1-6 また来週。その当たり前が嬉しかった
◇ソーダの視点
前回のデートから5週間。
デートの翌日から始まった日曜日の通話は、僕たちの定例になった。いつも楽しくて、本当は毎晩話したいくらい。
今日も約束の9時ピッタリにかける。おこめさんは、いつも着信音が鳴った瞬間に電話を取ってくれる。それが嬉しい。
「こんばんは!」
おこめさんが笑顔で画面に映った。
「おこめさん、こんばんは!」
あのとき、連絡先交換できてて良かった。梅雨に入って雨が続いてるけど、僕の心はずっと晴れやかだ。
今日のおこめさんは、Vネックの白いブラウスを着ている。少し長めのショートヘアの下、耳元に金色のイヤリングがキラキラしていた。
おこめさんは、今日もオシャレだ。僕も気を抜けない。
おこめさんの背景は、いつもゲームの壁紙だ。エイリアンの宇宙艦隊が星のように大きな宇宙怪獣と戦っている。おこめさんらしいと思う。
「今週もお疲れ様でした。どうでした?」
「いつもどおりだよ。ちょっと原料の品出しでミスしちゃったけど、班長に助けてもらった」
「班長さんが良い人で良かったですね」
「うーん。そうだね。酒癖は悪いけど、まあ、良い人かな。おこめさんは?」
なんとなく、おこめさんは本名ではなく、ゲームの名前で呼んで欲しそうな気がする。
「私もいつもどおりでした。そういえば、先週、ソーダさんが紹介してくれた『紅の猫』を見ましたよ!」
「ギブリの? 見てくれたんだ! どうだった?」
「はい、初めて観たんですけど、見た目は可愛いネコなのにハードボイルドで。ギャップが面白かったです!」
記憶のなかで、猫が渋い声で言った。
『俺は、行く。お前はどうだ』
見た目は超可愛い猫なのに。
「わかる。あの猫、妙に格好いいんだよね」
「はい。何度やられても諦めませんし」
「僕、ああいうの好きなんだ」
「ソーダさんらしいですね」
「そうかな?」
「はい!」
なんだか、ちょっと嬉しい。
「ねえ、おこめさん。結局、あの猫は人間に戻れたと思う?」
おこめさんは、両手をあわせて微笑んだ。
「私は戻れたと信じたいです」
「おこめさん、ハッピーエンド好きだよね」
「ソーダさんもでしょう?」
どちらからともなく、ふふ、と笑いがこぼれる。
なんか照れてしまった。
「また何かおすすめ、教えてください」
「もちろん! 『世界よ、こんにちは!』ていう映画があってね」
「どんな映画なんです?」
「SFのアニメ映画なんだけど、主人公が」
「……主人公が?」
「ごめん、ネタバレしそうになった」
「えー!?」
「じゃあ公式のあらすじだけ」
熱心に聞いてくれるおこめさんに、僕の紹介にも力が入る。
周りにアニメの話をできる人があまりいないから、つい熱が入ってしまう。
「そうだ。来週の宇宙大戦、おこめさんは前回みたいに指揮官するの?」
宇宙大戦は、3か月に1回、ゲームで開催される大イベントだ。報酬も美味しい。
「ええ。くろねこ☆さんから頼まれまして。クレイジーキャッツの皆さんも張り切ってますよ」
クレイジーキャッツは、星域で一番強い同盟だ。闇鍋みたいなノンビリ同盟とは違う。
「そうなんだ。すごいね」
前回のおこめさんも、すごかったもんな……。
「僕に手伝えることある?」
おこめさんは、ちょっと考えた。
「……もし、ソーダさんがよければなんですが、前回みたいに記録係をお願いできますか。前回のレポートもすごく丁寧で、助かったので」
「いいよ! 頑張る」
普段は11時頃に寝てるから、夜1時まで起きて集中するのは辛い。
だけど、おこめさんと皆のためなら、頑張れる。
「ありがとうございます。助かります。でも、無理はしないでくださいね」
「分かった!」
楽しい時間だったけど、10時を過ぎた頃、おこめさんが言った。
「遅くなってきましたし、そろそろおやすみにしましょうか」
「うん。今日も楽しかった! また来週!」
「はい! 私もです。宇宙大戦も楽しみですね。おやすみなさい、また来週!」
二人とも笑顔でバイバイする。
また来週。その当たり前が嬉しかった。
土曜日、宇宙大戦の日になった。
今週は忙しかったので疲れが溜まっている。
夜10時。宇宙大戦イベントが始まった。チーム闇鍋の皆はやる気満々だった。
金箔のせ: 今夜は一番とるぞーーー!!
ソーダ: がんばるよー!
ポテト: 拙者の毒手裏剣が血に飢えてござる!
クラッカー: 誰が撃破数一番か競争しようぜw
同じ星域で遊ぶ味方の同盟も集まってくる。
おこめ: こんばんは!皆さん、よろしくお願いします!
くろねこ☆: おこめさん、今日は全体指揮ヨロシク☆
カイザー: 神様降臨、イェーイ!勝ったな。
開戦した。
皆が偵察を始める。
僕も偵察しながら、星域チャットに目を配り、皆の作戦活動を記録していく。
おこめ: ソーダさん、記録順調ですか?
全体指揮で忙しいはずなのに、僕に個別メッセージをくれた。それだけで嬉しくなる。
ソーダ: うん、大丈夫!
おこめ: ありがとうございます!宇宙怪獣以降は、記録はそんなに頑張らなくて大丈夫です
ソーダ: わかった!おこめさんも、指揮お疲れ様
おこめ: ありがとうございます!無理しないでくださいね
ソーダ: 了解!
その間も、おこめさんが次々と他の星域の人たちと交渉をまとめていく。日曜の定例や個別チャットとは、雰囲気が全然違う。仕事中のおこめさんも、こんな感じなのかな。
だんだん僕の瞼が重たくなってきた。
気づけば、全星域がおこめさんの作戦に乗っていた。
おこめ: 11時半に全星域で巨大宇宙怪獣に突撃します! ただ、カイザーさん達は合図を待って突入してください。
カイザー: 任せとけ!
カイザーさんは超重課金の人で、僕達の星域で一番強い。いつもは好き勝手に動くのに、おこめさんの指示には素直に従う。
突入時刻になった。
巨大宇宙怪獣が画面いっぱいに広がる。
おこめさんの壁紙にいるアイツだ。
最後の一撃を入れた星域が大量のポイントをもらえる。タイミングをみて、おこめさんが指示を出した。
おこめ: 攻撃スキル使うのやめてください! カイザーさんは突入を!
カイザー: りょ
カイザーさん達が突入してくる。
他の星域が慌てるけど、もう遅い。
おこめさんの作戦通りに進んでいく。
おこめさんは、本当にすごい。リアルで会ったときの姿と、ゲームのときの姿が重なる。
まるで大きな山だ。
おこめさんのことは変わらず好きだけど、近づいたからこそ、見上げるように大きく感じる。
深夜1時にイベントが終わった。
1位フィニッシュだ。
金箔のせ: やったーーー!!ヽ(★´▽`★)ノ
カイザー: 神様に太陽のポーズY
おこめ: 皆さん、ありがとうございました!
眠いし、頭も痛い。
ソーダ: おこめさん、お疲れ様!記録は明日送るね。おやすみなさい
僕も何とか、おこめさんに個別チャットを送る。
寝落ちしそうだ。
とりあえず、今日はもう寝よう。
明日は日曜日。定例の日だ。




