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1-7 いつもは僕からなのに、今週は女神から

◎おこめの視点


宇宙大戦イベントが終わった。

スマートグラスを取って、こめかみを揉む。

1位フィニッシュは素直に嬉しいけど、それ以上に安堵感があった。


私、神様じゃないのにな、と思う。

間違えることはある。確率だって操作できない。

ただ、頼られると頑張ってしまうだけなのだ。


勝って当然だというプレッシャー。

小さい頃から100点じゃないと驚かれた。

もう慣れたけど重たい。


ソーダ: おこめさん、お疲れ様! 明日レポート送るね。おやすみなさい

通話アプリでメッセージが来た。


まだ起きててくれた!

「お疲れ様」の一言が、嬉しい。


おこめ: ソーダさんもお疲れ様でした。ゆっくり休んでくださいね!


既読にならない。

たぶんもう寝ちゃったんだろう。


翌朝、レポートが届いた。

相変わらず丁寧で、前回よりも分かりやすい。お願いして良かった。


夜、自宅のリビングでワクワクしながらビデオ通話を待つ。


いつもなら9時ちょうどにかけてくれる。

だけど、今日は時間になっても鳴らない。


アレ、と思った。

こういうときもあるのかな、と思いながら通話をかける。自分からかけるのは初めてだ。


数コールの後、出てくれた。

「こんばんは」

ソーダさんの顔色が悪い。声も力がない。


「こんばんは。……ソーダさん、大丈夫ですか」

「大丈夫だよ。ちょっと疲れてるだけ。今週忙しかったのと、昨日のイベントで体調崩しちゃったかも」

大丈夫なようには見えない。

「昨日、遅かったですからね……。記録係を頼んでしまってごめんなさい……」


あのとき迷ったのだ。ソーダさんに負担をかけるのが心配だったから。

失敗だった。


「うん。大丈夫。僕からやりたいって言ったし。ありがとね」

「何がですか?」

「おこめさんから電話してくれて。普段、僕からなのに」


「……いえ! 私も毎週、かけたかったんです!」

「そうだったの!?」

「はい。でも、いつもソーダさんのほうが先で。今日は私の初勝利ですっ!」

「電話って、勝負だったんだね」


自分の冗談で、やっとソーダさんが笑ってくれた。

だけど、話が続かない。


「あの、レポート、丁寧にありがとうございました! おかげさまで報酬配分もちゃんとできましたよ!」

「良かった……」


また間が空く。

こんなこと、今までなかったのに。

なんの話題をすればいいのか、分からない。


「おこめさん、すごかったね。昨日……」


この言葉、この会話。

過去の嫌な思い出が頭をよぎる。


「ありがとうございます! 運も良くて、何とかなりました」


何となく、これ以上続けるのは、良くない気がする。それに体調が悪いなら早く休んでほしい。


「あの、ソーダさん……。無理は良くないですし、今日は、もう終わりますか?」

「ごめんね。せっかく電話してくれたのに」

「謝らなくていいですよ。また来週、話しましょう」


ソーダさんが少しホッとした顔になった。

「ありがと」


「ゆっくり、休んでくださいね。ソーダさん。おやすみなさい。また来週」

「うん。おやすみ……」


通話が切れた。

ソーダさんは「また来週」と返してくれなかった。

いつもは言ってくれるのに。


体調が悪いだけだと思いたい。

早く元気になってもらって、また楽しくおしゃべりしたい。


だけど。

本当に体調だけかな……。


過去の友人達にも、自分が活躍したイベントの後に引いていった人がいた。

「彩夏がいれば十分でしょ?」とか、「彩夏と一緒にやるの、嫌になっちゃった」とか言って。


心の奥底で、虚無の井戸がちらりと見えた。

目をそらす。


ソーダさんは大丈夫。

そう言い聞かせる。

来週はきっと、いつもみたいに話せる。


   ◆◆◆


◇ソーダの視点


定例の画面が暗くなった。

いつもより、ずっと短い通話だった。


僕は、暗くなった画面をじっと見た。

切れる直前のおこめさんの心配そうな、悲しそうな顔が頭に浮かんで離れない。


頭が締め付けられたみたいに痛い。

屋根の雨音が耳に飛び込んでくる。


おこめさんは、どうして僕と仲良くしてくれるんだろう。


喉が渇いた。

何とか体を起こし、1階に降りる。


リビングでテレビを見ていた両親が振り返った。

「颯太、顔色が悪いよ。大丈夫?」


サッと立ち上がった母さんが僕の額に手をあてた。

血相が変わる。


「あんた、熱出てるじゃない。はい、病人は部屋に戻る! おとうさん! 体温計とお水!」


母さんに支えられ、降りてきたばかりの階段を上ってベッドに寝かされる。


普段は早く実家を出たいと思ってるけど、こういうときは実家のありがたみを感じる。


「何があったの?」

母さんが、僕に熱冷ましを渡しながら聞いた。


昨夜のおこめさんが頭に浮かぶ。

だけど恥ずかしくて言えなかった。

「昨日、夜遅かった……」


「嘘。あんた、最近この時間に、楽しそうに誰かと話してたでしょ。女の子と」


普通にバレた。


「おいもさんだっけ? わざわざ会いに来てくれた子」

「おこめさん……!」

ムッとして訂正する。おこめさんは、芋っぽくない。


母さんは、柔らかい笑みを浮かべた。

「その子と喧嘩した?」

「してない」


「そう?」

全然信じてない口ぶりだ。


電気を消して部屋を出ようとする母さんに問いかける。

「母さん、僕の良さってなに……?」


「なにって……、いろいろあるじゃない。優しいとか、人をよく見てるとか」


僕は頷いた。

それは、たくさんの人から言われる。


「……ま、体調が悪いと気分も暗くなるしね。ゆっくり寝なさい」

母さんはそう言ってから、部屋を出た。


暗い天井を見ながら、夕焼けに照らされるおこめさんの笑顔を思い出す。


おこめさんは、僕を好きでいてくれてるんじゃないか。勘違いじゃなければ嬉しい。

だけど、なんでだろう。


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