2-16 台風でも、あなたのもとへ行く。絶対に。
◎おこめの視点
ソーダさんとの連絡を終え、スマホを閉じた。
席を立って伸びをして、オフィスの様子を窺う。
うん、今日も良い感じ。
化粧室に向かいながら考える。
ソーダさんは、自分がどれだけ素晴らしい能力を持っているか気づいてない。
ソーダさんは、自分に自信がない。だからこそ、自分の意見を押しつけない。
相手が自分で答えを出すのを待てるし、人をよく見ているから、答えを出す手助けだってできる。
自分だったら早く結論にいきたくてイライラしてしまう。ソーダさんみたいなことは無理だ。
リタッチを終えたところで、またスマホが鳴った。
コンシェルジュ: 細川様がご予約されている羽田空港着の深夜便は、台風接近のため欠航の可能性が高いです。代替案の検討をされますか?
細川彩夏: 新幹線はどうですか
コンシェルジュ: 運行する可能性が高いです。
目を閉じて考える。
金曜日の夜に大事な会食があって前倒しでの出発はできない。
今回を逃すとスケジュール上、ソーダさんに会うのは1か月後になってしまう。
それも嫌だった。
いい加減、一緒に朝ごはんを食べたい。
細川彩夏: 代替案を検討したいです
コンシェルジュ: 承知いたしました。
1時間ほどして、コンシェルジュから連絡があった。
コンシェルジュ: 中型機のチャーターをご提案致します。
それから大まかな飛行ルートや着陸後の移動手段を提案される。
添付された見積り費用を見た。この金額なら、ソーダさんの地元なら、ちょっとしたファミリー向けマンションだって買えるだろう。
コンシェルジュ: ただいまから1時間、仮押さえしております。よろしければご検討くださいませ。
答えは決まっていた。
ソーダさんに、会いたい。1か月も待てない。
細川彩夏: 行きます。
コンシェルジュ: かしこまりました。
コンシェルジュとやりとりを進めるうち、旅程表がとてもタイトなことが分かった。
出発時刻の前倒しはできない。何とか遅れないようにするだけで精一杯だろう。
後ろ倒しは、どうか。ソーダさんのことだから、ノーはない。怪しまれるよりも安全第一。
早速連絡した。
おこめ: すみません、土曜日の待ち合わせなんですけど、1時間遅らせてもらって良いですか?
翌朝、返信があった。
ソーダ: おはよう。大丈夫!気をつけて来てね
良かった。優しいソーダさんに感謝だった。
金曜日の夜、会食を終えた後、慌ただしくプライベートジェット専用空港に向かう。
明け方、那覇空港に予定通り到着し、入国審査を済ませる。
羽田空港は全便欠航している。
前もって準備を始めて正解だった。
機長さんから状況のブリーフィングを受ける。
コンシェルジュさんも、電話参加した。
せっかくだし、ソーダさんの住む町を上空から見たい。
機長さんに聞いてみた。
「現時点では、新潟空港に向かうと強風のため、着陸できない可能性がございます」
残念。どうしよう。
「トラベル担当コンシェルジュの荒川でございます。新潟空港への着陸を断念して富山空港に向かう場合、着陸後の陸路移動で予備の時間が全くございません」
考える。
ソーダさんの町を上空から見たかったけど、やめたほうが良さそうだ。
大事なのは、予定通りの新幹線に乗ってソーダさんに会うこと。
会えないのは嫌だし、怪しまれるのも困る。
「富山から行きます」
「承知致しました」
富山空港に着陸すると、今度は待機させていたリムジンで長岡駅へ向かう。
車内で関東の交通状況を把握して、ソーダさんへの説明を準備する。
山手線はゆっくり動いてる。駅は大混雑。風は強め。雨もそこそこ。
説明はこうだ。
私は1時間早めに家を出たけど、結局、新幹線にはギリギリだった。
服が濡れたので新幹線の中で着替えた。
しまった。トートバッグが濡れてない。
……ビニール袋ですっぽり包んでいたことにしよう。
コンシェルジュ: ご予定の新幹線が東京駅を10分遅れで出発致しました。
良かった。ここまで来て新幹線が止まったらソーダさんに会えない。
運休しないでほしい。
ソーダさんに連絡する。
さぞ気をもんでいるだろうから。
おこめ: 予定通りの新幹線に乗れました!
ソーダ: 良かった!お疲れ様。大丈夫だった?駅で待ってるね
幸い、予定の新幹線は少し遅れながらも終点まで走ってくれた。
自分も長岡駅で乗り込み、無事、新潟駅に着いた。
ふう、と息を吐く。
無事に着いて良かった。
階段を降りると、いつもどおりソーダさんが改札で待ってくれている。
この笑顔を見るために来た。
自分も自然と笑顔になる。
ソーダさんに手を振って、足早に改札へと急いだ。
今朝の真実がバレてはいけない。
これからつく嘘に、胸が少し痛かった。




