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3-9 初めての女神の家と、普通サイズの歯磨き粉

◇


土曜日、目覚まし時計の音で目が覚めた。

カーテンの端から白い光が差し込んでいる。

じんわりと疲れた体を起こす。


最近は、なかなか疲れが取れない。

あの物流バイトのせいで、土日に回復できない。


だけど今日は、おこめさんと会いに東京に行く日だ。

そう思うと元気が湧いてくる。



9月も終わりかけの朝だ。

ひんやりと涼しい風からは、刈り取られた藁の香ばしい匂いと、土の匂いがする。

秋が進んでるなぁ。


新幹線に乗って窓の外を見ていたら、すぐに瞼が重たくなってきた。



いつのまにか寝てた。

気がつくと東京駅だった。


終点で良かった。急いで降りる。


ホームを出た瞬間、熱い空気が顔にあたった。

埃と電気の匂いに汗の匂いが混じっている。


東京は残暑が厳しいとは聞いていたけど、想像以上にまだ夏だった。



何気なく頭を触る。

寝癖がついてそうな感触だった。


急いでトイレに向かう。

最近、東京駅に来ることが多いから、場所は分かっている。


鏡を見たら、盛大に寝癖がついていた。

やらかした。


水で濡らして整えようとする。

だけど1か所、どうしても跳ねてしまう。


おこめさんをあまり待たせられない。

悩んだけど諦めることにした。




改札の人ごみでおこめさんを探す。

すぐ見つかった。


おこめさんのまわりは、だいたい、ぽっかりと空間ができている。

道行く人は、おこめさんを避けて通るし、その割に振り返って見たりする。


今日のおこめさんは、水色の長袖ワンピース、紺のベルト、秋色の薄手カーディガンだ。

夏の残るこの街で、おこめさんだけが穏やかな秋の色をしていた。



心配そうに僕を待ってくれている。

僕は疲れを忘れた。

「おこめさん、遅れた! ごめん!」


手を振る。

おこめさんも嬉しそうに手を振り返してくれる。




東京駅の地下街で遅めのランチを食べながら、デートプランを相談する。

今回は、お互いに忙しくて事前相談が全くできてない。


おこめさんは腕を伸ばして僕の髪にそっと触れた。

「お疲れですね。新幹線でたくさん寝られたなら良かったです」


顔が熱くなる。

おこめさんは僕の髪を優しく撫でつけながら微笑んだ。


「今日はのんびりデートにして、早めに私のおうちに行きましょう。私も、ちょっと疲れてますし」


おこめさんのおうち。

その響きだけで、ドキドキした。



おこめさんの家へ行く前に、高輪ゲートウェイ駅で少しだけデートする。

山手線で一番新しい駅だ。


駅の近くには日本で一番大きなエアカー発着場があるらしい。

上空をエアカーがブンブン飛びまわり、ちょっと未来感があった。


「すげー……。これだけのエアカー、初めて見たよ!」

「このあたりの発着場は、発着数が日本一だそうですよ」


おこめさんが微笑んだ。

「そのうち、エアカーに一緒に乗りませんか」


「う、うん?」

ちょっと想像がつかない。


「東京上空一周なんかも、昔に比べて随分お手軽にできるんですよ」

「なるほどー……」


想像した。

楽しそうだった。


「良いね! いつか一緒に乗りたい!」

僕が微笑むと、おこめさんも嬉しそうに笑った。

幸か不幸か、流石に今からじゃなかった。



改札からデッキ直結のミュージアムに行く。

丸い食パンと焼き玉ねぎを何枚も重ねたサンドイッチみたいな変な建物だった。内部も、意外なところに段差や通路があって、歩くだけでも楽しかった。


おこめさんと手をつないで館内を見て回っていると、唐突に聞かれた。

「そういえば、颯太さん。今日の夜は何を食べたいですか?」


「うーん、何でも良いけど……強いて言えば洋食かな」

ランチは和食っぽい創作料理だった。


「分かりました」

おこめさんは、ニコリと笑い、スマホを取り出して何かを打った。


どこかのお店を予約してくれているんだろうか。



その後は駅周辺で軽く見てまわる。

ゴンダムの絵柄が描かれたプラスチックコップを見つけて、つい買ってしまった。


日が傾き出した頃、電車を乗り継いで、おこめさんの最寄り駅に向かう。



ついに、おこめさんの最寄り駅に降り立ってしまった。

やばい。めちゃくちゃドキドキする。


外に出ると傾いた日差しの下で水面がキラキラ光っていた。運河沿いの通りには、外国みたいなオシャレな店がずらりと並んでいる。


なんというか、すごく「おこめさんっぽい」街だ。

綺麗で上品で、でもどこか落ち着く感じ。


こんな素敵な場所に住んでるんだなあ、と妙に納得してしまった。


「ここは空港にも出やすくて便利なんですよ」

聞いてみると、出張が多いおこめさんらしい理由だった。



マンションに向かう途中、ドラッグストアの前でおこめさんが足を止めた。

少しモジモジしている。


「あの、颯太さん用のカトラリーは準備したんですけど……。歯ブラシとかは勝手に選ぶのもあれかなと思って用意してなくて」


照れ隠しのように目を伏せるおこめさんが可愛い。


「う、うん。大丈夫。ありがとう」

僕も顔が熱くなった。


自分の歯ブラシを選ぶ。



その横にある歯磨き粉の棚を見た。

トラベルサイズの小さな歯磨き粉と、普通サイズの歯磨き粉。


どっちにするか。

迷ったのは一瞬だった。


普通のサイズの歯磨き粉をカゴに入れる。


おこめさんはそれを見て、何も言わずに嬉しそうに微笑んでくれた。


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