3-7 おこめさんに言える仕事、言えない仕事
◇
夜、おこめさんと約束の時間になった。
時間通りにかける。
いつもどおり、呼出音が鳴ることなく、おこめさんの顔が画面に映った。
今日のおこめさんは白いカッターシャツに細いシルバーのイヤリングだ。
全体的にシュッとして格好良い。
「こんばんは」
「こんばんは! 今週もお疲れ様でした」
おこめさんの笑顔を見たら元気が湧いてくる。
「ありがとう。おこめさんこそ、お疲れ様。最近はどう?」
「大丈夫です。颯太さんと話せると元気が出ますから」
おこめさんが照れたように笑った。
僕と同じで嬉しい。
「僕も元気が出る!」
実際に言うと照れちゃう。
倉庫バイトのせいで身体中が痛い。
一方で、おこめさんは涼しい顔をしている。
「……颯太さん、ちょっとお疲れですね。大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ!ありがとう。今週ちょっと忙しかっただけ。」
プレゼントのために、バイトを始めたことは言えなかった。
おこめさんは、「そうなんですね」と言って微笑んだ。
それからしばらく他愛ない話をした。
僕が食品工場でちょっとした手違いをして、班長に助けてもらった話。おこめさんが最近ハマっているというコーヒーの話。
ゲームの皆のこと。
「ポテトさん、最近、忍者というよりお代官様になってる気がする」
「そういえば、そうですね。このあいだ、この桜吹雪に見覚えがねえとは言わせねえぜ! とか言ってましたもんね」
「時代劇好きなんだろうね」
「そのうち、神妙に縛につけい! とか言い出しそうです」
「あ、それ見てみたい!」
おこめさんと話していると時間を忘れる。
だけど、どうしても瞼が重たくなってきた。
結局、いつもより早めに終わった。
「また来週。おやすみー」
「はい。また来週。おやすみなさい」
通話を終えた後、貯めたプレゼント代を計算する。使っちゃわないように、ちょくちょく引き出しては貯金箱に入れてる。
現金とバイトアプリの画面を見比べて計算する。
3万3千円。良いペースだ。
来週もこの調子で頑張ろう。
火曜日の朝礼で良いニュースがあった。
しばらく前、おこめさんに背中を押されて班長の木村さんに提案したライン変更が、なんと通ったのだ。
最初は信じられなかったけど、じんわりと嬉しくなってくる。
周りのパートさんたちは班長の説明をふーん、という顔で聞いている。
昼休み明けに佐藤さんが来た。
僕の提案を面倒がって否定した佐藤さんだ。
「田中くん、ラインの改修が通ったのは良かったわね。あなたも一人前になったんじゃない。嬉しいわ」
言い方が、どうにも嫌味っぽい。
「ありがとうございます。まだまだです」
僕は頭を下げた。
「謙遜しないでいいのよ。私も忙しいし、田中くんも一人前なんだからラインの検証くらいはお願いね」
やたらと一人前、という言葉を強調された。
フォローしないということらしい。不安になる。
「あの……。検証のやり方が、まだよく分からないんですが」
「そんなこと木村くんに聞けばいいじゃない。あなたが提案したんでしょ。自分のことは自分でやりなさい」
それだけ言って、僕の返事を待たずに佐藤さんは持ち場に戻った。
班長の木村さんが後から来て、小声で言った。
「気にしないで。検証は俺も一緒にやるから。田中くん一人に押しつけるつもりはないよ」
「……ありがとうございます」
班長がいてくれて、助かった。
でも、班長も大ベテランの佐藤さんの前では強く言えない。
それがまた、何となく嫌だった。
改善報奨金の封筒は、退勤のときに班長から直接渡された。
「少ないけど気持ちだから。これからも気づいたことあったら言ってね」
「ありがとうございます」
気持ちと言っても、これから行くバイトの2時間分くらいはある。
嬉しい臨時収入だった。
手に持った封筒を眺めながら、おこめさんが言ってくれたことを思い出す。
言わなかったら確実に何も変わらない。言って良かった。
ロッカーでスマホを回収した後、おこめさんにも早速連絡した。
ソーダ: こないだ、おこめさんに相談した改善提案、なんと通ったよ!おこめさんのおかげ。ありがとう!
しばらくして、おこめさんから返信が来た。
おこめ: やりましたね!おめでとうございますっ♡
おこめさんからの祝福が、何よりも嬉しかった。
食品工場の仕事の後、ドラッグストアのバイトに入る。今月初めから週3回2時間ずつ入っていて、要領も掴めてきた。
基本的には品出しと陳列だ。
物流倉庫とは全然違う。静かで、重すぎなくて、怒鳴られない。
他のバイトもこんな感じだったら良いのに。
明日は水曜日だけど、おこめさんが忙しくて水曜日の定例は無くなった。
おこめさんと話せるのは、日曜日だけだ。
それが少し、淋しかった。
土曜日の夜、お姉ちゃんから連絡が来た。
飯田穂乃花: 焼肉おごってやる。出てこい。彼女のことで、ちょっと聞きたいことがある!
え、なにそれ。怖い。




