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1-9 僕に近づくほど、女神の隠しごとが増えていく

◎おこめの視点


火曜日の夕方。

ホテルから渋谷に向かう途中のタクシーで、ソーダさんからのメッセージを読み返す。


ソーダ: 今度、東京に遊びに行こうと思ってるんだけど、そのとき会いたい!


何度見ても嬉しいメッセージだ。

ソーダさんが来てくれる。

私に会いに来てくれる!


前回の定例があんな感じだったから、ちょっと心配したのだ。

杞憂に終わって良かった。



上機嫌のまま、おしゃれな個室居酒屋に入る。

今日は、舞と美香と久しぶりにリアルで会う。


「お久しぶり。元気?」

「いちおう、元気」

「元気だよ!」


舞が、まじまじと自分を見た。

「あや、いつもとなんか違う」

「ほんとだ。彼と順調だから?」

美香も続いた。


二人とも鋭い。昔から、この二人は私自身よりも私のことを分かってるんじゃないかと思うときがある。

だけどソーダさんのことは、もう少し場が温まってから相談したかった。


「うん……。ところで、舞、今の彼氏はどんな感じ?」

舞の彼氏は会うたびに違う。


「続いてる……? 分かんない。自然消滅しそう」

舞はあっけらかんと答えた。


美香が呆れたように笑う。

「あんた、ほんと長続きしないよね」


「うっさい。恋のハンターは運命の人を探してるの。あんたこそ旦那さんとどうなの?」

「仲良くやってるわよ」


相変わらずだ。根っから陽気で楽天的な舞、ツッコミ役の美香、そしてなぜか巻き込まれる自分。


高校で仲良くなったときから、ずっとこんな感じだ。


「あやはどう? 彼とどこまで進んだの?」

舞が目をキラキラさせて詰めてくる。


「あの後、もう1回、行きまして。今度は彼が東京に来てくれるんです」

「本気じゃん。付き合ったの?」


困った。そこが問題だ。

「まだなんですけど……、どうしたら良いか分からなくて。どうしましょう?」


「どうって、付き合うんじゃないの?」

舞はキョトンとした。


「そうなんですけど、そうなんでしょうけど……。このままソーダさんと先に進んでいいのか、自分の判断じゃ心配で。ほら、恋は盲目っていいますし……」


「あー。あやは、今まで誰かとちゃんとお付き合いしたこと無いよね」

「はい。ソーダさんとうまくいったら、初めての彼氏になると思います」

だからこそ、二人にしっかり相談したかった。


「彼は、どんな人なの?」


美香の素朴な疑問で、気づいた。

うっかり、ソーダさんのことを殆ど説明してなかった。冷静にならないと。


「ソーダさんは、ぐいぐい来るタイプじゃなくて。自分に自信がないみたいで」


ソーダさんの性格や、ゲームでのやり取り、実際に会った印象を説明する。前職で体調を崩し、今も実家で療養を続けながら、食品工場で契約社員として働いていることも。


「なるほどね。あやの周りにいなかったタイプだ」

美香が頷く。


ソーダさんはやめたほうが良い、という反応じゃない。

そのことに、ほっとした。


「もしよければ、付き合う前に会う?」

美香が言った。

「私も行くよ!」

舞もだ。心強い。

「はい! お願いします」


「でさ、あやのこと、どこまで喋っていいの?」

美香が聞いてきた。


「えと。東京に住んでて、IT関係の会社で働いてる普通の会社員ということでお願いします……」


美香も舞も私をじっと見た。


「オッケ。まあ、まずは彼に会ってみてからかな」

美香が頷いた。


ふう、とため息をついた。


ソーダさんに近づくほど、隠すことが増えていく。


本当の職業、本当の年収、本当の住所。

心が重い。


でも、せめて今だけは。

ソーダさんには、私を見ていてほしかった。

ただの女の子の私を。


お読みいただき、ありがとうございます。

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