1-3 僕は、女神に「また会いたい」と送った
◇ソーダの視点
……でも。
おこめさんは、仕事のついでに僕と会っただけかもしれない。
『また出張に来ると思います』
あの声を思い出す。
おこめさんは高嶺の花だけど、もしかして。
首を振る。
僕が勝手に期待して、勘違いしてたら嫌だ。
個別メッセージ欄を開く。
ソーダ: おこめさん
おこめ: はい!
返信が早い。心臓がドキッとした。
誘いたい。気持ちだけが先走っちゃう。
ソーダ: ごめん、眠くなってきた
おこめ: そろそろ寝る時間でしたね。おやすみなさい!
ソーダ: おやすみなさい!
今日は、勇気が出なかった。
だけど明日こそは。
翌朝、僕が起きてリビングに出てきたら、お姉ちゃんがいた。
「オッス颯太」
「……おかえり」
「また悩み顔じゃん。どうした?」
「あのさ。こないだ、ネット友達の女の人が会いに来てくれてさ……」
「お、いいじゃん!」
お姉ちゃんの目がキラリと光った。
全部説明した。
「でさ、どう誘ったらよいと思う?」
「普通に次いつ来るか聞けば?」
こいつバカ?と顔に書いてある。
「いや、そうなんだけどさ……」
「じゃあ悩むことないじゃん」
お姉ちゃんが台所に行った。
残された僕はひとり、画面とにらめっこする。
ソーダ: おはよう!次の出張の予定は、決まってる?
文字に起こした。
心臓がドキドキする。
本当に送って良いのかな。これ。
でも、おこめさんに会いたい。
震える指で、送信ボタンを押した。
すぐ既読になった。
また、心臓が太鼓のように鳴りだす。
おこめさんは、今、どう思ってるんだろう。
まだ数秒なのに、すごく長い。
◆◆◆
◎おこめの視点
シンガポールの自宅でひとり仕事をする。
ソーダさんから連絡が来るか気になって、さっきから何度もゲームを開いている。
作業が一段落して、椅子の背にもたれた。
広い窓の向こう、華やかな観覧車が眼下に見える。
ゲームを開くと、ソーダさんからメッセージが来ていた。
ソーダ: おはよう!次の出張の予定は、決まってる?
来た!安堵に頬が緩む。
だけど、まだ会いたいと言ってくれてない。
浮き立つ気持ちを必死に抑えて、返信する。
おこめ: おはようございます!まだです。どうしたんですか?
すぐ既読になった。
自分の心臓がうるさくなる。
ソーダさんは、どんなつもりで送ってくれたの?
ソーダ: よかったらだけど、また会いたい!
来た!!
……嬉しい。
何度読み返しても、嬉しい。
ソーダさんが言ってくれた!
おこめ: 次の出張の日程、決まったら連絡しますね!急いで調整します!
すぐに返事が来た。
ソーダ:もちろん! 楽しみにしてる。
急に心臓がバクバクとうるさくなった。
早速予定を調整した。
頑張ったけど、5月下旬。
1か月も先は遠いけど、今回は仕方ない。
それから約1か月後。 新潟にまた来た。
明日は、いよいよソーダさんに会える。 それだけでワクワクした。
いちおう出張だから、まずは仕事を片付けないと。
ある中堅精密部品メーカーの本社工場で、新製品の量産に向けた契約をまとめる。
最後の条件を提示すると、向かいに座る社長が会長を見た。 白髪の会長が頷く。
「……承知しました。それでお願いします」
契約成立。
会社を出るときには、会長と社長が玄関まで見送りに来てくれた。
「お忙しい中、新潟までありがとうございました」
「こちらこそ。これからよろしくお願いします」
同行していた社員とともに、エアカーに乗り込む。
ホテルの部屋に戻ると、残っていた急ぎの仕事も手早く片付けた。
「アイちゃん、クローゼット君達よんで」
「オッケ。だけど本当に全部いる?多すぎない?」
「いいから」
「了解!」
背丈ほどの高さがある自走式の巨大トランクがウィーンと低い音を立てて入ってきた。中身は服、服、服。
クローゼット君1号から4号まで4台。
ソーダさんとのデートに着ていく服を決めきれなくて、とりあえず色々持ってきた。
クローゼットを見ながら、候補を抜き出す。
どれがいいかな。
悩みに悩んで2セットまで絞り込んだ。
オフホワイトの少し可愛いジャケットと、アイスブルーのストレートパンツ。
もう一つは、大人っぽいワンピース。
仕事なら、こんなことで迷わないのに。
ジャケットを羽織って、鏡を見る。
「アイちゃん、どう思う?」
「アヤカ。どっちも似合ってる」
「それは分かってます」
「じゃあ何を聞きたいの?」
「……どっちがいいと思いますか?」
「彼の好みなんて、私には分からないわよ」
そうだよね。ソーダさんが、どういう服が好きなのか分からない。
「アヤカ、彼がログインしたけど。どうする?」
「入ります!」
服選びを置いて、すぐにゲームを開いた。
おこめ: こんばんは!
ソーダ: こんばんは。出張お疲れさま! 明日楽しみだね
おこめ: はい! 明日が出張の本番です
ソーダ: 今日じゃなくて?
おこめ: 今日じゃないです
少し迷う。
おこめ: ソーダさん、綺麗な感じと可愛い感じなら、どっちがお好きですか?
ソーダ: えっ
ソーダ: えーと……可愛い感じかな。綺麗なのも好きだけど!
おこめ: 分かりました!
ソーダ: 何が?
おこめ: 明日を楽しみにしててください
ソーダ: え、めちゃくちゃ気になる
思わず笑った。
「アヤカ、自分でハードル上げてない?」
「上げちゃいました……」
ゲームを閉じる。クローゼット君の鏡に映った顔が、ニヤけていた。
ジャケットをもう一度羽織る。
うん。これにしよう。
明日は、初めての本格的なデートだ。
ソーダさんは、私を可愛いと思ってくれるかな。




