3-3 僕も、おこめさんをもっと知りたい
◇颯太の視点
僕は、おこめさんと恋人つなぎで、ショッピングモールの2階を歩いていた。
吹き抜けになった廊下の広い天窓から、午後の明るい光が差し込んでいる。
おこめさんは、少し元気がない。
遥香のことが引っかかっているのかもしれない。でも、それだけじゃない気がした。
アクセサリーショップの前を通りかかった。
高校生も入るようなカジュアルなお店だ。
「ね、おこめさん。良かったら入ってみる?」
おこめさんはファッションが好きだし、元気づけられるかもしれない。
「はい!」
おこめさんの顔がパッと明るくなった。
おこめさんはアクセサリーをざっと眺めると、その中から一つ手に取った。
「颯太さん、これはどうですか?」
彼女は3000円ほどの青いストーンのイヤリングを耳に当てて、くるりと振り向いた。
「うん、可愛い。よく似合ってる!」
おこめさんがちょっと物足りなそうな顔になった。ピンときた。
「えーとね……。おこめさんは明るいショートボブでしょ。この青いストーンが耳元にあると、良いアクセントになって、もっと小顔に見える!」
おこめさんが嬉しそうな顔になる。
こういうところは、お姉ちゃんに鍛えられて良かった。
「ありがとうございます! じゃあ、こっちのネックレスはどうですか?」
次々とアクセサリーを当ててみては、僕の感想を聞いて、花が咲いたように笑う。
先ほどまでの沈んだ空気を吹き飛ばすような無邪気な姿に、僕は少しだけ安堵した。
でもさっきから、おこめさんのファッションショーを見ていて、どうしても違和感があった。
今日のおこめさんは、艶やかな質感の白いタンクトップに、澄んだ海のように透けるネイビーの長袖を羽織っている。
おこめさんが着けてきた可愛らしいゴールドのネックレスは素晴らしく優雅で、凛としたおこめさんに良く似合う。
いったいどこで買ってるのか不思議に思うレベルだ。
同じゴールドのネックレスでも、このお店のネックレスは、おこめさんには合わない気がした。
デザインが悪いわけじゃない。高校生が制服の上に着けるなら、むしろ太鼓判を押せる。
お姉ちゃんが着けたって良い。
だけど気づいてしまった。
おこめさんが合わせると、服や他のアクセサリーに負けちゃって、ちぐはぐに見える。
おこめさんが、今度は細いチェーンに青い小さな石がついたネックレスを試した。
「どうですか?」
「可愛い。でも……なんか、おこめさんに負けてる気がする」
「負けてる?」
「うん。おこめさんの方が、ずっと綺麗だから」
おこめさんが微笑んだ。
「ありがとうございます」
値段を確認した。1万8000円。
買える。
さっき、クリスマスプレゼントとしてイメージしてたのは、これくらいのやつだ。
でも気づいてしまったからには、プレゼントにするべきじゃないと思う。
もう少しちゃんと探した方がよさそうだ。
10万円までならギリギリ何とかなる。できれば、そこまでに収まってほしい。
おこめさんがネックレスを戻して「楽しかったです」と微笑んだ。
おこめさんの元気が少し戻ってきたみたいだ。それは、素直に嬉しい。
それから僕たちは夕食を食べ、新幹線の駅に向かった。
新幹線のホームには、夜の風が静かに吹いていた。
おこめさんは、今日は指定席らしい。
少しホッとした。
キャメルのストールを羽織ったおこめさんは列車を待ちながら、どこか遠いところを見ている。
こういう表情は、今まで見たことがなかった。
「おこめさん、どうしたの?」
声をかけた。
おこめさんがゆっくり振り返った。
「……颯太さんのこと、全然知らないな、と思って」
「そうだね」
そのとおり、と思う。
僕も、おこめさんのことをほとんど知らない。
具体的に何の仕事をしてるのかすら。知らないまま、ここまで来た。
だけど時間は僕たちの味方だ。
少し考えてから言う。
「これから知っていってほしい。僕が好きになったのはおこめさんだから。僕も、おこめさんのことをもっと知りたい」
おこめさんの目が揺れた。
泣きそうだ。
いつも綺麗に凛と整っている顔が、今日は少しだけ崩れそうだった。
何かが、おこめさんを追いつめている。
遥香のことだけじゃない。もっと大きい何かが。
「颯太さんっ、ハグしてください」




