3-19 疲れた僕達は、のんびり朝ごはんデート
◇
涼しさを感じて、ふと目が覚めた。
まだ暗い。何時だろう。
隣が寒かった。薄目を開ける。
一緒に寝ていた筈のおこめさんがいない。
部屋の端が少し明るい。
ホテルのデスクで、おこめさんが真剣な顔でノートパソコンを見ている。
僕がいつも見ているおこめさんの顔じゃない。
怖いくらい集中している顔だ。
……仕事を、してるんだ。
そう理解するのに少しだけ時間がかかった。
信じられない。
時計を見たいと思ったけど、スマホをつけたら起きたのがバレてしまう。
おこめさんを邪魔したくなかった。
僕は目を閉じた。暗いホテルの部屋に、おこめさんがキーボードを打つ音が静かに響く。
よく考えたら、水曜日の夜9時の定例通話も最近の日曜日も、デート服やおうち服じゃなかった。
日曜日の定例を始めた頃は、もう少しデート服の雰囲気だったのに。
宇宙人の探査ロボ、というおこめさんの高校時代のあだ名が思い出される。
同じ人間とは思えない。その差は僕が想像していたよりも、ずっと大きかった。
それがモヤモヤする。
やがて僕は、また眠りに落ちた。
キーボードの音は、変わらず静かに響いていた。
朝になった。
髪を撫でられる感触で目が覚めた。
目を開けるとおこめさんがベッドに座って僕を撫でていた。
「颯太さん、おはようございます」
そう言って微笑むおこめさんは服も着替え終わって、ばっちりメイクも済んでいる。
いつ寝たんだろう。
今日はオフホワイトのVネックニットと、ネイビーのロングスカート。
ゴールドのネックレスが可愛らしい。
「おはよう」
そう言って起き上がる。
じんわりと頭が重い。
日頃の疲れもあるし、夜中に目が覚めて悶々と考えちゃったからだ。
「昨日、あまり眠れませんでしたか?」
おこめさんが聞いてきた。
「うーん、大丈夫。そんなことないよ」
「なら、良かったです」
おこめさんが微笑んだ。
ベッドから降りようとして、フラっとしてベッドに手をついた。
「……颯太さん、今日は車を使わないで、のんびり過ごしましょうか」
ベッドの端に腰かけたおこめさんが、優しく僕の頬を撫でた。
「午前中はお部屋で映画でも見て、午後は駅前でぶらぶらしましょう」
手のひらが温かい。
昨夜、僕が寝た後に仕事をしていたおこめさんの横顔が思い浮かぶ。
僕は彼女を楽しませるどころか、気を遣わせている。僕のほうがずっと寝てるのに。
「……大丈夫だよ」
「でも、昨日も映画館でお休みでしたし。颯太さんが無理して頑張ってくれるより、笑顔でいてほしいんです」
「無理なんかしてない!」
部屋が凍りついた。
声が出た後で気づいた。
シーンとなった部屋の中で、おこめさんの手が止まっていた。
大きく開かれた目に、驚きと悲しみが浮かんでいる。
「あ……」
頭から血が引く感覚がした。
何をやってるんだ、僕は。
大好きな人に。一番優しくしたい人に。
「ごめん……! ごめんなさい、おこめさん。違うんだ。怒ったわけじゃなくて……どうかしてた。本当にごめん」
慌てて手を伸ばして、おこめさんの細い肩を抱き寄せた。
「大丈夫です。私こそ、ごめんなさい。しつこく言っちゃって」
おこめさんは、僕の背中に腕をまわしてくれる。でも、その声はわずかに震えていた。
しばらくして、ゆっくりと体を離した。
「今日はのんびりしよう。ごめん」
おこめさんが、ふわりと微笑んだ。
「はい。のんびりしましょう。私も疲れてますし」
「何もしないデートになっちゃうけど」
「颯太さんと一緒なら、それもデートです」
おこめさんが僕をギュッとした。
僕もしっかり抱きしめ返す。
「今日の朝ごはん、レストランに行ってみます?」
「えっ!? できるの?」
「はい。午前中のんびりするなら、ずっと部屋の中よりもいいかなって」
広いレストランには、パンやサラダ、焼き魚、卵料理なんかがずらっと並んでいる。
こんな朝食ビュッフェ、ほとんど来たことがない。
「すごい……。これ、全部食べていいの?」
「はい。でも本当に全部食べたら、おなかパンパンになっちゃいますよ!」
おこめさんが真面目な顔で、両手をいっぱいに広げた。
思わず吹き出した。
「そういう意味じゃなくて!」
「ふふっ」
おこめさんも笑った。
「あ、あそこで卵料理も作ってくれるみたいですね」
指さした先では、調理ロボットがオムレツを焼いている。
「その場で?」
「はい。あ、餅入りチーズオムレツがあります!さすが新潟ですね」
「美味しそう!」
「ソーダさん、はんぶんこしませんか?」
「うん。しよう!」
二人でひとつのオムレツを注文する。
それだけで、なんだか嬉しかった。
そのまま料理を見て回っていると、おこめさんがピタッと止まった。
「颯太さん、見てください!」
キッズコーナーだった。うさぎさんのホットケーキに、タコさんウインナー。
「可愛いです!」
「おこめさん、それ子ども用だよ」
「知ってます!」
もう、うさぎさんを取っている。
「タコさんも外せませんね!」
「両方いくの!?」
「せっかくなので!」
楽しそうだ。
つられて、また笑ってしまった。
朝ごはんから戻ると、二人でソファに座った。
ぴったり体を寄せ合ってる。
こういうのんびりした午前中は、本当に久しぶりだった。悪くない。
「朝ごはん、おいしかったね!」
「はい。ランチは軽めでいいかなって」
のんびりは良いけど、ちょっと物足りない。
「ね、ゲームやる?」
「やりましょう!」
おこめさんと一緒に遊ぶのは久しぶりだ。




