4-5 やがて家族になるかもしれない人たち
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スピーチが終わった。
万雷の拍手の余韻を背中に受けながら、ステージを降りた。
グラハムが控え室の扉を開けて待っていた。
「最高だったよ、アヤカ」
「ありがとう」
仮面を外す。
外した瞬間、スマホに手が伸びていた。
穂乃花さんからのメッセージが届いていた。
飯田穂乃花: 颯太、さっき目が覚めた。今夜、面会できるかも
良かった。息を、ゆっくり吐いた。
肩からステージの重力が、すとんと抜けた。
細川彩夏: ありがとうございます!良かったです
「アヤカ、すまないが次のミーティングがもう始まる」
グラハムが急かしてくる。
「わかりました」
気は焦るけど、今、動いても仕方ない。
明日には颯太さんに会える。
まずはカンファレンスに集中しよう。
また仮面をつけて立ち上がった。
1本25分のミーティングを立て続けに終わらせ、懇親会のテーブル巡りも休む間もなくハチドリのように片付ける。
グラハムの段取りは完璧だった。
全てが終わると、穂乃花さん達も面会を終えていた。元気とは言えないけど、会話はできたらしい。胸をなでおろす。
仮面をグラハムに託して、エアタクシーに飛び乗った。
これからのスケジュールを確認する。
アヤカができるだけ日本にいられるよう、グラハムとアミラが必死の日程調整をしてくれた。
結果、水曜日の朝まで新潟にいられる。
颯太さんが退院しても、しばらくは安静が続く。私がいない夜も、側で見ていてほしかった。
お土産も必要だ。颯太さんのご家族と会うから。
何を持っていけばいいのかな。
初めての手土産というのは、なんというか、答えのない問いだった。
百貨店の外商さんと相談して、自宅に届けてもらう。結局、定番がよいということで、チョコチーズをサンドしたラングドシャを3箱買った。
翌朝、羽田に降り立った。
東京の自宅に立ち寄り、着替える。
準備していた見守りロボットとお土産を持って東京駅へ。
新幹線の中で、メッセージが来た。
飯田穂乃花: おはようございます。颯太は、今日、退院だそうです
嬉しくて涙をこらえる。良かった。
新幹線を降りると秋晴れの空は、高く、青かった。
空を雁がV字型に編隊を組んで飛んでいく。白鳥の群れも見えた。
新潟の11月の空。颯太さんが毎日見ている空だ。
病院へ向かうタクシーの中で、メガネをかけた。
シルバーフレームのスマートグラス。
昨日発表したバタフライの新製品、その試作カスタムモデルだ。
見かけはシンプルだけど、中身は超ハイテク。
視線を向けるだけで生体情報の概要が分かる。
颯太さんの顔を、自分の目で確かめたかった。
病院が、田んぼに囲まれて建っている。
正面玄関が見えた。
約束の時間には少し早いけど、三人が立っていた。
どこか、颯太さんと顔立ちや雰囲気が似ている。
タクシーを降りた。
吸いつくように冷たい秋の風が、すっと頬をなでる。不思議と香ばしい匂いがした。
「細川彩夏と申します。本日は、ありがとうございます。颯太さんには、いつも大変お世話になっております」
両手を揃えて深く礼をする。
顔を上げると、三人がそれぞれの表情をしていた。
颯太さんのお母様は、やわらかく目を細めた。
「遠くから来てくれてありがとうね。私、美恵といいます。彩夏さんのことは、いつも颯太から聞いていますよ」
何を聞いたのか、少しドキッとした。
颯太さんのことだから、変なことは言ってないはずだけど。
「父の勝利です」
お父様は、静かに言った。
背が高い。颯太さんと同じ目の形をしていた。
一見、落ち着いて見えるけど、どこか緊張してそうだった。
「穂乃花です。急なことでしたけど、颯太のために来ていただいてありがとうございました」
穂乃花さんの声は、はっきりしていた。
笑顔だけど本心じゃない。
私を嫌っているわけじゃない。
ただ、弟のために見定められてる。
この人たちは、やがて家族になるかもしれない。
「こちらこそ知らせていただき、ありがとうございます」
素直に頭を下げる。
「入ろう」
颯太さんのお父様が声をかけた。
病院に入ってしばらくすると、車椅子に乗せられた颯太さんが出てきた。
嬉しいような、申し訳なさそうな顔だ。
「颯太さん!」
その顔をみた瞬間、思わず駆け寄った。
ご家族の前ということも忘れて、ただただ、颯太さんを抱きしめたかった。




