3-13 相棒の不在を何とか埋めたい
◇
10月に入ると、新潟の夜は冷え込む。
水曜日。仕事帰りにドラッグストアのバイトまで入れると、帰宅する頃にはすっかり夜だった。
車から降りた途端、冷たい風が吹きつけてくる。
「寒っ……」
肩をすくめて、急いで家に入った。
「おかえり。あんたのご飯、テーブルにあるよ」
母さんが声をかけてくれた。
「ただいま。ありがと」
遅めの夕食を食べていると、大輝から電話がかかってきた。
「ばんは! 颯太。お前、こないだ遥香と彩夏さんが鉢合わせて、一触即発だったんだって?」
「……誰から聞いた」
「遥香本人。『怒られちゃったわー、彼女さん怖かったわー』って、自分から言ってきた」
苦笑するしかなかった。遥香らしい。
「なんで遥香が先に会うんだよ。ずるいぞ。俺たちにも紹介しろよ」
「分かったよ。今度、おこめさんに頼んでみる」
「頼むぞー」
ひと笑いしたあと、大輝の声が少し落ちた。
「……あとさ。遥香のこと、ちょっと気にかけてやってくれよ」
「うん?」
「あいつ、長年付き合った彼氏が転勤で遠距離になってさ。向こうで浮気されて別れたんだよ。最近荒れてんだ」
知らなかった。
「……そうだったんだ」
「颯太も彼女いるから難しいだろうけど、幼馴染として頭には入れといてくれ」
「分かった」
「悪いな。じゃ」
電話が切れた。
しばらく、お箸を持ったまま止まっていた。
遠距離か。
おこめさんが浮気するなんて、まったく想像できない。
そんな心配じゃない。
ただ最近は、水曜日の定例もキャンセル。
日曜日も、話せる時間が短い。
この前のデートは最高だった。
だから余計に、もっと一緒にいたいと思ってしまう。
距離があると、その「もっと」が簡単には埋まらない。
夕食を食べ終えて、週末のバイトを探した。
日曜日は、前にも行った普通の仕分けで決まり。
問題は土曜日だ。
あの物流倉庫の求人が、また出ていた。
時給は良い。その代わりキツい。
しかも土曜日は、ゲーム内で三か月に一度の大イベント、宇宙大戦の日でもある。
終わるのは夜遅い。
翌日に響くのは分かっている。
しばらくスマホの画面を睨んだ。
……両方、やろう。
20万円のネックレスを買うなら、毎週末を無駄にはできない。
土曜日。
ブラック物流倉庫で、僕は見事にボロ雑巾になった。
腕も足もパンパン。帰宅して昼寝したけど、疲れはほとんど抜けなかった。
目を開けたときにはすっかり夜。
「……寝てたい」
本音が漏れた。
今日は宇宙大戦だ。
正直、サボってそのまま寝たい。
でも、おこめさんは今日も来られない。
だったらせめて、いない分くらいは僕が盛り上げたい。
夕食をモソモソ食べて、ゲームにログインした。
クラッカー:おっ、ソーダ来た
金箔のせ:ソーダ君ーー!٩(ˊᗜˋ*)و
ポテト:ソーダ殿、出陣でござるな!
すでに皆が集まっていた。
準備をしながら、雑談チャットが流れていく。
ペッパー:そういえばミニゲームのランキング見ましたよ。リーダーとソーダさんのペア、1位!
クラッカー:ほんとほんとw ジェネラル悔しがってたぞ
金箔のせ:ペアミニゲーム、スコア高すぎでしょー!
ポテト:おふたりは、息ぴったりでございますな
鴨ソバ:最近、仲良いですよねー
ペッパー:ねー
うわ。
どこかでイジられるとは思ってたけど!
ソーダ:いやー、たまたまだよ、たまたま
クラッカー:ま、リアルで会ってるくらいの仲だしなw
リアルで会ったことがあるところまでは、もう皆にバレている。それ以上は、みんな察しているけど確証はない、くらい。
クラッカーたち相談グループのメンバーだけは、もちろん全部知っている。
やがて話題がおこめさんに移った。
ペッパー:おこめさん、結局今日も来れないんですよね
金箔のせ:宇宙大戦争でリーダー不在は痛いー
ポテト:仕方ござらん、リアルが優先でござる
鴨ソバ:おこめさん、最近お忙しいですよね
鴨ソバ:ソーダさん、おこめさんって何やってる人なんですか?
指が止まった。
僕も、本当は知らない。
付き合い始めてしばらく経つ。
この前は、初めて東京の家にも泊まった。
それでも仕事のことは、ほとんど話してくれなかった。
IT関係の会社で何でも屋をしている。
知っているのは、それくらいだ。
ソーダ:それは僕の口から言えないー
そう返した。
鴨ソバ:あ、ですよね。すみません!
ペッパー:そうですよ。反省してくださいw
ポテト:見ざる聞かざる言わざるでござる
すぐに皆が話題を変えてくれた。
ありがたい。
おこめさんが自分から話してくれるまで、待つつもりだけど、こうして誰かに聞かれると、やっぱり少しだけ引っかかった。
イベント開始まで、あと5分。
考えるのをやめて艦隊の準備をする。
今日は純粋にプレイヤーとして参加だ。
指揮は、くろねこ☆さん。
記録係も別の人が引き受けてくれている。
夜10時。
宇宙大戦争、開幕。
くろねこ☆:おこめさん不在は痛いですけど頑張りましょう☆
カイザー:神様いない宇宙大戦とかキツイなー
ソーダ:クレイジーキャッツの皆さん、銀河帝国の皆さん、よろしくお願いします!
カイザー:おう。頑張ろうぜ
金箔のせ:٩(ˊᗜˋ*)و いっくぞーー!
開戦。
最初は偵察。
闇鍋メンバーで手分けして星域を探り、怪獣を見つければ集まって叩く。
ソーダ:怪獣2匹見つけたー
金箔のせ:こっち資源ポイント発見٩(ˊᗜˋ*)و
クラッカー:ポテトとペッパーはソーダの援軍頼んだ。金箔はそのまま回収して
ペッパー:了解です
ポテト:今宵の十手は血に飢えてござる!
いつもの闇鍋だ。
おこめさんはいない。
それでも、みんなで回っている。
僕も、いつもよりチャットを打った。
ポテト:ソーダ殿、今日はおしゃべりでござるな
ソーダ:おこめさんの分まで盛り上げないとね
クラッカー:責任感w
その文字を見て、少しだけ笑った。
だけど、瞼はどんどん重くなっていく。
宇宙大戦は進み、巨大宇宙怪獣との戦闘、希少資源の奪い合いへ突入した。
いつもなら熱くなるところなのに、今日は頭が回らない。
一度、援軍を出す場所を間違えた。
次は、艦隊を動かすタイミングが遅れた。
「あー……」
思わず額を押さえる。眠い。
それでも画面の向こうでは、皆が騒いでいる。
くろねこ☆:コアクリスタル奪取!カイザーさん突撃!
カイザー:オラオラオラー!
金箔のせ:援護いくーー!٩(ˊᗜˋ*)و
ソーダ:僕も入る!
残り時間、ゼロ。
最終結果は三位だった。
カイザー:神様いないとキツイーー!
くろねこ☆:悔しい☆ でも皆ありがとう!
ソーダ:ありがとうございましたー
ポテト:拙者、悔しさで切腹したくなりましたぞ
クラッカー:くそーw
なんとか最後までやれた。
明日は朝からバイト。
でも夜には、おこめさんと話せる。
今日のことも報告したい。
そう思ったところまでは覚えてる。
明かりも消さず、僕はベッドで寝落ちした。




