3-17 3週間ぶりの彼女は、僕にくっつきたい
◇
目覚ましが鳴った。
もう、朝か。
また目覚ましが鳴った。
あと、5分。
あと5分を三回繰り返して、ようやく起き上がることができた。
最近、朝が辛い。
ちょっと前までは朝型だったのに。
日課だった筋トレも随分サボっている。
スマホを見る。今日はおこめさんが来る日だ。
駅までお迎えに行かないと。
おこめさんからメッセージが来ていた。
おこめ: 予定通り、11時半に到着予定です!
既に、けっこうギリギリの時間だった。
慌てて返信をして支度をする。
家の外に出ると冷たい風に震えた。今日も曇り空が近かった。
10月も折り返し、冬が近い。
車を飛ばして、何とか到着予定時刻には改札前に着いた。
おこめさんが来た。
今日は深いボルドーのコートに、柔らかい素材の水色のマフラー。
細いプラチナのピアスがショートボブの耳元でキラリと光っている。
3週間ぶりに会ったおこめさんは、とても忙しいはずなのに、疲れを感じさせない優美な姿だった。
手を振る。
僕を見つけたおこめさんも手を振ってくれた。
早足で改札を抜けてくる。
「颯太さん、お待たせしました」
「おかえり!」
なんとなく、そう言ってしまった。
おこめさんが、ふわっと笑った。
「ただいまです!」
僕は、ぎゅっとハグをした。
いつもの匂いがする。レモンのように爽やかでジャスミンのようにさりげない甘さの匂いだ。
おこめさんも僕をギュッと抱きしめる。
本当に会いたかった。
長いハグを終えると、おこめさんが僕の顔を見て言った。
「ちょっとお疲れですか」
「大丈夫。久しぶりに会えたから元気が出てきた!」
嘘じゃない。本当に元気が出る気がする。
ランチを食べてから映画館に行った。
映画館のシートに座って、おこめさんと腕を組みながら始まるのを待つ。
でもなんか、おこめさんの距離がすごく近い。
肩も触れ合ってる。
「あの、おこめさん」
「何ですか?」
「近くない? 嬉しいけど」
「本当は、颯太さんの膝の上に乗りたいです」
おこめさんは、真面目な顔だ。
「えっ!?」
「冗談です」
どっちだろう。
「乗ってもいいよ!」
「……遠慮しておきます」
おこめさんの手がギュッとなった。
僕もおこめさんの方に体を傾ける。
すると、おこめさんが嬉しそうに僕の肩に顎を乗せた。
映画が始まって暗くなった。
でもだんだん瞼が重くなってくる。
暗いし、おこめさんの良い匂いがするし。
体の芯に溜まった疲れが湧き上がってくる感じだ。
ふと気づくと周りが明るかった。
体を揺すられている。
「颯太さん」
おこめさんの声がした。
目を開けた。
「……ごめん、寝てた」
周りの客は、ほとんど帰っている。
「大丈夫ですよ。気にしないでください」
おこめさんが小声で言った。
「ゆっくりで大丈夫です」
気にしないでと言われたけど、気にしちゃう。
おこめさんも忙しいなか、デートしてくれているのに、申し訳なかった。
おこめさんと手をつないでゆっくり歩く。
「最近、忙しいですか?」
おこめさんが聞いてきた。心配顔だ。
「うん、ちょっとね。最近、バイト始めたんだ」
おこめさんが首を傾げた。
「バイトですか?食品工場の他に?」
「うん。そろそろタイヤもスタッドレスに交換しないとだし、車検も近いしね」
事実ではある。
この出費がなければ、プレゼント用の貯金はもっと残る。週末のキツいバイトも、週一で済むのに。
「そうですか……。大変ですね」
「大丈夫だよ。自分のペースでやってるし」
「……分かりました。でも無理しないでくださいね」
押し付けない言い方だ。
でも、心配させたことが申し訳なかった。
夕方、駅前の居酒屋で僕の友達と合流した。
大輝と、大輝の奥さんで僕達の高校の同級生でもある翠、浩太郎、そして遥香だ。
おこめさんと二人でゆっくりしたい気持ちはあったけど、前から約束してた。
「はじめまして! 颯太さんの彼女の彩夏と申します。遥香さんは、ご無沙汰しております」
「う、うん! お久しぶり!」
遥香が珍しく緊張してる。
僕は、おこめさんに残りのメンバーを紹介した。
「いやー、本当に颯太にこんな綺麗な彼女ができるなんてな! 乾杯! おめでとう!」
大輝の音頭でグラスが鳴った。
乾杯してから最初は探りながらの会話だったけど、翠がズバリと切り込んだ。
「彩夏さんもゲームの遊び仲間と良く会おうって気持ちになりましたよね。颯太のどんなとこが最初、気になったんですか?」
僕も聞いたことが無かった。




