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3-6 金額は1万倍、好きの重さは同じ

◇


唾を飲み込んで、値札を見つめた。


20万円。僕の手取りをゆうに超える。

何とかなる金額の2倍だ。


ショーケースの前でしばらく立っていた。

どうしよう。



スイートルームで笑っていたおこめさんが浮かんだ。


身につけたアイテムがひとつひとつ、どこで見つけてくるんだろうと思うくらいセンスが良くて、全体としても良く似合っていた。

安っぽいものが1個もなかった。


僕が何を贈っても、おこめさんは喜んで身につけてくれる気はする。

だけど僕は、ちゃんと似合うものを贈りたい。


どうしても、妥協したくなかった。


貯金も多少はあるから、月に6万円貯めれば大丈夫。

今の平日バイトに加えて、デートのない週末は、土日とも半日バイトを追加で入れ続ければ、貯められる計算だ。


1日中ゆっくりできる日は無くなるけど、おこめさんもゲームに入れないくらい頑張ってる。


最近は僕も体力がついてきてるし、頑張りたい。


だんだん、何とかなりそうな気がしてきた。

早速、明日から行ってみよう。




日曜日の朝。

市外の巨大な物流倉庫に来た。


中は、むせ返るような段ボールの匂いと、「ピーッ、ピーッ」というフォークリフトの音で満ちていた。


どこまでも続く高い棚。

見渡す限りの荷物の山。


今の時代に、会社支給のアシストスーツも搬送ロボットもなし。純粋な肉体労働だ。


「未経験歓迎! 軽い荷物の簡単な仕分け作業です。女性やシニアの方も活躍中♪」

スキマバイトのキャッチコピーを信じた僕が馬鹿だった。



しかも飛び交う指示の用語が特殊すぎて、日本語に聞こえない。


「そこのイツデモ! ハンディでスキャンしたらパレに積んで!」


班長は呪文を唱えた。颯太は混乱した!

みたいな感じ。イツデモだけ分かる。僕が使ってるスキマバイトアプリだ。


見かねたパートのおばちゃんが教えてくれた。アシストスーツを着てるけど自前らしい。何十万円もするのに。


「ハンディは手元の端末。この箱をパレ、つまりあの木のスノコの上に積むのよ」


置く場所はハンディに表示されるけど、分かりづらい。僕が混乱してウロウロしていると、背後から怒声が飛んできた。


「イツデモ、ボサッとするな!」

安全靴に軍手姿の班長だ。たぶん30代後半で、筋骨隆々の男性だった。


「す、すみませ……」

「言い訳はいらん、遅いんだよ! ハンディの画面に次の場所が出てるだろ。動線考えて動け!」


班長は、僕を押しのけるようにして前に出ると、重い段ボールをヒョイっと抱え上げた。


そのままスタスタと移動し、手際よく箱を積み上げていく。息一つ乱れていない。まるでロボットだ。


「ほら、次! 止まるな!」

「はいっ!」


数時間で、腕も足もパンパンになっていた。

正直、もう二度と来たくない。


だけど、僕のプレゼントを身につけて微笑むおこめさんの姿を想像した。


妥協せず、20万円を貯めよう。

僕は次の箱を持ち上げた。


◆◆◆


◎


日曜日の午後。

仕事や会議の合間に1時間だけ予定を空けられた。

空を飛ぶタクシー、エアタクシーに乗り込み、ドローンのデモ会場へと向かう。


目当ては、颯太さんの護衛ロボット部隊だ。

クリスマスのプレゼントにしたい。


エアタクシーは大渋滞の摩天楼を飛び越え、細い海を渡り、対岸のデモ会場に着陸する。

9月半ばを過ぎても、赤道直下の南国は相変わらず太陽が高い。



「細川様、お待ちしておりました。準備が整っております」


出迎えを受けて広大な格納庫の中に入った。


待っていたのは、軍民両用のゴツいロボットとUFOみたいな姿の大型輸送ドローンだ。


強そうだ。実際、とても強いらしい。

颯太さんを守りきる。それが使命だ。


各種許認可取得も含めた初期費用は、日本円にして20億円。維持費も月に1億円以上かかる。

コンシェルジュ経由で手配した。


「こちらの輸送ドローンは、ロボット達を搭載して上空待機いたします。高度100メートルまでは目視で発見されません」


つまり、こっそりと颯太さんを守るのが目的だ。

担当者が操作すると、巨大なドローンはフワリと浮き上がり、すぐに見えなくなった。


「今回、ロボット部隊はドリルなど重機装備での運用を想定しております。また、レベル4のメディックロボも搭載いたします」


頷く。これなら、たいていの事故や事件からソーダさんを守れる。しかも寒冷地仕様だから、新潟の吹雪でも普通に活動できる。


「護衛対象の方には正確な位置の特定とバイタル等のモニタリングのため、腕輪型端末を常時着用していただくことをお勧めいたします」


そう言って担当者が見本を出してきた。

何種類か用意されている。


シンプルなシルバーの腕輪を選ぶ。

少しSF感があるけど、おかしくはない。颯太さんに似合いそうだと思った。



これをクリスマスプレゼントにする。


自分でも、やり過ぎだとは思う。これは私ですら持ってない。でも颯太さんの安全に妥協したくなかった。


たぶん、この子たちが活躍する機会は無い。

無い方が良い。


だけどベストを尽くさずに万が一が起きたら、私は絶対に後悔する。

本当は地上にも護衛部隊を配置したいけど、颯太さんや周囲の人に怪しまれてしまう。



「護衛対象の行動報告を定期的にご提供することも可能です。いかがされますか」


担当者が聞いてきた。

「いりません」


一瞬も迷わなかった。


昔、人の不安を商売にしたことがある。


不安は不信を呼び、不信は不安を呼ぶ。

そうなると、なかなか止められない。


あの頃のことは思い出したくないけど、こういうときは役に立った。


颯太さんを信じている。それだけだ。

発注した。


今夜の定例も、残念だけど短めにしないと。

本当はもっと長くお喋りしたいけど仕方ない。

リリースまで、あと47日しかない。


今日は、日曜日だ。

颯太さんは、今ごろ何をしているだろう。




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