4-9 困った。今夜は仕事がない。
◇
ゲームに入ると、チーム闇鍋は変わらず賑やかだった。
ソーダ: ばんわー
おこめ: こんばんは!
ソーダ: 最近インできてなくてごめん
チャットが一気に動き出す。
クラッカー: おっ、二人同時ログイン。もう隠す気ないでしょw
金箔のせ: えー!えー!これはどういうこと!(ノ≧▽≦)
ポテト: 石焼き芋の準備でござる。アチチ!
パッタイ: お二人とも、おかえりなさい
鴨ネギ: あ、やっぱり二人は対面オフ会で……?
おこめさんと目が合った。
どう答えようか、という目をしていた。
「どう返す?」
「……『想像にお任せします』はどうでしょう」
「……ほんとに?」
それは、肯定してるのと同じだ。
同盟のリーダーとサブリーダーが付き合ってるなんて公開しても良いのかな。
「ええ。ダメですか?」
頷くおこめさんの上目遣いが、あざと可愛い。
「……うん。いいよ」
迷ったけどおこめさんが、そこまで言うなら、僕に止める理由もなかった。
おこめさんがスマホに打ち込むのをドキドキしながら見守る。
閉じたグループに相談するのと、公開チャットで交際をバラすのは全然違う。
おこめ: 想像にお任せします
クラッカー: 肯定じゃんww完全に肯定ww
ペッパー: もう隠さないんだ……
おこめ: すみません、忙しいのも一段落しまして、前みたいにインできそうです
金箔のせ: やったーーー!!(≧▽≦)!!うれしい!!
ポテト: 結婚式の準備は順調でござるか?
ソーダ: ちょ、そうじゃなくて!
クラッカー: もう式を挙げたのかw
ソーダ: まだ!
ペッパー: 「まだ」?
ソーダ: あっ
おこめ: 挙げるときは皆さんも呼びますね!
パッタイ: 行きますよ!タイから!
おこめ: お待ちしてます!
久しぶりのゲームは皆でワチャワチャしていて、やっぱり楽しかった。
おこめさんをチラッと見る。
微笑みながらチャットをするおこめさんの耳が少し赤かった。
◆◆◆
◎
颯太さんが眠ったのを確認してから、ご両親に挨拶をして玄関を出た。
「気をつけてね」とお母様が言ってくれた。
「ありがとうございます。おやすみなさい」
夜風が頬に当たった。11月の新潟の夜だ。
少し荒れてきていた。
颯太さんの車のシートに座る。
シートが冷たい。
メガネをかけてエンジンをかけた。
どこにブレーキがあるか。どこまでハンドルを切れば正しく曲がれるか。直感というかたちでメガネが教えてくれる。
ホテルの部屋に戻ってスマホを確認する。
メッセージ、なし。パブリシティ、更新なし。
巨大イベント後の日曜日で、チームは完全オフだ。
困った。仕事がない。
まだ夜10時なのに処理すべき仕事がないのは、どうにも落ち着かなかった。
お風呂で体を温めた後、丁寧にボディメイクをした。久しぶりの負荷に筋肉が嬉しい悲鳴を上げる。
その後、またシャワーで軽く汗を流す。
服を着替えても、まだ11時だった。
颯太さんのオススメのアニメを思い出して、アプリを開く。
1話25分。全12話。合計5時間。
時間が勿体なくて、30分のダイジェストにしてしまった。
颯太さんに言う感想を考えながら見た。
ノートも取った。主人公の指導役のお兄さんは言葉が足りなくてすれ違いを招いたけど、咄嗟に整理して言うのは難しかったかもしれない。
見終わった後、気になった部分をネットで調べてから、今度は2倍速でダイジェストをもう一回見た。
大丈夫。これで颯太さんと会話できる。
まだ12時だ。
だけど寝るのは勿体ない気がする。
サイボーグ技術に関する基礎研究の論文を開いた。以前、リードエンジニアのトレイシーが薦めてくれた論文だ。
マウスを握る手を見た。
颯太さんが優しく握ってくれた手を。
今朝、気遣うように包み込んでくれた。
颯太さんの手を思い出すだけで、温もりが戻ってくる気がする。
ケアロボットのタコちゃんが、パックの袋を持って、忘れてませんかというふうに振っている。
そうだった。忘れてた。
顔にパックを貼り付ける。
そのまま、さっきのゲームチャットを思い出す。
颯太さんとの結婚式。
颯太さんも、まんざらではなさそうだった。
全ての障害を乗り越えて、ゴールインできたら。
新郎側の列席者は、颯太さんのご家族と颯太さんの親友たち。
新婦側は、舞と美香、ゆきさん。あと大学時代の友人とか。
規模は小さくて良い。
田んぼが見えるレストランで、晴れた日に、外で誓いを立てる。
颯太さんが笑っている。自分も笑顔だ。
ただの想像なのに胸の奥が温かくなる。
こんな日が、いつか来ると良い。
気づけば夜の2時だった。
そうだ。クリスマスプレゼントも話さないと。
颯太さんに無茶をしないでとは言ったけど、颯太さんは、クリスマスプレゼントを準備したいはずだ。
颯太さんが、また無茶しても困るし、落ち込んでも欲しくない。
……いつ、話そうかな。




