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False;World  作者: 川犬
29/32

●●の世界-1

 暗黒。

 ゆっくりと目を開ける。とたんに、視界が明快になった。

 白と黒しかない世界。そう、ここはモノクロ世界だった。

 うつぶせの状態の僕は、意識をぼーっとさせながらも上半身だけ少し持ち上げて、周囲を見渡した。

 延々と続く廊下。その隣には、教室。僕は、廊下の真ん中で倒れていたみたいだ。

 夢に見た時と同じモノクロの学校。……いや、夢なのかもしれない。

 僕はゆっくりと立ち上がる。そして、頭をぶんぶんと振って、意識をはっきりとさせた。

「僕は確か……」

 咲に1日早いけれど買い物に出かけようとせがまれ、それを許諾した後、ある手紙を読んで、それから咲が悲しそうな表情をしていて……。

 そこから意識を失ったみたいだ。意識を失う直前の記憶はまだぼんやりとしか映像として浮かび上がらない。

 ある手紙……。

 なんの手紙だっけ。

「そうだ」

 ポケットの中にまだその手紙が残っているかもしれない。

 僕は、ズボンのポケットに手を突っ込んでみた。すると、紙の感触があった。

 それを取り出してみる。

 それは手紙のようだったが、くしゃくしゃにされていた。僕は気にせずにその手紙を広げてみる。

「……」

 思い出した。悟朗のことを思い出した。

 この手紙は悟朗の咲への思いが込められた手紙なんだ。

 僕はそのことを思い出すと同時に、締め付けられるような痛みを胸に感じた。苦しい。

 でも、そんな痛みなんて今は関係ない。モノクロの世界に、異世界に僕はいるのだから。痛みを治すよりも学校を探索して、悟朗たちと合流することが最優先事項だ。

 僕は、手紙を丁寧に折って、同じポケットに突っ込んだ。

「悟朗ー!」

 大声で叫ぶ叫ぶ叫ぶ。

 この世界には悟朗がいるはずなんだ。そして、もう一人の少女も。


 謎に包まれた少女。僕が見かけたときはいつも泣いていた少女。僕はその少女と以前会ったことがあるのかもしれない。でも、仮に会ったことがあるにしても、それを思い出すことがどうしてもできなかった。

 ――由愛。


「由愛ー! 悟朗ーッ!」

 以前、僕が悟朗視点の夢を見ていた時に、悟朗と話をした少女の名前は聞いてなかったけれど、その少女が由愛って人なんだと思う。断定はできないけどね。

 僕は歩みだした。

 コツコツコツコツ。コツコツコツコツ。

「いるなら返事をしてーッ!」

 返事なし。

 僕は徐々に歩みの速度を上げていった。

 風景は同じままで、その先その先を見てもずっと同じだった。

「悟朗ーッ! 由愛ーッ!」

 僕はいつしか走り出していた。全力ダッシュとまではいかないけど、ほとんど全力そのものだった。たぶんこのペースで走り続けたら、僕なら悟朗と違って10分ぐらいしか持たないと思う。


「ハァッハァッハァッ」

 しばらく走り続けていた。

 そろそろ、体力の限界に近付いている。

 少し休憩をしようかなって思っていたところ、突如、曲がり角が前面に現れた。

 さっきまでは、廊下のように見えていたのに、まさか曲がり角があったとは。でも、曲がり角の先もどうせ延々と廊下が続いているんだろうなあ。

 そう、思っていた。でも、

「うぉおおおおおおおおッ!」

 違っていたみたいだ。

「……ッ?!」

 何の叫び声だ? いや、ていうかそもそもこの声って……。

 男性の声。聞き覚えのある声。僕の胸が痛む声だった。

 僕は、荒い息を何とか整えて、息を殺す。そして、曲がり角直前で壁に体を密着させた。

 ゆっくりと、体を曲がり角の向こう側に乗り出さないように、ギリギリのところまで近づけて、顔だけちろっと曲がり角の向こうに出す。

 僕の眼ははっきりと曲がり角の先で繰り広げられている光景を焼き付けた。

 死神が鎌を人に振りかざす。その人は、ギリギリのところで鎌を回避した。

 そして、反撃と言わんばかりに、死神へタックルをかます。タックルをかまされた死神は、少しひるんだが、すぐに体勢を立て直し、その人に再び鎌を振りかざす態勢に入った。が、その鎌は振りかざされなかった。

 ガキィンッ

 その人は鎌の中心を思いっきり蹴って、鎌を変形させたのだ。ぐにゃりと湾曲した鎌は不思議な青白い光を放ちながら、フェードアウトするように消えていった。

 武器である鎌を失った死神は、金属音のような声をあげて、フッと姿を消す。

「……フゥッ」

 その人は息を大きく吐いた。

 見覚えがある人だった。

「ご、悟朗……」

「あん?」

 悟朗は僕の声に気付いて、振り向く。

「お、お前……神治ッ!」

 そして、僕が神治であることを認識して、僕に詰め寄ってきた。

「神治! 神治なのか!」

「う、うん」

 グラグラと悟朗に肩を揺らされて、僕の思考もグラグラになった。

「なんで神治もこの世界にいるんだよ!」

「ちょ、ちょっと揺らしすぎ」

「あっ、あぁ……すまない」

 悟朗は僕の方から手を放し、深呼吸を何度かした。

 それから、もう一度僕の眼を捉える。

「本当に、神治なんだよな?」

「そうだよ」

「なんで、この世界にいるんだ?」

「どうして僕がここにいるのかわからないよ。こっちが聞きたいくらい」

「そうか……」

 悟朗は壁に寄り掛かった。

「悟朗こそ、どうしてこの世界にいるの?」

「知らん。気が付いたらここにいた」

 悟朗もこの世界に来る前の出来事は覚えていないみたいだ。

 今は二人の再開を喜ぶべき時なのに、状況が状況なだけあって、全然喜び合えないようだった。僕も友達として、悟朗との再会を心から喜んでいるんだけどね。今はそれどころじゃない。

 さて。

「悟朗、立ち止まったまま話すのもあれだし、歩きながら話そう」

 僕の提案に悟朗は賛成し、僕たちはモノクロ世界を歩みだした。

 そして僕から話題を振る。

「僕さ、信じられないかもしれないけど、実は夜に寝ている時に、悟朗がこの世界で探索しているところを一部始終見てたんだ」

 唐突に話題を振られた悟朗は少し戸惑いの表情を見せたけど、すぐに元に戻り、

「信じよう。それで、それがどうした」

「悟朗は由愛って人と出会ってたよね」

「由愛って誰だ? 途中、俺に襲い掛かってきた死神みたいなやつがその名前を口に出していたが……」

 あ、そうか。悟朗はその少女の名前を聞いていないのかもしれない。

「ごめん訂正。女の子に会ったよね」

「あ、ああ」

「僕は、その女の子との会話で僕の名前が出たあたりまで見て、夢から覚めた。それが一回目の悟朗の夢。で、二回目は、その続きになるのかなって思ったんだけど、二回目の始まりは悟朗が一人で音楽室付近を歩いているところから始まったんだ」

 悟朗は僕の話に真剣に耳を傾けている。

「その間に僕の中では空白ができちゃってるんだけど、何があって、その女の子と別れたの?」

 再び曲がり角が目の前に現れた。

 僕たちは曲がる。

「おまえの話題に入ったとしたときに、死神が現れたんだよ。あ、死神っていうのは――って俺の夢を見ているなら、その説明はいらないか」

「それで、死神から逃げる時に別れちゃったのか」

「そうだ。そのあともう一度その女の子を探してたってわけだ。そしたら、他の死神とは違う『会話ができる死神』に出会った」

「その死神とはどうしたの?」

「鎌を振りかざされそうになったのだが、それを避けて全力ダッシュだ」

 さすが悟朗……。バスケ部のエースなだけあるよ。

「で、逃げてたらまた別の死神に出会って、今度は戦ってみたら勝っちゃって、偶然通りかかった僕と遭遇した。今に至る。こんなところ?」

「そうだ」

 なるほどね……。それじゃ、これから僕たちがするべきことはとりあえずは一つしかない。

「じゃあ、このままその女の子を探すのを継続しよう」

「おう」

 悟朗が頷いた。

 その時、だった。

「ヴヴヴヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァアァァァアアアア」

 金属音の声が僕たちの鼓膜を振動させる。

 突如、目の前の教室の扉が開いた。

「来たようだな……神治、ビビッてちびるなよ」

「ぜ、全然ビビってなんかないよ!」

 本当は怖かった。

 この世界が今まで通り僕の夢なのかもしれないけれど、でも、不思議と夢じゃない気がしていた。今まで見てきた夢と感覚が違うんだ。

 扉からフードをまとった死神が姿を現す。顔はフードをかぶっているせいか真っ暗で見えないけれど、目だけが赤く光っているので、本当に死神だって断定できる。

 本当に怖かった。

「神治はちょっと下がっていてくれ」

「え、僕も戦うよ……」

 僕の声が震えてしまっていた。

「お前には無理だ」

 体力的に。精神力的に。

 僕にはこの世から消える覚悟ができていないんだ。悟朗は、たぶんできてる。これが、僕と悟朗の差なんだね。

 悟朗ってやっぱりかっこいいよ。

悟朗:死神との戦いはいい運動になった

神治:運動?! スポーツ感覚だったの?!

悟朗:ああ。でも、バスケの練習の方がきつい

神治:バスケの練習の方がきついって、どれだけきついの……。想像つかないよ……


悟朗:きょにゅーのおねーちゃんにうずくまって呼吸できなくなるぐらいきつい

神治:爆発しろ

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