2-11 女神の手料理?と、女神の「あーん」
◇ソーダの視点
8月下旬の週末、僕は東京に来た。
新幹線を降りた瞬間、むっと蒸し暑い空気が顔にあたる。東京は、まだまだ夏だった。
頭の上を雲がすごいスピードで駆け抜けていく。
来週あたりに台風が来るらしい。
おこめさんが改札で待ってくれていた。
今日は深い青色のフレンチスリーブとハイウエストの白ワイドパンツだ。
手を振ってくれる白い細腕がまぶしい。
スリーブには銀糸が入っているのか、上品に煌めいている。
自然と早足になる。
「ソーダさん!」
おこめさんが嬉しそうな笑顔で迎えてくれる。
これだけで、来て良かったと思う。
「おこめさん、2週間ぶり!」
「久しぶりですね。会いたかったです!」
「僕も。僕も会いたかった」
手をつないで歩き始めた。もちろん恋人つなぎ。
今日もおこめさんのリードだ。
東京駅は複雑過ぎる。
東京駅からデジタルアートミュージアムに向かう。
バスで行くのかなと思っていたら、おこめさんは迷わずタクシーに乗った。
■■■
入場時刻よりも早めに着いた。
もう入場待ちの列が長くなっている。
だいぶ待ちそうだ。
おこめさんは、列に並ばずスタスタ進み、入り口脇のベンチに座る。
僕も座った。
冷風が出てくるハイテクパラソルのおかげで、意外と快適だった。
おこめさんに尋ねる。
「並ばなくて良いの?」
「大丈夫です。私に任せてください」
おこめさんは微笑むと、持っていた銀色のトートバッグから明るい青色の布包みを取り出した。
「入る前に、少し食べたほうが良いかなって」
布包みの中にはラップに包まれたおにぎらずが入っていた。
卵焼きの黄色が鮮やかで美味しそうだ。
どうやら、これが今日のランチらしい。
「お口にあえば良いんですけど」と差し出してくれる。
「うわ」
思わず声が出るほど美味しい。
ふっくらとして粒のたったごはんが、香り豊かな海苔に包まれて、中の少し洋風なオムレツと良くあっている。
「え、おこめさん。これ作ったの!?すごくない!?」
おこめさんが、ちょっと気まずそうにした。
「えーと……その、これは私が握りました!」
差し出されたのは少し不格好な、おにぎらず。
「あとはゴンダムさんが……」
両手の人差し指をツンツンと合わせている。
「ゴンダムさん?」
気になる単語が出てきた。
「最近、家事ロボットを買いまして。ソーダさんがゴンダム好きなので、名前をゴンダムさんに」
想像より斜め上の回答だった。
家事ロボットは自動車並みの値段がする。実家でも買おうか迷ったけど、まだ買えていない。
「そ、そうなんだ。すごいんだね」
正直、おこめさんを遠くに感じた。
「美味しいですか?」
「うん、すごい美味しい。ありがとうね」
「良かったです!」
おこめさんが嬉しそうに微笑んだ。
おにぎらずを食べ終わる頃には、最後尾が見えないくらい長蛇の列ができていた。
大丈夫かな、と思う。
「さ、入りましょう」
そう言うと、おこめさんは入り口にそのまま向かう。
そして空いている優先ゲートをスッと抜けた。
並んでいる人たちの視線が背中に当たる気がした。
館内の説明を受ける。膝下まで水に濡れるらしい。
おこめさんのワイドパンツを見る。踝も隠れている。濡れちゃいそう。
「お着替えする?」
こっそり聞いた。
「大丈夫です」
おこめさんがニコリと微笑んで答えた。
そのまま男女共通のロッカールームに向かう。
ロッカーの前に立ち止まったおこめさんは、ワイドパンツに手をかけると一気に脱いだ。
思わずギョッとしたけど、ワイドパンツの下から白いショートパンツが出てきた。
白い生足にドキッとする。おこめさんの太ももを生で初めて見た。
おこめさんは持っていたトートバッグにワイドパンツを入れて、そのままロッカーにしまった。
「ね、大丈夫。お待たせしません」
おこめさんがニッコリした。
かなわない。
しっかりと手をつないで、中に入る。
幻想的な光の花畑の部屋だった。
「きれいー」
思わず声が出た。
「綺麗ですね」
おこめさんが嬉しそうに笑う。
花が咲く大きな壁の前に立つ。
おこめさんがそっと壁に手を伸ばすと、触れたところから花びらが一斉に舞った。
「わっ」
おこめさんが子供みたいに目を輝かせる。
もう一度触る。今度は違う色の花が咲く。
「ソーダさんも、やってみてください!」
隣に手を置くと、二人が触れた場所から、2色の花が一斉に咲いた。
「すごいですね!」
「うん、すごい」
花に触っているうち、肩が触れた。
至近距離で微笑み合う。
おこめさんの良い香りがフワリと漂った。
そのままの距離感で、水の部屋や鏡の部屋などをまわっていく。
気づいたら、随分長くいた。
外の眩しさに目を細めながら、モノレールで次の目的地に向かう。
前回、僕が倒れたショッピングモールだ。
今回はゴンダムの変身シーンは見ない。
また倒れたくなかった。
「ソーダさん、お腹減りました?」
おこめさんに声をかけられて気づいた。
おやつの時間だ。ランチが少なめだったこともあって、確かに小腹が空いている。
「じゃ、たこ焼き食べますか?」
「いいね! たこ焼き、食べたい」
フードコート形式のたこ焼き屋さんに入る。
僕が席を確保して、おこめさんが買いに行く。
たこ焼きを持ってきたおこめさんが、何故かニコニコしている。
「どうしたの?」
「良いこと思いついて。ソーダさんに、たこ焼きをあーん、してあげたいです」
「えっ!?」
それは……。
嬉しいけど恥ずかしい。
「駄目ですか?」
おこめさんが少し悲しそうな顔を作った。
だけど、どこか頬が緩んでる。可愛い。
「分かった! だけど僕も、おこめさんにあーん、させてね」
おこめさんが一瞬、固まった。
「……お願いします」
少し頬が赤い。あまりに可愛くて、ギュッと抱きしめたくなった。
「では早速……」
おこめさんがワクワクした顔で、たこ焼きをひとつ箸でつまんだ。
フゥフゥと息をかけて冷ましてくれる。
「じゃあ、ソーダさん。あーん」
「……あーん」
恥ずかしい。
でも、おこめさんが嬉しそうなので、そのまま口を開ける。
「熱くないですか?」
「大丈夫。おいしい」
「良かったです!」
おこめさんが満足そうに笑った。
今度は僕が、たこ焼きをひとつ取ってフゥフゥ冷ます。
「じゃ、おこめさんも」
「……はい」
さっきまで楽しそうだったのに、急に恥ずかしそうになる。
少しだけ口を開けた。
「あーん」
おこめさんが、ぱくっと食べた。
目が合う。
ふたりとも照れて、笑ってしまった。
結局、1個も自分で食べなかった。
そして、ついにゴンダムショップに来た。
前回行けなかった、あのゴンダムショップだ。
「リベンジできましたね」
おこめさんがにっこり笑う。
「うん!良かったー」
僕も満面の笑顔になる。
棚を見てまわる。色々なゴンダムがいて、見ているだけでもテンションが上がる。
火星の魔女のコーナーに来ると足が止まった。
すごく気になるフィギュアがある。
作りがとても精巧で、ポーズも塗装もいい。
値段を見た。予算を超えている。
少しじゃなく、かなり超えていた。
棚に戻す。
「それ、気に入りましたか」
おこめさんが横から言った。
「予算オーバーなんだよね」
「あ、そうですか……」
少し間があった。
「あの、良ければ私がプレゼントしましょうか? 前に白鳥のぬいぐるみを買ってもらったじゃないですか。お礼です」
おこめさんが手を伸ばした。
欲しかった。正直、すごく欲しかった。
おこめさんが買ってくれるなら、ということも一瞬、頭に浮かんだ。
どうしよう。




