1-1 相棒は、僕に恋してる。
◎ヒロインの視点
プライベートジェットで新潟空港に降りた。
ネトゲの相棒、ソーダさんに会うためだ。
これからリムジンで長岡駅に行って、電車に乗る。
ソーダさんの前では「普通の女性」でいたいから、電車で行く。リムジンは違うよね?
「アヤカ、好きだからって婚姻届とか持ってっちゃ駄目よ!」
来る前に相談した親友の声を思い出す。
持っていくわけない。ストーカーじゃないから。
そう。「おこめ」は、普通の女性という設定だ。
常識だってある。
成功した起業家で大金持ちのアヤカじゃない。
電車を降りて、チャットする。
おこめ: 今、ホームに降りました。改札に向かいますね。私は青いマフラーしてます!
いよいよだ。
◆◆◆
◇主人公の視点
桜舞い散る夕暮れの改札の前。
僕は、青色のマフラーの人を探していた。
待ち人は僕がハマっているネットゲームの相棒、おこめさんだ。
1年以上一緒に遊んできたけど、分かってることは、たぶん女性。たぶん若い。
それくらいだ。
でも、どんな人でも僕に会いに来てくれるだけで嬉しい。
ソーダ: 僕は河童マークのバッグを持ってる!目立つように!!
おこめさんに返信した。
河童マークは、僕の趣味じゃない。単純に誰よりも目立ちそうなバッグだからだ。
たくさんの人が降りてくる。
流れが落ち着いてきたころ、改札の奥から青いマフラーの女性が現れた。
思わず、二度見する。
すっごい美人さん。超オシャレ。
まさに女神だ。
爽やかな春の空を思わせる青色のマフラーが、オフホワイトのコートの上でよく映えている。
まさかまさか。あの人が、おこめさん?
ハイヒールなのに、やや大股で早歩きだ。黒いビジネスバッグもあいまって、いかにも仕事ができる女性という感じ。
改札を出てまっすぐこちらに向かってくる。
近くまで来た。
僕よりも背が高い。ハイヒールのせいだと信じたいけど、たぶんそれだけじゃない。
「ソーダさんですか?」
僕のキャラクター名だ。本名が田中颯太だからソーダ。
「は、はい! ソーダです。おこめさん、ですか?」
彼女がニコリと微笑んだ。
意志の強そうな、シャープな顔立ちが少し柔らかくなる。
「はい。おこめです。はじめまして」
よく通るアルトの声だった。
僕の頭の中でテロップが流れた。
『速報! クラゲみたいなエイリアン、おこめさんはリアルだと女神だった!』
心臓がドキドキする。顔が熱い。
一目惚れは雷に打たれるというけど、本当にそんな感じだ。
「会ってくれてありがとうございます」
軽く頭を下げられる。
「こ、こちらこそ! 会えて嬉しい!」
「私も嬉しいです!」
僕に向かってニコリと微笑んだ。
おこめさんが僕のバッグを見た。
「……すっごく、河童ですね。そのバッグ」
「め、目印だから! 僕の趣味じゃないからね!」
「ふふっ。可愛い趣味だなって思ってました」
「えっ!?」
「冗談です。すごく見つけやすかったです」
冗談なのかそうじゃないのか。何だか緊張が溶けてきた。
「じゃあ、行こっか。お店、予約してあるから」
「はい!」
駅前のおしゃれな居酒屋へ案内し、向かいに座った。
このお店を予約したとき、『おこめさんが本当に若い女性だったりして』と淡い期待をしてた。
でも、これは……完全に初デートだ。
「それにしても、声かけてくれたのは意外だった」
「そうですか?」
「うん。おこめさんは、ゲームとリアルはつなげない人だと思ってたから」
「そうですね……。出張が入ったというのもありますけど、ソーダさんに会いたくなっちゃって」
サラッとすごいこと言われた。
「えっ!? ありがとう!」
仕事のため? 僕のため?
何だかドキドキする。仕事のついでだったとしても、声をかけてくれただけで嬉しい。
おこめさんが店内を見回して言った。
「もしかして、このお店は、例の焼き鳥のお店ですか?」
「ううん、ここは猫ちゃんパフェのお店! 焼き鳥も美味しいけど!」
「え!? ここが?」
あ、嬉しそう。
「うん。最後に食べる?」
「はい!」
今日一番の笑顔だ。
僕は猫ちゃんパフェに負けた?
「そういえば、先日、やっと『火星の魔女』を見ました!」
「そうなんだ! 懐かしいー! 僕が小学生の頃めっちゃ流行ってた。」
ゲームの中では、趣味ですら話を逸らしてたのに。今日は自分から言ってくれる。
それが嬉しい。
「ええ。子供の頃、うちはテレビ禁止だったので、やっと追いつけました」
おこめさんが微笑んだ。
「じゃ、18年越しの新作だね!」
「はい。全話見たので、ネタバレ会話もオッケーです!」
「やった! じゃあ遠慮なく話せるね」
「はい!」
おこめさんがグッと親指を立てた。
「でも大人になってから初めて見ると、印象に残るところも違いそうだよね」
「そうなんです! 大人の視点で見たら、主人公のほうがライバルよりも自分勝手じゃない? みたいな」
「主人公、18年越しに怒られてる!」
「怒りますよ!」
「そんなに?」
「第2話で主人公にイライラしちゃって。もっと早く動けーって!」
思わず笑った。
「それ、ライバルのセリフじゃん!」
「そうなんですけど! それでですね……」
身を乗り出し熱く語るおこめさんは、綺麗というより可愛い。
飲み物が来た。
「「カンパーイ!」」
チン、とグラスを合わせる。
「ごめんなさい、私、話し過ぎちゃってましたね。なんか楽しくなっちゃって……」
おこめさんは、少し恥ずかしそうに言った。
「大丈夫だよ! 楽しかったし」
「ソーダさん、リアルでも聞き上手ですね」
おこめさんが微笑んだ。
「ありがと。よく言われる!」
そこは自信ある。でも、面と向かって言われるとちょっと照れくさい。
「次は、ソーダさんの話も聞きたいです!」
「えと……。そうだ。火星の魔女といえばね。去年、ゴンダムのプラモデル作った!」
「えっ!? 主人公が乗ってたやつですか?」
おこめさんが驚いた。
「見たいです!」
おこめさんが身を乗り出した。
写真を見せる。
「うわっ。すごーい。本格的。ソーダさん、こういうの得意ですよね」
「え、何でわかるの?」
「はい。昔、針金でゴンダム編んだって言ってませんでした?」
「あ、それ言ったかも。よく覚えてるね!」
そうだ。半年くらい前、チラッと話した。
覚えててくれて嬉しい。
「それは覚えてますよ。針金でゴンダムを編む人、他に知りませんから」
「うーん。やってみたら、できちゃったんだよね。昔からシロツメクサで何か編むの得意で。船とか」
「……シロツメクサの船からゴンダムに進化したんですね」
「うん。進化したね。いつの間にか」
「次は、何に進化するんですか?」
「え。……宇宙怪獣かな。ゲームの」
「宇宙船をバリバリ食べちゃうやつですね」
その後も会話が弾んで、猫ちゃんパフェの時間になった。
猫の顔の形をした器にパフェが盛られてる。イチゴの耳とチョコレートの目と鼻、ヒゲはクッキーだ。
「あ、可愛い! こういうぬいぐるみ持ってます!」
「可愛いよね! 可愛すぎてさ、いつも食べて良いのかなって迷うんだよね」
おこめさんは、少し不思議そうに首を傾げた。
「……でも、食べるものですよね? 食べないと溶けちゃいますし」
あまりにキッパリした言い方で、つい吹き出した。
「そうだよね! 食べよう!」
「はい!」
猫パフェは、相変わらず可愛くて美味しかった。
気づいたら2時間が経っていた。
混んでいるからとお店を追い出される。
駅前のロータリーで、お別れだ。
あらためて、おこめさんが着ているものを見た。
仕立てが良くて、いかにも高級そうだ。
きっと仕事もできて、しっかり稼いでるんだろうな……。
僕とは住む世界が違う。
「今日はありがとうございました! 近いうち、また出張に来ると思います」
眩しいまでの笑顔のまま、おこめさんが僕を静かに見てる。
何か返さなきゃ。




