1-2 相棒は、僕に「また会いたい」と言ってほしい
◎おこめの視点
笑顔のまま、ソーダさんの返事を待つ。
ソーダさんは少し迷ってから、口を開いた。
「そっか! そうなんだね……」
それだけだった。
メッセージが伝わらなかった?
スルーされた?
ショックだけど、頑張って笑顔をキープする。
「……今日は楽しかったです。おやすみなさい」
「うん。僕も楽しかった! おやすみなさい」
タクシーに乗り込んだ。
手を振りながら別れると、すぐにソーダさんが見えなくなった。
静かな無人タクシーの車内に、自分のため息の音が響く。
ソーダさんらしい答えだけど、切ない。
ソーダさんとの食事は、楽しかった。
想像していたより、ずっと。
ソーダさんも楽しんでくれてたと思ったんだけど、違ったのかもしれない。
ソーダさんは気遣いの人だから。
ソーダさんの心が知りたい。
おこめのことを、どう思っているのか。
なぜ、誘い返してくれなかったのか。
考えれば考えるほど分からなくなる。
「ねえ、アイちゃん、また興信所に調べてもらう? ソーダさんがどう思ってるか」
AI秘書のアイちゃんに聞いた。
ソーダさんと直接会う前に、念のため興信所も使って、ソーダさんの身元や普段の様子は事前に確認していた。大丈夫だとは思うけど、念のため。
「ちょっとアヤカ、恋にボケてない? 『ソーダさんがまた会いたいか』まで分かるわけないでしょう」
一刀両断にされた。まあ、そうだよね。
そこが一番知りたいのに。
また、ため息が出てきた。
自分が、こんなに彼の気持ちが気になるなんて。
親友達から、ソーダさんに恋してると言われてたけど、実感が湧いてくる。
「アヤカ、そろそろ通話しないと。してもいい?」
そうだった。高校時代からの親友、美香と約束してた。
「お願い」
すぐビデオ通話が繋がった。
「もしもし。あや、お疲れ。どうだった?」
「……楽しかったです」
口にしただけで、少し頬がゆるむ。
「良かったじゃない。で、誘われた?」
「それが……。『また出張に来ます』って言ったんですけど、スルーされちゃいました」
自分からまた会いましょうと言わなかったのは、美香のアドバイスだ。
「ソーダさんらしいといえば、ソーダさんらしいんですけど……」
自分が自意識過剰だったのかも。勝手に盛り上がって、勝手に期待して。
そう思うと、少し胸が重くなる。
「あやは? 実際に会ってどうだった?」
「ソーダさんは、リアルでもソーダさんのままでした」
それは、迷わず答えられた。
話していると楽しい。
こっちが夢中で話しても、ちゃんと聞いてくれる。
昔ゲームで話したことまで覚えてくれていた。
「もう2時間なんて、あっという間で」
美香に報告しながら、はっとした。
「待ってください」
「なに?」
「私、喋りすぎてたかもしれません!」
急に不安になった。
火星の魔女の話なんて、かなり長く語ってしまった気がする。
「彼、嫌そうだった?」
「いえ。ずっと聞いてくれてました。楽しそうに」
「じゃあ、いいんじゃない?」
「……そうですか」
少しだけ安心する。
「まさか、あやのこんな話を聞く日が来るとはね」
「こんな話?」
「好きな人にどう思われたか分からなくて、悩んでる話」
「自分でも、びっくりです」
初めての恋で、こんなに自分が変わるなんて。
思わず笑ってしまった。
「美香」
「ん?」
「私、ソーダさんともっと仲良くなりたいです」
「うん」
「次も私から誘ったほうが良いでしょうか」
仕事なら、迷わない。
必要なら予定を動かす。
手段を考える。
最短で結果を取りにいく。
でも。
ソーダさん相手だと、それだけじゃ駄目な気がした。
「あやは、彼氏になってくれたらそれで満足?」
「……違います」
それはすぐ分かった。
付き合う、という結果だけが欲しいんじゃない。
「私を特別な人として、選んでほしいです」
口にすると、胸が少し苦しくなる。
「ソーダさんに私を見て、好きになってほしい。愛してくれて、大切にしてほしいです」
顔が熱い。
「じゃあ、次もあやから誘う?」
「誘いたいです」
即答していた。
美香が笑った。
「そこは迷わないんだ」
「会いたいので」
「じゃあ、あやが誘って、彼が会ってくれたら? 彼の気持ちは分かる?」
少し考える。ソーダさんは優しい。
自分が会いたいと言えば、きっと会ってくれる。
でも。
「……分かりません。でも、会えます」
「そうだけど。それでいいの?」
会いたいけど、会うだけなのは嫌だ。
ちゃんとソーダさんに、おこめを選んでほしい。
「……じゃあ、次に会おうって言うのは、待ちます」
自分で言っておいて、すぐに嫌になった。
「どのくらい待てばいいですか?」
「さあ」
「目安は?」
「ない!」
言い切られた。
「……すごい顔してるけど」
「恋愛って、難しいですね。経営のほうが楽です」
美香が笑った。
「普通は逆だけどね」
「動けないのが、もどかしいんです!」
「私が止めてるのは『また会おう』ってお誘いだけよ」
その言葉で、少し考える。
誘うのは待つ。
でも。
何もしちゃいけないわけじゃない。
やっぱりゲームだ。
ゲームなら、毎日のように会える。
もっと話せる。もっと仲良くなれる。
ソーダさんが、もっとおしゃべりしたくなるくらいに。
「……分かりました」
「何する気?」
「次はソーダさんから『また会いたい』って言ってもらいます」
「待つ人の顔じゃないね」
「待ちます!」
通話を終える。
ゲームを開くと、そこにソーダさんがいた。
モグラとクモを掛け合わせたような、不思議な種族。つぶらな瞳が可愛い。
個別メッセージ欄を開く。
おこめ: 今日はありがとうございました! 出張が決まったら
指がそこで止まった。
……違う。
これは、自分から言わない。
後半を消す。
おこめ: 今日はありがとうございました!
送信した。
少しだけ、物足りない。
ゲームの中のソーダさんを見ながら、口元がゆるんだ。
「また会いたい」って言ってもらえるように頑張ろう。
◇ソーダの視点
おこめさんとリアルで会った、その週の金曜日。
ネトゲの曜日イベントが終わった。
金箔のせ: おつかれーー! 今日も勝ったー!
ポテト: 拙者のクサリガマが大活躍でござったな
クラッカー: 道に迷って5分遅れた忍者は誰だw
ポテト: あれは高度な陽動でござる!
ソーダ: はいはいw
いつもの闇鍋だ。
僕も笑いながら遊んでると、おこめさんから個別メッセージが来た。
おこめ: ソーダさん、お疲れ様でした! 今回の報酬配分ですけど、こんな感じでどうですか?
ソーダ:お疲れ様! うん、良いと思う!
ここまでは、リーダーとサブリーダーとしての業務だけど、最近はもう少し会話が続く。
おこめ: そういえば、火星の魔女、リメイクされるんですね!
ソーダ: え、マジで!? 知らなかった!
おこめ: 来年公開みたいです! さっき記事を見つけました!
ソーダ: 見たい! でもリメイクかー。ちょっと怖いなw
おこめ: どうしてですか?
ソーダ: 思い出補正が強すぎるからw 子供の頃めっちゃ好きだったし
おこめ: 私はこの前初めて見たので、補正ゼロです!
ソーダ: 最強の公平審査員だ
おこめ: 任せてください!
ソーダ: 頼もしい!
おこめ: でも、ソーダさんが好きだったところは教えてください
ソーダ: それ聞いたら補正かからない?
おこめ: ……審査員も、贔屓したいです
ソーダ: 公平じゃなかった!
思わず笑った。
リアルで会ったときも、こんな感じだった。
ゲームの向こうに、本物のおこめさんがいる。
また会いたい。
僕は、おこめさんが好きだから。




