5-1 僕は、彼女の背後霊になることにした
◇
おこめさんが出張に行った日。
夕食のあと、ゲームにログインした。
皆が集まってきたタイミングで限定グループを開く。おこめさんへの告白とかを相談してきた、例のグループだ。
ソーダ: みんな、クリスマスプレゼントで悩んでて相談したい!予算2万円!
ソーダ: 毎日身につけられるものが良くて、アクセとかを考えてるんだけど、2万だと良いものが見つからなくて……
クラッカー: 2万円なら色々あるだろw
金箔のせ: おこめさんて、そんなにオシャレなの?(´・ω・`)
ソーダ: めちゃくちゃオシャレ!なんか、スゴイの。2万円のアクセサリだと、ラスボスに銅の剣で挑むみたいな?
ポテト: 彼女をラスボスに例える彼氏がいたでござる。お奉行様に伝えるべきか?ちょうどログインされてござる
おこめさんに言うってこと!?
ソーダ: ちょっ、褒め言葉!褒め言葉だから!
ポテト: 冗談でござる
クラッカー: コスメは?
ポテト: それは避けるが良いでござるな。オシャレな人ほど研究し尽くして決まったものがあるでござるよ
金箔のせ: 香水とかは!ロマンチック感ある(≧▽≦)
ソーダ: おこめさん、たぶん定番の香水があると思う。いつも同じ良い香りがするから
ペッパー: ソーダさん、しっかり嗅いでる……
クラッカー: 惚気おつww
金箔のせ: サプライズで部屋いっぱいに花を飾るとか!
クラッカー: 予算2万って言ってるだろ
金箔のせ: あっ
ポテト: 恋愛小説の読み過ぎでござる
金箔のせ: うるさい!
パッタイ: 最後は「手紙」ですよ。心がこもっていれば、石ころだってダイヤに見えるものです
金箔のせ: 私は石ころヤダw
クラッカー: 心を込められる伝説の石ころw
ペッパー: それ、宝石なんじゃ……
ポテト: 護身用に手裏剣はいかがでござるか
金箔のせ: 包丁!十徳ナイフ!フライパン!
皆が好き勝手言い出して、収拾がつかなくなってきた。
ソーダ: 皆、ありがとう!ちょっと考えてみる
手紙か……。うーん。
それだけじゃダメな気がする。
でも、渡すときに何を言うか。
メッセージも大事だよね。
うん。良いことを聞いた。
スマホを置いて天井を見た。
おこめさんは、僕が心をこめて選んだものなら何でも嬉しい、と言ってくれた。
その言葉は本当だと思う。
だから、ちゃんと悩みたい。
クリスマスデートまで、あと45日。
◎
サンフランシスコについた。
飛行機を降りると、乾いた空気が肺に入ってきた。
午後の便で出発して、着いたら朝。
時差で夜が1日分消えた。
まあ、仕方ない。
おこめ: こんばんは!着きましたよ
ソーダ: あ、着いたの?お疲れさま
おこめ: はい!大好きです
ソーダ: 僕も大好き。おやすみなさい!
おこめ: おやすみなさい。夢で会いに来てくださいね
ソーダ: 会いに行ったら、おこめさんが起きてる!……背後霊になる?
思わず吹き出した。
おこめ: 颯太さんの背後霊なら大歓迎です!
ソーダ: 分かった!
シリコンバレーを皮切りに、プライベートジェットとエアタクシーでアメリカ中を巡る。
主要なベンチャーのトップと方向性をすり合わせていく。
まずトップ同士で握る、それが大事なのだ。
具体的なところは、実務担当同士で詰めればいい。
マイアミでは巨大IT企業の伝説的な創業者、ジェレミー・コールと会話した。
70歳近いのに、老人病の治療をしっかりやっていて、50歳ぐらいにしか見えない。
「君の会社はサイバーパンクの時代を10年早めた」
興奮気味に言ってくれる。
「してやられたよ。協業の可能性を探らせてほしい」
にこやかに「ぜひ議論しましょう」と答えた。
あのジェレミーに認められたなんて。素直に嬉しい。
ニューヨークへ向かう機内で、ゆきさんからビデオ通話が来た。
「お疲れ様。現地はどうだった?」
「順調でした。予想以上の反響がいくつか」
「それは良かった」
ゆきさんは一呼吸置いてから続けた。
「そういえばあなた、例の彼と順調?」
不意打ちに頬が少し赤くなる。
「はい」
ゆきさんはニコリと微笑んだ。
「ごちそうさま」
それから真剣な顔に戻る。
「彩夏、鵜飼のこと最近どこまで把握してる?」
顔が強張ったのは自覚した。嫌な名前だ。
息を吸って吐く。それからゆきさんに答えた。
「……広告が異常に増えていることくらいは」
「鵜飼の事業、傾いてるみたい。表向きはまだ保ってるけど実はタコ足配当じゃないかって業界で噂になってる。だから必死に広告して集客してる」
良いことを聞いた。
アレは破滅の道を転がりだした。
暗い喜びが心に広がる。
「彩夏、注意したほうが良いわよ」
ゆきさんの声が低くなった。
「あいつは金蔓を探してる。バタフライのアヤカが細川彩夏だって気づかれるのは時間の問題よ。気づいたら、きっと何か仕掛けてくる」
頷く。
「あなただけじゃなくて、その彼も狙われるかも」
ゆきさんが付け足すように言った。
今や、颯太さんは明確にアヤカの急所になっている。
こんなに早く具体的な脅威が出てくるとは思わなかったけど。
颯太さんの危険は、看過できない。
「ゆきさん。鵜飼の調査をお願いできますか。興信所のベンチャーに出資されてましたよね」
ゆきさんが少しだけ首をかしげた。
「時間もお金もかかるわよ」
「かまいません」
アレの破滅を見たいという私怨と、颯太さんを守りたいという愛。
どちらも動くには十分だった。
「わかったわ」
ゆきさんは静かに頷いた。
窓の外、雲海を太陽が照らしている。
眩しいくらいに明るい。
颯太さん。
私の愛する颯太さん。
絶対に失いたくない。
クリスマスプレゼントが届けば少し安心だけど、それまでにも対策をとっておきたい。
とりあえず万一の誘拐に備えて、小型位置追跡ロボットを颯太さんの近くに配置することにした。
親指を平べったくしたみたいなサイズで、ほぼ透明。吹雪でも大丈夫。
重い彼女になっちゃったみたいでため息が出る。
単に颯太さんを守りたいだけなのに。




