2-13 また手をつないだ。もう離さない。
◇ソーダの視点
電車の中でスマホを開く。
謝らなきゃと思うけど、気持ちも言葉も整理できない。
代わりにゲームを開いた。
あの限定グループにチャットする。
ソーダ: どうしよう!おこめさんと喧嘩しちゃった……
経緯を打ち込んだ。
費用のこと、ゴンダムショップとロブスター、しんどいという言葉のこと。
すぐに返信が来た。
金箔のせ: 男の子のプライドだねw
クラッカー: 謝れ。とにかく謝れ。すぐ謝れ
ポテト: 殿中でござる!
ソーダ: 僕もおこめさんに謝りたいけど、気持ちがぐちゃぐちゃしてて……。何が正しいんだろう、って思っちゃう
クラッカー: 楽しいが正義
ペッパー: でもさ、違うと辛くない?
そう!僕が悩んでるのは、そこだ。
本当は、ずっと前から気になってた。
僕の年収は200万円だ。
一方で、おこめさんはIT関係の会社でバリバリ働いてる。新潟に来るときは、いつも良いホテルに泊まってる。
年収は1000万円に届いててもおかしくない。
もしそうなら、僕の5倍だ。
余裕も金銭感覚も全然違う。
おこめさんの気持ちは、分かる。
でも、僕もちゃんと払いたい。
パッタイ: うーん。夫婦でも違いは、いくらでもありますけどね。妻はせっかちで、私はのんびり。私は酸っぱい食べ物が好きで、妻は嫌い。でも楽しく暮らしてます
金箔のせ: 熟年夫婦のおじさん、でてきた!
パッタイ: 孫もいるから、おじいちゃんです(笑)
ソーダ: 秘訣、知りたいです!
パッタイ: うーん、何が正しいとかない気がしますね
え。どういうことだろう。
パッタイ: お互いに相手を思いやって、違うところは仕方ない。最後は笑って許すのが、夫婦の秘訣ですよ
ペッパー: それができれば苦労しない……
クラッカー: 俺、わかるw だって、俺と同じ彼女なんて見つからないwww
金箔のせ: いなそうΣ( ゜д゜)
クラッカー: いるわけないㄟ( ▔∀▔ )ㄏ
チャットしながら考える。
おこめさんは、僕の笑顔を願ってる。
僕も、おこめさんの笑顔を願ってる。
違うところも多いけど、そこは同じだ。
それが、一番大事だ。
お金は大事だけど、それ以上に、僕はおこめさんの笑顔を大切にしたい。
おこめさんが僕のためにしてくれたことには、笑って「ありがとう!」だ。その分、僕は新潟デートで、おこめさんを笑顔にすればいい。
今日は、それが足りなかった。
心のモヤモヤが晴れてきた。
ますます、おこめさんへの申し訳なさが膨らむ。
ソーダ: 皆、ありがとう!謝ってくる
グループを閉じた。
早速、おこめさんにチャットする。
ソーダ: さっきは、ひどいことを言って本当にごめんなさい。おこめさんは、楽しいデートにしたかっただけなのに。今日は、ありがとう!
送信した。心臓がドキドキした。
おこめさんが許してくれなかったら、どうしよう。
幸い、さほど待つことなく返信がきた。
おこめ: ありがとう。私こそ、ソーダさんの気持ちを置いてけぼりにしてごめんなさい
ソーダ: おこめさんが謝ることなんてない!おこめさんが僕のことを思ってしてくれたのは分かってる。ありがとう
本心だった。
おこめ: 私、嬉しいです。明日も、私がデート代を持っても良いですか?
明日もある。そのことに肩の力が抜けた。
ソーダ: もちろんだよ!ありがとう
おこめ: 私こそ。ソーダさん、好きです♡
ソーダ: 僕も、おこめさんが好きです♡
チャットで仲直りはできたと思う。
だけど明日のデートでも、ちゃんと顔を見て謝りたい。それが筋だと思うから。
それから、おこめさんとチャットを続けた。
ソーダ: 今日のデジタルアート、楽しかった!
おこめ: はい! 4色の花、きれいでした。次は5色にしたいです
ソーダ: 手が一本足りないw
おこめ: 足でやりましょう
ソーダ: 8色までいける!
おこめ: ……10色にしたくなってきました
ソーダ: なんで増えたの!?
思わず吹き出した。
なんでもない会話が、やっぱり楽しい。
本当に仲直りできて良かった。
翌朝、スカイツリーの最寄り駅に着いた。
改札を出て、おこめさんを待つ。
おこめさんは、予定通りに来た。
アイスブルーのサマーニットワンピースに、銀色の細ベルト。いつもどおりオシャレだ。
でも顔の印象が、いつもと少し違う。
よく見るとメイクが違った。
お姉ちゃんが泣いた次の日に、似たメイクをしているのを何度か見たことがある。
胸が締めつけられる。僕のせいだ。
何が正しいとかは無いのかもしれないけど、間違っていることはある。
「おはようございます」
おこめさんが笑顔で言った。
「おはよう」
おこめさんの顔をしっかりと見た。
そして、腰を折って深々と頭を下げた。
「昨日は、ごめんなさい。おこめさんの行動は全部、僕のためだったのに、その親切を受け取れなかった」
「……ソーダさん」
頭を下げ続ける。
「悲しくさせちゃって、本当にごめんなさい」
少し、間があった。
「……顔を上げてください」
顔を上げると、おこめさんが困ったように笑っていた。目が少し赤かった。
「私も、ごめんなさい。お互い様にしましょう」
「謝らないで。僕が悪い。昨日は、ありがとう!」
そう言っておこめさんに一歩近づいて抱きしめた。いや、抱きしめさせてもらった。
おこめさんも僕を抱きしめかえしてくれた。
その背中は細くて、少し震えていた。
「……仲直りです」
「うん。仲直り。ありがとう」
それから僕たちは手を恋人つなぎにして、スカイツリーに向かった。
僕は、この手を二度と離さない。




