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2-19 おこめって呼んでほしいです

◇ソーダの視点


僕はシャワーから出た。


服はどうすれば良いんだろう。

着るべき?裸のまま行くのは違うよね。


ふと洗面台の脇に置かれた白いバスローブが目に入った。これを着よう。

バスローブを着たのは生まれて初めてだった。



寝室に出ると、おこめさんがバスローブを着てベッドの端に腰かけていた。


背筋がすっと伸びている。

服装と場所を考えなければ面接に来た人みたいだ。


「おこめさん」

声をかけると「はいっ」と元気のいい返事が来た。


前にも、こういう返事をしてくれたときを思い出す。緊張しているとき、こういう返事をする人らしい。


二人とも緊張してるんだと分かって、少し気が楽になった。



太ももが触れあうくらい隣に腰かけた。

そっと、おこめさんの手を握る。


おこめさんは、やっぱり良い匂いがする。

レモンのように爽やかでジャスミンのような。

心なしか、いつもより甘い匂いだ。



顔を近づける。

「おこめさん、好きだよ」

「はい。私も好きです」

おこめさんが微笑んだ。


ぎゅ、と優しく抱きしめてキスをした。

ゆっくり抱きしめていると、だんだんと緊張がとけてくる。



バスローブを脱がせる。柔らかな布の手触り。


その下は、アイスブルーのキャミソールだった。

ほんのりと透けるキャミソールを着た彼女があまりにも無防備で、可愛くて。


思わず、おこめさんを押し倒した。

「きゃっ」

ベッドがフワリと跳ねた。


滑らかなシーツとおこめさんの柔らかな体が、僕の身体に触れる。


少し我に返る。

おこめさんを傷つけてはいけない。


「ご、ごめん」

「あの、電気を消してください」

おこめさんが恥ずかしそうに言った。



急いで電気を消した。

暗さに目が慣れなくて、ゆっくりベッドに戻る。


ちょうどそのとき、窓の外で雲が切れたのか、明るい月の光が白いベッドと、その上のおこめさんを照らし出す。


女神様のように綺麗だった。



深いキスをして、お互いの温もりを求めて抱きあう。


僕は、この人のことが好きだ。

この人も僕のことを好きだ。

それが分かる。


全身でおこめさんを感じる。

おこめさんも、離れたくないというふうに全身でギュッと僕を抱きしめる。


うまくできたわけじゃなかった。

想像とも違った。


でも、お互いの愛をじっくり確かめあうような時間だった、と思う。




朝、目が覚めたら、隣が涼しかった。

おこめさんがいない。


パチパチする音に視線を向けると、カーテンが閉まって暗い部屋の中、おこめさんがミニデスクでパソコンを開いていた。

見たこともないほど真剣で集中した顔だ。


少しの間、黙って見ていた。


起きた気配を感じたのか、おこめさんが顔を上げた。


パソコンをそっと閉じて、ベッドの脇に座った。

すっかり身支度を済ませている。



僕の頬に触れながら微笑む。

「そうたさん、おはようございます」


うん?

僕の呼び方がいつもと違う?

聞き間違いかもしれない。


「おこめさん、おはよう」

「よく眠れましたか?」


「うん。おこめさんはどうだった?」

「私も、よく眠れましたよ」


おこめさんがカーテンを開けてくれた。

眩しい。


「見てください! すごく綺麗ですよ!」

おこめさんが窓の外を指さした。


だんだんと朝の光に目が慣れてきた。



おこめさんは、白いタンクトップに透け感のあるネイビーの長袖を羽織り、可愛らしいゴールドのネックレス。

今日もオシャレだ。


窓際に立って、おこめさんと一緒に外を見る。

台風一過の澄み切った青空には雲ひとつなかった。


市街地の向こうの田んぼが、朝の光を受けて黄金色に輝いている。

確かにすごかった。



「そうたさん、私、今日は田んぼに行ってみたいです」


おこめさんがワクワクしている。

そして、やっぱり呼び方が違う。


「もちろん良いけど、もしかして僕のこと、颯太さん、て」


「あ……」

おこめさんが少し照れたように笑った。


「なんか、起きたら颯太さんのほうがしっくりきて。ダメでしたか」


「ダメじゃないけど、びっくりした」

「ごめんなさい。颯太さん、って呼んで良いですか」


「もちろん」

照れる。嬉しかった。



「じゃあ、僕も彩夏さんって呼んで良い?」

「……はい」


少し間があった。

何だろう。この微妙な感じ。


名前で呼ばれるのが嫌いなのかな?

試してみる。


「彩夏さん」

「はい」


「おこめさん」

「はい。なんですか? 颯太さん」

おこめさんが、戸惑うように、ふわっと笑った。


「もしかして『おこめさん』って呼んだほうが嬉しい?」


おこめさんは少し考えた。

「……やっぱり、颯太さんには、おこめって呼んで欲しいです」


自分の心を確かめながら言っている感じだ。

「彩夏、って呼ばれると、何だかぴしっとしないといけない感じがして」


「そうなんだね」

「はい。颯太さんの前では、おこめでいたいんです」

おこめさんが少し照れたように笑った。


「分かったよ。おこめさん」

「はい!」


おこめさんが嬉しそうに頷いた。


僕はおこめさんにキスをした。

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