2-8 お盆で彼女の写真を見せたら結婚の話になった
◇ソーダの視点
おこめさんとデートした次の火曜日。
お盆だ。
例年どおり、父方のおじいちゃんを筆頭に、10人以上が僕の家に集まった。お昼から飲んで食べて騒いでの大宴会だ。
盆棚に並んだキュウリの精霊馬たちも、心なしか迷惑そうな顔をしていた。気のせいだけど。
「颯太! こっちこっち」
勝政叔父さんだ。普段から声が大きいのに、飲むとさらに声が大きくなる。
台所から料理を持って来たところを捕まった。
「おう颯太、飲め」
真っ赤な顔になった叔父さんがビールを差し出してくる。
「元気になってくれて良かったぞ。彼女もできたんだってな!」
「……まあ、そうです」
母さんか、お姉ちゃんか。
どこかで宴会があれば、すぐ噂が広がる。
「こないだ、祭りで藤田の倅が見たらしいぞ。東京で、一流の会社でバリバリ働いてるんだって? すっごい美人だとか。高嶺の花じゃないか」
犯人は、中学校からの親友、大輝だった。地元はどこに知り合いの目があるか分からない。
見られてたのは、何か恥ずかしい。
「写真見せろ」
逃げ場がないので、スマホを出した。
一昨日撮った写真だ。
海沿いの道で、おこめさんと僕が少し照れながら笑っている。
叔父さんが目を細めた。
「……本当に美人じゃないか。颯太、甲斐性をもっとつけないといかんぞ。男なら大黒柱にならんとな」
ビールのコップについた水滴をじっと見つめる。
グランクラスといい、おこめさんに追いつける気は全くしない。
「いいか、颯太。男ってのはな……」
叔父さんが続けようとしたところで、奥さんの香澄おばさんに耳を引っ張られた。
「イテテ、何しやがる!」
「ちょっと。アンタ、偉そうに説教してんじゃないよ。私を専業主婦にする甲斐性もないくせに」
叔父さんは「ちくしょーっ、去年勝ったからって偉そうに」と呟いた。去年は香澄おばさんのほうが稼ぎが多かったらしい。
香澄おばさんが僕に話しかけてきた。
「颯太くん、バカが言ったことは忘れて。男の人は、真面目で優しいのが一番よ」
頷く。
そして、香澄おばさんが真面目な顔のまま、僕に向かって手のひらを出した。
「さ、私に写真見せて」
スマホを渡せということらしい。
「え、颯太の彼女!? 俺も見たい」
「ちょっと私がくっつけたのよ! 私にも見せなさいよ!」
隣の席で飲んでいたお姉ちゃん夫婦が騒ぎだした。
「颯太! 見せい!」
上座に座っていたおじいちゃんが、騒ぎを聞きつけて怒鳴った。お酒で顔が真っ赤だ。
慌てて持っていく。
おじいちゃんが眼鏡をかけて目を細める。
「よく見えん」
しょうがないので、テレビに接続して映した。
沈黙が流れた。
「ほーんにいとしげらね」
おばあちゃんが呑気に感想をつぶやいた。
「おばあちゃん、ありがとう。本当に可愛い人なんだ」
「なんだよマジかわいーじゃん!」
「ほんとに彼女!?」
「どこで出会ったの!?」
皆、次々に叫びだし、ミンミンゼミに負けない騒ぎになった。
自分がこういう話題の中心にいるのは、慣れない。
ちょっと恥ずかしくて、嬉しかった。
「良い顔してるじゃん」
お姉ちゃんから肩を叩かれた。
「……ありがと」
夕方になった。
ヒグラシがカナカナ、と涼しげな音で鳴いている。
親戚が引き上げたあと、僕は後片付けをしている。
リビングと和室の間の仕切りを外して作った空間は、宴会の後の寂しさを漂わせている。
「じゃ、私も帰るねー」
「穂乃花、ありがとうね!」
後片付けが一段落すると、お姉ちゃんも旦那さんと一緒に自宅に戻っていった。
静まり返った座敷は、さっきよりも広く感じる。
「颯太も手伝ってくれてありがとう。毎年、大変ね」
「大変だよね。今年は、お姉ちゃんがいたからまだ良かったけど。来年も来てくれるかな」
「どうかしら。旦那さん、次男といっても、向こうのお盆に顔出さないわけにもいかないでしょ」
やっぱりか。
台所から麦茶を持ってきて、がらんとした座敷に座る。
しばらく黙って麦茶を飲んでると、庭をぼんやり見ていた父さんが話しかけてきた。
「颯太、彼女と今、どんな感じだ」
唐突だけど父さんらしい。
「まだ付き合い始めたばっかりだよ」
「先週末、よく急に来れたな……」
本当にそう思う。
「うん。すごい人なんだ。いろいろ。こないだはありがと」
父さんは、少し笑った。
僕が早めに出られるよう、町会の仕事も多めに手伝ってくれた。
「どんな人なんだ」
父さんに聞かれると、なんとなく真面目に答えたくなる。
なれそめから最近のデートまで、どんな人となりを感じたか全部話す。
何も隠さなかった。隠す意味もないし。
父さんは、全部しっかり聞いてくれた。
僕が話し終えると、静かに言った。
「良い人に気に入ってもらえたな。このまま結婚できると良いな」
「ちょっ! 早すぎるよ」
「そうか……」
「……そうなったら良いなとは思ってるけど。すごい人だし、僕なんかで良いのかな、って思う」
「選ぶのは向こうよ」
お母さんがお茶を持ってきて、父さんの隣に座りながら言った。
「あんたはあんたのままで良いの」
「うん……」
僕は窓の外を見た。
縁側の向こう、夕暮れに染まった田んぼの上を大きなシラサギが2羽、連れ立って飛んでいた。
今頃、おこめさんは何してるんだろう。
やっぱり、実家で家族と過ごしてるのかな。
もしかして僕のことも話題になってたりして。




