4-14 金額は10万倍。気持ちは金額じゃない。
◇
僕の部屋の中。
おこめさんが乱れた服を手早く整えている。
今日のおこめさんは、淡い水色のクルーネックに、深いネイビーのスカート。
水色とネイビーが綺麗なグラデーションを描いていて、知的なおこめさんに良く似合っている。
けれど僕の体にはまだ、さっきの熱が残り、行き場を求めてさまよっていた。
指に触れた繊細な布や柔らかな肌の感触が残ってる。
続き、したかったな……。
だけど服を整えるおこめさんの横顔も、どこか残念そうだった。
おこめさんも我慢してるんだと思えば、自分の欲望で我が儘を言えない。
確かにお医者様からも『激しい運動』は止められてるし……。
「それで、クリスマスのことなんですけど……」
おこめさんの言葉に僕は現実に引き戻された。
クリスマス。
嬉しくも悩ましい。
プレゼント貯金は、今まで必死に貯めて10万円。目標にしていた20万円には、どうあがいても届かない。
そんな情けない僕の悩みは棚に上げて、おこめさんとスマホで情報収集しながら日程やデートプランを相談していく。
今年の24日と25日は平日だ。
「その直前の土日に東京でデート、かな」
「いいですね。楽しみです」
カレンダーを数える。
クリスマスデートまで、あと46日。
「それで、ですね。プレゼントのことなんですけど……」
おこめさんが少し言いにくそうに視線を落とした。
「あの、私、もう買っちゃってて」
「えっ! そうなの? もう?」
「はい。たまたま素敵なものを見つけて、つい」
おこめさんが照れたように微笑む。
説明によると、僕へのプレゼントは2万円くらいだとか。
中身は秘密だと言われたけれど、毎日身につけられるアクセサリー系だという。
「だから20万円のものは、嬉しいんですけど。……貰いすぎかなって思っちゃって」
おこめさんに似合うネックレスをあれこれ考えていたら、勝手に予算が跳ね上がってしまっただけだ。
でも確かにプレゼントのバランスは、心配してた。
「でも大丈夫だよ。僕が勝手に頑張ってただけだから」
おこめさんは頷いた。
「颯太さん。私は颯太さんが選んでくれたら、それだけで嬉しいです。でも、颯太さんは……自分で払いたいんですよね?」
「……そうだね」
おこめさんへのプレゼントをおこめさんが払うのは、さすがに違う。
それは、おこめさんも理解してくれていた。
「あの、でしたら予算は2万円でお願いします。別にアクセサリーでなくて良いです。私は、颯太さんが私のために一生懸命悩んで選んでくれたことが、何よりも嬉しいんですから」
おこめさんは僕の手を握り、真っ直ぐに僕の目を見た。
「出すお金を増やせば、手に入るもののグレードは上がります。選択肢も広がるでしょう」
深く頷く。2万円だと、本当に選択肢が限られた。
「でも、予算を上げると、その分、私を想って悩む時間は減ってしまいますよね。私のためのアルバイトかもしれないですけど、目の前の仕事に集中しちゃいません?」
「……僕、バイトで辛くなったら、おこめさんのこと考えてた!」
「……えっ?」
「あれを買ったら喜んでくれるかなって」
おこめさんが、ぱちぱちと瞬きをした。
「……それは、ずるいです」
「ずるい?」
「そんなことを言われたら、嬉しいじゃないですか」
おこめさんは少し頬を赤くしてから、僕の手を握り直した。
「でも、プレゼントのために無理なアルバイトはしないでくださいね。予算は2万円でお願いします」
「……結構難しいなぁ」
「はい。たくさん悩んで、たくさん私のこと考えてくださいね!」
いい笑顔だ。可愛いなぁ。くそう。
「……わかったよ。でも、バイトは最低限したくて、良いかな? 東京への交通費やデート代は、ちゃんと自分で稼ぎたい!」
あの働きやすいドラッグストアのバイトだ。
店長さんからも、先日の病欠をお詫びしたとき、
元気になるのを待ってるから直接連絡して、と言われている。嬉しかったし、期待に応えたい。
おこめさんは「お医者様が良いと言えば、ですよ」と、条件付きで微笑んでくれた。
その日の夕食は、おこめさんが作ってくれることになった。
メガネ姿のおこめさんが、台所で母さんから僕の味の好みを細かく聞き出している。
リビングから見ていて気づいたけど、おこめさんは、実はあまり手先が器用じゃない。
包丁を持つ手つきがどこか危なっかしい。
母さんも隣でハラハラしているのが伝わってくる。
「彩夏さん、そんなに力を入れなくても大丈夫よ」
「……はいっ」
おこめさんは、仕事の打ち合わせでもしているみたいに真剣に頷いた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ」
「でも、颯太さんには、できるだけ美味しくて見た目もきれいなもの食べてもらいたくて……」
母さんが、ちらりと僕を見た。
……いや、そこで僕を見るのはやめて。
食卓に並んだのは、少し形がいびつな肉じゃがと、きりざい、そして豆腐の味噌汁。
おこめさんは少し恥ずかしそうだ。
「あの……、颯太さん。食べてみてください」
「ありがと。いただきます!」
なんだか僕まで緊張しちゃう。
ジャガイモを一口食べて驚いた。
歯ごたえは柔らかすぎず、硬すぎない。味も、中までしっかり染みてた。
味付けも火加減も、理想の肉じゃがだった。
「最高! すごいね、おこめさん」
僕は満面の笑顔だったと思う。
「ありがとうございます!」
おこめさんは、メガネを外して微笑んだ。
そして、自分も嬉しそうに肉じゃがを食べた。
そんなおこめさんを見て、僕は決意した。
おこめさんに、素敵なプレゼントを見つけよう。
おこめさんが喜んでくれて、僕も納得できる最高のプレゼントを。予算2万円で。




