〇〇の世界-15
入浴後。
僕は、昨日よりも厳重にロックされた自室で、課題に取り組んでいた。わけがなく、することもないので、もう寝ることにする。
課題なんてやらなくて当たり前だよね。少なくとも僕の学校ではそうだ。
僕は、ベッドにダイブする。
また。
また、あの夢を見るのだろうか。
僕は、消灯して、目を閉じた。
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ひんやりとした床の感触が僕の頬にあった。それで、僕はまたあの夢を見てるのだと確信した。
目を開けながら、ゆっくりと起き上がる。
まずは、周囲の確認。真っ暗でよく見えないけれど、机やら椅子やらが見当たらない。どうやら廊下にいるようだ。
それから自分の姿を、手探りで確認。やっぱり、制服だった。
あの夢だ。これで3度目。
僕は息を大きく吸い込み、一気に吐き出すように、
「誰かいませんかー!」
こだまする僕の声。予想通りに反応なし。僕の懸命な叫びに返事をくれる心やさしい誰かはいないようだ。
とりあえず、前回同様動かないからには、何も始まらない気がするので、どこかふらふらと放浪してみることにする。もしかしたら、財宝眠っているかも……って、それはないな。
僕は、歩くペースを速めにしながら、何か変わっているところはないか、探し回ることにする。
……1度目の夢は、自室で、鎌をもった怪物が窓から侵入してきて、逃げられなくなり、やられた。
2度目の夢は、教室に逃げ、そこで鍵を閉めて、安心したところに、鎌をもった怪物が教室内に出現して、あえ無く撃沈。
そして今回は3度目。
今度は、教室等の密室になりそうなところには、逃げ込まないようにしたいと思う。また、ドアが開かなくなったりしたら、同じ結末を迎えることになっちゃうだろうしね。それはなるべく、いや絶対に阻止したい。
「ん?」
廊下の曲がり角の先に明かりあるのが見えたのと同時に、僕の思考は強制的にストップされる。
2度目の夢の時は、ここで見知らぬ少女と対面した。今回は、どうなんだろう。
僕は、そおっと曲がり角の先に顔を出してみる。
そこでは、
少女が、
俯いたまま、
突っ立っていた。
例の如く、光源はその少女からだ。
どうしたほうがいいのかな。このまま、スルーして、別の場所に移動すべきか。前回、あの少女が鎌をもった怪物に変化したわけだし。
でも。
でも、このままスルーして、別の場所に移動しても何もないような気がする。ただの僕の勘なんだけれどね。
「……よし」
こぶしをぐっと握る。
僕は覚悟を決めた。
声をかけてみよう。前回と同じことになるかもしれないけれど、でも、若干前回とは状況が違う。前回は、少女が座り込んで泣いていたのに対し、今回は、うつむいたまま突っ立っている。
死亡フラグがたった気がするけれど、前進しないからには何も始まらない。どうせ夢の中だから、またあの鎌をもった怪物にやられても、目が覚めるだけだしね。
何もかもをポジティブ思考に変換しろ僕。
「よし!」
さっきよりも少し声を大きめに出してから、僕は行動に出た。
まずは、少女の前に姿を現す。
「……」
少女は相変わらず反応なしだ。下を向いたまま、動こうともしない。……生きてるよね? セミロングのやわらかそうな髪が顔を隠していて、どんな表情をしているのかさえ、分からない。
次に、少女に触れてみようとした。
前回は、触れようとしたら通り抜けてしまった。幽霊みたいな存在。今回はどうだろう。
「うわっとッ」
結果は同じだった。僕は思い切って、少女に抱きついてやろうと考えたけれど、貫通してこけそうになった。これで、抱きつけたらなんてすばらしいのだろうとか、これっぽっちも考えていないから、か、勘違いしないでよね!
その次にすることは……。
………………もうなかった。
いや、思いつかなかったって言ったほうが正しい。
よくよく考えてみたら、声をかけて反応するかを確認することと触れられるかどうかを確認すること以外、することないよね。他に何かあったら、僕にメールをください。24時間お待ちしております。
はあ……。
詰んだ。
僕は、腕を組んで、しばらく少女を観察することにする。変態ではない。通報しないでくれ。
少女は、やっぱり輝き学園高校の制服を着ていた。
なんとかどんな表情をしているのか見てみようと思ったけれど、相変わらずセミロングのやわらかそうな髪が邪魔して見れない。
スカートの下はどうなっているのか見てみようと思ったけれど、真っ暗で何も見えなかった。……ごめんなさい自重します。
と。ここで僕はあることに気づいた。
いや、少女に関することじゃない。僕に関することだ。
3度目で慣れたせいなのかどうかわからないけれど、僕の中には恐怖が存在していなかった。何も怖くない。
いやさすがに鎌をもった怪物が現れたら、恐怖を感じるかもしれないけどね。
でも、鎌をもった怪物が現れるまでは、冷静に判断できるってことだ。少しは、前回よりマシになったような気がする。ツッコミを入れることだってできるしね。……ボケがいないから、自分でボケなきゃいけないけど。
「しんじは」
「え?」
どうでもいいようなことを思考していたら、少女が初めて口を開いた。
いつの間にか、少女が顔をあげていた。
「いつになったら、ここに来てくれるの」
相変わらず声は幼いようなそれでいて透き通っていてかわいらしい声。でも、生きている感じがしない無感情な声だった。
「……」
ここ。
ここ?
学校のことかな。
少女は、続ける。
「たすけて。私を早くここから出して。一緒にまたあの世界に戻りたいよ。戻って、またしんじといっぱい遊びたい」
徐々に少女の表情は曇っていく。
「ここの世界に来てしまったことを今では後悔してる。1人になりたいって思っちゃったの。ごめんなさい。ごめんなさい。もう、絶対にこんなことをしないから。しないから。しんじに会いたいよ」
一滴のしずくが、少女の目から垂れ落ちた。そこからは、連鎖するように一気に涙があふれ出す。
「お願い。ごめんなさい。ねえ、だから、ここはもういや。いや、イヤ! 助けて。助けてよしんじぃ……!」
どう返答しようか考えるよりも先に僕の口が勝手に動く。まるで、何を言えばいいのか、もとからわかっているかのように。
「……助けるよ。だから、待ってて。絶対に助けるから」
こう言わなくちゃいけない気がした。だから、言った。
僕は、この少女とは何の面識もないと思っている。でも、もしかしたら、違うのかもしれない。
僕の記憶は、間違っているのかもしれない。
その可能性もある。
まあでもこれ、夢なんだけどね。
「ほんとう?」
「ああ、ほんとだよ」
少女が泣くのをピタリとやめて、ごしごしと涙をぬぐったあと、太陽のように明るくほほ笑んだ。この前の、赤い目の冷徹な笑顔とは全然違う。
「ありがと!」
……この笑顔をどこかで見たことがある気がする。それも、何度も。
咲? いや、違う。咲は、いつも笑顔だけれど、ここまで壊したくないと思う笑顔じゃない。
そう。僕は、この笑顔を守ってやりたかったんだ。
「イヒヒヒヒヒッ」
あの笑い声が聞こえた。
少女からではない。
少女の方も、今の金属質の笑い声を聞いて、表情を一変させている。恐怖に満ちた顔。
あの笑い声が聞こえるのは、廊下の曲がり角の向こう側からのようだった。さっき僕が、歩いてきた方向からだ。
「また、だ」
少女が絶望に満ちた表情で訴えるように呟く。
「また、死神が来た……」
どうやら、あの怪物は死神って言うらしい。
一回目の夢では、自室の部屋の鍵のロックを解除できなくて、やられた。
二回目の夢では、教室のドアが開かなくなって、やられた。
そして今回は。
「僕が守ってあげるから、逃げて」
「え?」
「逃げて」
少女は、一瞬戸惑うようなしぐさをしたけれど、すぐさま頷いて、
「絶対死なないで! しんじがいなくなっちゃったら、私はひとりになっちゃうんだからね!」
「安心して」
そして、少女はこっちをちらちら不安気に見ながら、逃げ去っていった。
それと入れ違うように、いいタイミングで『死神』が曲がり角から姿を現す。
真っ赤に充血した目。異様に大きな鎌。それに金属質の笑い声。
「あいかわらずだね……」
死神が鎌を持ち上げる。
僕はゆっくりと目を閉じた。
不思議と恐怖はやってこなかった。夢だから、怖くないって意味じゃない。
あの少女の笑顔を守るためなら、僕は死ねる。
今までそんなこと全然思っていなかったのに、なぜか、今はそう思う。
なんだろうこの気持ち。
なんだろう。
……なんだかあの少女と夢以外で会ったことがあるような気がしてきた。
まあ、気のせいなんだろうけれどね。
そして、僕の意識は切り裂かれるようにぶっ飛んだ。
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咲:そういえば、この小説の登場人物紹介してなかったねー。という訳で、今から登場人物紹介始めちゃうよー!
僕:いまさら!?
咲:(無視)じゃあはじめるよー!
神山神治
重度の咲コンプレックス
もうどうしようもない
僕:ねえおかしくないかなあ! おかしいよね? おかしいよなァッ!
山吹咲
世界一美少女
将来の相手はもうすでに決まってるらしいです
僕:世界一の美少女って……過大評――
悟朗:バギィッ
僕:痛ェッ! おい! 悟朗なんだよ!
悟朗:~~♪♪(口笛)
僕:こいつ……
悟朗
バスケ部のエースさん
頼りになる
悟朗:あれ?! 咲ちゃん俺の苗字は!?
咲:ごめんねー。いつも名前で読んでるから忘れちゃったー……てへっ
悟朗:……
僕:やーいやーいざまーみろー
悟朗:いつも名前で読んでる……ニヤッ
僕:…………え
咲:今回はこのぐらいかなー。またいつか登場人物紹介の続きをするよー!
僕:なんか滅茶苦茶だったな……。あ、そういえば、咲の自己紹介のところで将来の相――
悟朗:バギィッッ
僕:痛ッェ! だから、悟朗は何なんだよ!
※この登場人物紹介コーナーは咲視点から見たものらしいですので、鵜呑みにしないでください。




