすべり、優は激しい音を立てて転倒した。


「何やってんだよ、大丈夫か!?」


顔を上げると、(めぐる)が廊下に立っていた。大丈夫を連呼しながら、優は慌てて立ち上がった。その時よぎった思い付きに、彼はわずかな希望を賭けてみることにした。


「廻、僕を見てなにか感じる?いつもと雰囲気が違う、とか。強そう、とか」

「・・・さっさと出てけ、風呂入るから」

「はい」


優は脱衣所を出ると、腰をさすりながら台所に向かった。皿を洗わないと。

たぶん、時間が掛かるのだ。もしかしたら、明日の朝には生まれ変わっているのかもしれない。

廊下を歩きながら、優は希望にすがり続けた。





次の日の早朝。

浅い眠りから目覚めた優は、薄明かりの中で自分の体を見下ろしていた。


どこかで覚悟はしていたが、何も変わっていなかった。

頭を殴って超人になれれば世話がないという事なのだろう。


そこで消沈して二度寝するのが今までの自分だった。

しかし、今日はいつもと違っていた。

妙に力が溢れてきて、体がムズムズする。今すぐ動かないと、風船のように破裂してしまいそうだ。


これは、変化の兆候なのかもしれない。


優はベッドから飛び降りると、通信販売で買ったダンベルを探して押し入れをまさぐった。

奥の奥に押し込まれていたそれを発見するや否や、優はそれを勢いよく持ち上げ・・・られなかった。彼は筋を違えた腕を押さえてのたうち回った。


ダンベルを再び押し入れに突っ込んだ後も、妙な衝動は消えなかった。体を無性に動かしたい。ダンベル以外で。

こんな事は今まで経験がない。

能力値を変更した効果だと思うのが自然だろう。


しばらく考え込んでいた優は、降ってきたアイデアに顔を輝かせた。彼はベッドに這い寄ると、枕元にあるスマホを拾い上げてラインを立ち上げた。

借りがある上にさらに借りを作るのは気がひけたが、優はその気持ちを押し切ってメッセージを入力した。


(ごめんツバキ、おねがいがあるんだ、起きたらラインちょうだい)


そういや、これが初めてのメッセージだな。

優は送信ボタンを押した。

直後、期待していなかった返信が間髪入れずに送られてきて優は飛び上がりそうになった。


(なに)


超シンプルな内容だったが、24時間受付かよとツッコミを入れたくなるレスポンスの良さだ。優は少しばかり狼狽しながら返信を入力した。


(朝早くにごめん。突然なんだけど、強くなるための方法を教えて欲しいんだ)


(じゅうしょ)


これまた質実剛健なメッセージである。自分の気遣いあふれる文章が軟弱に思えてくる。

優は自分の住所を返信した。


(いく)


原始人と話している気分になってきた。

しかし・・・直接稽古をつけてくれるつもりなんだろうか。

トレーニングのやり方を聞ければいいやと思っていたんだが。


ツバキの顔を見たいという気持ちもあったし、会えば借りを返す機会があるかもしれない。


(ありがとう)


優はメッセージを送信してから一息つき、朝食を準備するため部屋を出た。





果たして、ツバキはその日の昼には優の家の玄関前に立っていた。


「よぉー優!!元気してたか?お?」


呼び出される形になって不機嫌かと思いきや、物凄くご機嫌だった。優は失礼にも、久し振りに飼い主に会った犬を連想してしまった。

優は率直にその感想をツバキに述べた。


「お?何犬だその犬。可愛いやつか?」


なんだこのテンションは。

とりあえず、昼飯を食ってってもらおう。

優は彼女を家に招き入れた。


「お邪魔します」


ツバキは妙に礼儀正しく一礼すると、千切れんばかりに尻尾を振る子犬のように、玄関の敷居を跨いだ。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ