1-5 僕と連絡先、交換しない?
◇ソーダの視点
勇気を出す。
「あの、良かったらっ」
息を吸った。
「……連絡先、交換しない? ゲームじゃなくて、通話アプリで」
「はい。交換しましょう!」
おこめさんは、微笑みながらスマホの画面を差し出してくれた。
良かった。これでまた話せる。
「ごめんなさい、名乗ってなかったですね。私は細川彩夏です。よろしくお願いします」
「ありがとう! 僕は颯太。田中颯太だよ!」
おこめさんが、くすっと笑った。
「わかりやすいですね。ソーダさんらしい」
「なんで、おこめさん、って名前にしたの?」
「リーダーがお味噌さんだったとき、メンバー名を食材で揃える方針だったじゃないですか」
「うん。だったね。口に入るものなら何でも大丈夫だった」
「お鍋にあうものは何かな、と考えまして」
「なるほど。締めの雑炊だ! ……僕は、コップの中に入ってる」
おこめさんが一瞬きょとんとした。
「ソーダ煮もありますよ」
「あるの!?」
「ええ。豚の角煮とか。柔らかくなるそうですよ」
「僕、飲み物じゃなくて煮込まれる側だったの!?」
「はい。グツグツ」
手を上下に動かしている。沸いた鍋の泡かな。
「やめて、煮込まないで! 僕のシュワシュワがー!」
「もう闇鍋に入ってますからね。諦めてください」
おこめさんが大真面目な顔で宣言した。
こらえきれなくなって、二人で大笑いする。
気づけば、終電の時間が迫っていた。
あっという間だった。
「あ、そろそろだね……」
「ええ……」
お店を出る。
おこめさんが改札を通った。
「また通話アプリで連絡するね。もっとおこめさんと話したい!」
おこめさんは振り返って、にっこりした。
「はい! 楽しみです」
おこめさんは、手を振ってから、足早にホームへの階段を上っていった。
おこめさんは東京に住んでて、僕は新潟に住んでる。だけどこれからは、遠く離れてても、すぐにまた話せる。
それが嬉しかった。
おこめさんにとっても、今日が特別なデートだったら良いんだけど。
◆◆◆
◎おこめの視点
東京行きの新幹線の中で、窓の外を眺める。
今日のデートはドキドキして楽しかった。
ソーダさんと手もつなげた。
終わってしまうのが残念だった。
はしゃぎすぎて、ソーダさんを困らせてしまったかもしれない。
自分が本当に子供だったときでも、あんなにはしゃいだことは無かったはずだ。
ちょっと申し訳なかった。
お金を出せば、もっと豪華な一日はいくらでも作れる。高級ハイヤーで名所を巡り、有名な夕焼けスポットを貸し切ることだって。
でも今日みたいな日は、きっと作れない。
目を閉じると、大きな夕日と金色に輝く海、そしてソーダさんの優しい笑顔が浮かんでくる。
今日の服も新しそうだし、なんだか決まってた。
いっぱい準備してくれてたのかな。
損得のない高校生になったかのような気分。
自分が本当に学生のとき、青春なんてとても無理だったけど、こんな感じなのかも。
これからは、ビデオ通話だってできる。
仕事だけなら当分は新潟に来ないで済む。
今度新潟に来るとすれば、ソーダさんに会いに来るときだろう。
『近づくと危ない。今のうち、離れるべき』
理性の自分が呟く。
なんで? もう一人の自分が問う。
せっかく、ソーダさんと順調なのに。
『深入りするほど、傷も深くなるよ。彩夏のことを知ったら離れていくかも』
理性が言った。
自分が普通の人じゃないのは分かってる。
最初は仲良くしてくれたのに、あるとき急に冷たくなった人は、今までに何人もいる。
だけど、私はソーダさんが好きだから。
ソーダさんに賭けてる。




