〇〇の世界-13
6時になる前に、僕もパソコン室を後にして、校門に向かった。
夏なので、まだ空は明るい。明るいといっても、夕焼けなんだけどね。
「あ、しんちゃーん!」
校門から咲の声がして、僕は目を凝らして見る。
校門で咲が、まぶしい笑顔で僕に手を振っていた。
それはいつも通りだ。
「あれ?」
でも、咲の隣になぜだか、悟朗がいた。
部活の方は、もう終わったのかな。
悟朗は、咲が僕に手を振っているのを見て、一瞬不快そうな表情をした。気がした。
僕は、咲と悟朗のもとへ駆け足で、向かった。
咲と悟朗のもとへ到着した瞬間に、僕は思ってみたことを早速声に出した。
「悟朗。部活は?」
悟朗は、苦笑しながら、
「今日は、早めに上がらせてもらった。ちょっと、神治、お前に用があったからな」
めずらしい。バスケ部のエースである悟朗が、わざわざ部活を早めに切り上げることまでして、僕に用があるなんて。
僕は、どんな用なのか知りたくなった。
「用? なんの?」
「……明日の放課後、屋上へ来い。部活はすっぽかせ。話がある」
悟朗は、妙に真剣だった。
「話は、今じゃだめなのか」
ちらりと悟朗は咲のほうを見る。見られた咲は、首を少し横にかしげた。
「今は無理だ。2人っきりで話をしたい」
……なんか、いやな予感がする。『2人っきり』だってね。それに、咲のほうを見ながら言ったってことは咲がいない時にってことだよね。一応言っておくけど、僕はあっち系の趣味をお持ちでないから。マジでやめてくれ。
「僕に告白とかしたら、殴るからね」
これで、悟朗が「すまない。告白するつもりだった」とか言いだしたら、本気で殴る。骨を折るつもりで殴りまくる。
「あ? ……安心しろ。そんな話じゃない」
悟朗の声は、いつものチャラけた感じじゃなかった。これが本当の本当の本当に真剣な話なんだってことは、僕でも分かった。
茶化す必要は、もうない。
「わかった。明日の放課後ね。部活は行かなくても、何のペナルティもないし、かまわないよ」
ここで、悟朗の表情がふっと和らぐ。いつものチャラけた顔になった。
「ありがとな。それじゃあ、俺は、巨乳のねーちゃんを探しに行くとする。お前も行くか?」
「じゃあ僕もそうするかな……ッて、断るッッッ!」
いきなり会話の温度が変わって、思わず流れに任せて、承諾してしまうところだった。危うし。
「なんだ。つまらない男だな。男ならロマンを求めて、だな」
「巨乳のねーちゃんを探しに行くことだけが、男のロマンを求めることだとは限らないと思うなあッ!」
「え? しんちゃん、巨乳が好きなのー?」
さっきまで、おとなしくしていた咲が会話に参戦してきた。
今の咲の発言で、数十人の通行人(学生)が、足を止めてバババッと振り向く。
僕は咲の口を手で押さえつけた。
「むぐううぅうぅ!」
咲は何を言っているのだろう。咲は何を言っているのだろう。咲は何を言っているのだろう。咲は何を言っているのだろう。咲は何を言っているのだろう。咲は何を言っているのだろう。咲は何を言っているのだろう。咲は何を言っているのだろう!
僕が学校で変態扱いされるようになったらどうするつもりなんだろうかッ!
僕は満面の笑みを浮かべて、
「咲、僕は何回こんなことをしなきゃいけないのかな」
「むぐぐぐぅうう」
「もうやめてね。もうやめてね。やめやがれよ。ね?」
「むぐむぐ!」
こくこくと咲はうなずいた。それによって、僕は咲の口から手をどけて解放する。
……なんだろう、このデジャヴ。ってそんなレベルじゃないよね。今までで何人の通行人を振り向かせたことやら。もしかしたら、それでギネスを狙えるかもしれない。狙っても仕方がないけれど。
「……楽しそうだな」
「え?」
気がついたら、悟朗がさびしそうな、苦しそうな表情をして、こっちを見ていた。
僕の視線が、向かった途端に悟朗の表情がいつものチャラけた感じに戻る。
……なにかある。悟朗に何かある。
僕は、直観的にそう感じた。
これは、確実に明日の放課後に、屋上に行くしかないよね。
咲:しんちゃん×悟朗君……はぁはぁ
僕:ぽかっ
咲:あいたっ
僕:咲! お前は何を妄想しているんだ!
咲:えー? しんちゃんと悟朗君がバスケで試合してるところだけどー?
僕:……え、あ、そうなの?




