●●の世界-2
死神は、僕たちの姿を見つけ、いきなり襲い掛かってきた。
僕は下がる。悟朗は横に避け、死神に横から素早くパンチを繰り出す。そして、ババッと離れた。
死神は少しひるんだけど、やっぱりすぐに立ち直り、悟朗に向かって鎌を繰り出そうとしてきた。
悟朗はすかさず、横に避け、パンチを繰り出す。
悟朗は必死だった。全然表情に余裕がない。
僕はその光景を後ろから眺めているだけだった。
悟朗と一緒に応戦しないのかって? そんなこと僕にできるのかな。たぶん、邪魔になるだけだと思う。それに、さっき悟朗に僕には無理だって言われたし。本当にその通りだ。
悟朗には僕にはない何かがあったから、咲に告白する覚悟があった。僕には、その何かがないから、僕自身が咲のことが好きだということにすら、最近になるまで気づくことができなかった。
「ヴォヴォヴォヴォオヴォヴォオオオ!」
死神は悟朗のパンチを何発かまともに喰らい、後ろへ倒れこんだ。
だけれど、すぐに起き上る。
攻撃して、攻撃されて、避けて、避けられて。
このままじゃ、拉致が明かないような気がしてきた。
鎌を変形させたから、死神は武器を失い、姿を消した。今回もきっと同じだ。
悟朗もさっきから鎌ばかり狙っている。でも、死神は鎌を狙われていることを知っているかのように、攻撃されるときだけ鎌を後方に隠し、自身のボディに攻撃を当てさせる。
消耗戦だ。
こんな時、もう一人応戦してくれる人がいれば、きっと楽なんだろうな。
誰か……来ないのかな。
「当たれッ!」
悟朗は死神に回し蹴りを繰り出す。悟朗の足は死神に当たった。
でも、死神は全く動かず、悟朗は回し蹴りの反動を受けて、転倒した。
死神はそれを狙っていたかのように、鎌を上にあげた。
途端に悟朗の表情が変わった。それは、悲しみの表情。まだ生きたいと願う表情。
……僕が行かなければ、きっと鎌が悟朗に食い込み、悟朗が消える。
消える。
このままでいいのか? このままで本当にいいのか?
いいわけがないよね?
――「高校生になっても何かあったら私のこと守ってね」
――「わかってるよ。守ってあげるって」
――「ありがと」
僕の頭の中でそんな会話が聞こえてきた。いや、聞こえてきたんじゃない。思い出したんだ。
「悟朗!」
そうだ。そうだよ。
僕にだって、戦う覚悟はある。だって、僕には大好きな人がいるんだ。
その記憶の中では、相手の顔はぼんやりとしか映っていなかった。誰、だっけ。
思い出せない。でも、きっと、咲だ。
たとえ、好きだという気持ちに気が付くのが遅くたって、好きなものは好きなんだ。
「死神覚悟ッ!」
僕は死神の背後から思いっきりタックルした。
死神はその不意打ちを予想していなかったようで、前方へ倒れこむ。
悟朗はそれを見計らって、横に避け、死神の鎌を手で奪った。
そして、その鎌で死神を切り裂く。綺麗に真っ二つに切り裂く。
死神はもうそこにはいなかった。
最初からなにもいなかったかのように、徹底的にいなかった。
悟朗が持っていた鎌も消えていた。
同じく、最初からなにもなかったかのように。
「……悟朗。僕、やっぱり咲のことが好きだ」
僕は下を向きながら、口から言葉が流れ出すように勝手にそんなことを呟いていた。
「だから僕は覚悟を決めたよ」
僕の口は動くのをやめない。
「元の世界に戻って、咲に告白するって」
数秒の沈黙。
悟朗は、大きなため息を吐いた後、
「……そうか。やっと、その気になったか。神治」
「え?」
やっとその気になった? どういうことなんだ。
僕は顔を見上げた。
「俺はお前がお前自身の気持ちに気付かせるためにわざとあんな演技をやってやったんだよ。……まあ、少し惜しい気もするがな、ハハッ」
悟朗の声は少し震えていた気がする。
つまり、そういうことなんだ。
悟朗は本当は大好きなはずなのに、咲をあきらめるって言ってるんだ。親友の僕のために。
「悟朗は本当にそれで……いや、なんでもないごめん」
僕には、そんなことを聞く勇気なんてない。
悟朗は僕とは反対方向へ突然歩みだした。
「さって、さっさと女の子を探し出そうぜ。そんで、パパッと元の世界に戻るヒントとかも見つけ出して、元の世界に戻ろう。そしたら、咲と神治のためにパーティ開いてやるよ」
モノクロの世界の中で、僕にはそのやさしさは眩しすぎる。
僕なんかよりも悟朗の方が、咲と上手くやれるよ……絶対。
「あり、がとう……」
うれしいはずなのに、僕は悲しかった。
悲しいはずなのに、僕はうれしかった。
神治:結局あの会話っていつの会話だったんだろう……
咲:プロローグー
神治:おい、それ言っちゃいけない約束だろ




