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4-5 やがて家族になるかもしれない人たち

◎


スピーチが終わった。

万雷の拍手の余韻を背中に受けながら、ステージを降りた。


グラハムが控え室の扉を開けて待っていた。

「最高だったよ、アヤカ」


「ありがとう」

仮面を外す。


外した瞬間、スマホに手が伸びていた。

穂乃花さんからのメッセージが届いていた。


飯田穂乃花: 颯太、さっき目が覚めた。今夜、面会できるかも


良かった。息を、ゆっくり吐いた。

肩からステージの重力が、すとんと抜けた。


細川彩夏: ありがとうございます!良かったです


「アヤカ、すまないが次のミーティングがもう始まる」

グラハムが急かしてくる。


「わかりました」


気は焦るけど、今、動いても仕方ない。

明日には颯太さんに会える。

まずはカンファレンスに集中しよう。


また仮面をつけて立ち上がった。


1本25分のミーティングを立て続けに終わらせ、懇親会のテーブル巡りも休む間もなくハチドリのように片付ける。

グラハムの段取りは完璧だった。


全てが終わると、穂乃花さん達も面会を終えていた。元気とは言えないけど、会話はできたらしい。胸をなでおろす。



仮面をグラハムに託して、エアタクシーに飛び乗った。


これからのスケジュールを確認する。

アヤカができるだけ日本にいられるよう、グラハムとアミラが必死の日程調整をしてくれた。


結果、水曜日の朝まで新潟にいられる。

颯太さんが退院しても、しばらくは安静が続く。私がいない夜も、側で見ていてほしかった。


お土産も必要だ。颯太さんのご家族と会うから。

何を持っていけばいいのかな。

初めての手土産というのは、なんというか、答えのない問いだった。


百貨店の外商さんと相談して、自宅に届けてもらう。結局、定番がよいということで、チョコチーズをサンドしたラングドシャを3箱買った。



翌朝、羽田に降り立った。

東京の自宅に立ち寄り、着替える。

準備していた見守りロボットとお土産を持って東京駅へ。


新幹線の中で、メッセージが来た。


飯田穂乃花: おはようございます。颯太は、今日、退院だそうです


嬉しくて涙をこらえる。良かった。


新幹線を降りると秋晴れの空は、高く、青かった。

空を雁がV字型に編隊を組んで飛んでいく。白鳥の群れも見えた。


新潟の11月の空。颯太さんが毎日見ている空だ。


病院へ向かうタクシーの中で、メガネをかけた。

シルバーフレームのスマートグラス。


昨日発表したバタフライの新製品、その試作カスタムモデルだ。

見かけはシンプルだけど、中身は超ハイテク。


視線を向けるだけで生体情報の概要が分かる。

颯太さんの顔を、自分の目で確かめたかった。



病院が、田んぼに囲まれて建っている。

正面玄関が見えた。


約束の時間には少し早いけど、三人が立っていた。

どこか、颯太さんと顔立ちや雰囲気が似ている。



タクシーを降りた。


吸いつくように冷たい秋の風が、すっと頬をなでる。不思議と香ばしい匂いがした。


「細川彩夏と申します。本日は、ありがとうございます。颯太さんには、いつも大変お世話になっております」


両手を揃えて深く礼をする。

顔を上げると、三人がそれぞれの表情をしていた。



颯太さんのお母様は、やわらかく目を細めた。


「遠くから来てくれてありがとうね。私、美恵といいます。彩夏さんのことは、いつも颯太から聞いていますよ」


何を聞いたのか、少しドキッとした。

颯太さんのことだから、変なことは言ってないはずだけど。


「父の勝利です」

お父様は、静かに言った。

背が高い。颯太さんと同じ目の形をしていた。

一見、落ち着いて見えるけど、どこか緊張してそうだった。


「穂乃花です。急なことでしたけど、颯太のために来ていただいてありがとうございました」


穂乃花さんの声は、はっきりしていた。


笑顔だけど本心じゃない。

私を嫌っているわけじゃない。

ただ、弟のために見定められてる。


この人たちは、やがて家族になるかもしれない。


「こちらこそ知らせていただき、ありがとうございます」

素直に頭を下げる。



「入ろう」

颯太さんのお父様が声をかけた。


病院に入ってしばらくすると、車椅子に乗せられた颯太さんが出てきた。

嬉しいような、申し訳なさそうな顔だ。


「颯太さん!」


その顔をみた瞬間、思わず駆け寄った。

ご家族の前ということも忘れて、ただただ、颯太さんを抱きしめたかった。


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