2-7 女神のナイトは、僕だった
◇ソーダの視点
満員の電車に、なんとか乗りこむ。
おこめさんには扉に沿って立ってもらい、僕が腕と体でおこめさんをガードする。
電車が曲がったり速度を変えたりするたび、猛烈に押される。
そのたびに、腕に力を入れて、足を踏ん張った。
おこめさんの良い匂いがするし、本当はその柔らかな体を抱きしめたい。でも、そういう気持ちでいたら、人混みの圧力に負けそうだった。
安全第一、おこめさん第一。
おこめさんが、静かに僕の服の裾を掴んだ。
声をかける。
「大丈夫?」
「……大丈夫ですよ。ソーダさんのおかげです」
元気百倍。腕は痛かったけど、やりきった。
やっとのことで新潟駅についた。
混雑のなか、新幹線のホームまで見送りに行く。
「改札で大丈夫ですよ」と言われたけど、ひどい混雑で心配だったし、もう少し一緒にいたかった。
おこめさんとホームを歩く。
自由席の黒山を横目に、指定席の車両に向かう。
「おこめさん、何号車なの?」
「……けっこう、先です」
おこめさんは、スタスタ歩く。
ホームを先に進むにつれて、だんだんと人が減っていく。
指定席車両を過ぎてグリーン車になった。
この先に指定席車両があったかな?
グリーン車を通り過ぎた。
突き当たりの車両だ。
グランクラス、一番高い席の車両だった。
「これしか取れなかったんです」
おこめさんが恥ずかしそうに、申し訳なさそうに言った。
「……いや、大丈夫だよ! そりゃ取れないよね、普通に。うん。グランクラスか……」
僕なら、行くのを諦めていただろう。
世界の遠さを、ちょっと感じた。
でもおこめさんが、ちょっとしょんぼりしながら弁解している姿は可愛い。
僕は気を取り直した。
「チケットも高いのに、来てくれてありがとう。昨日も今日も、本当に楽しかった」
おこめさんの顔がぱっと明るくなる。
「私も楽しかったです!」
そして、僕の頬にキスをした。
「ナイトさん、守ってくれてありがとう」
ちょっと恥ずかしそうだ。
それから、おこめさんがぎゅっと抱きついてきた。
柔らかくて、熱いぐらいに温かい。
腕が痛かったことも、グランクラスの衝撃も、全部どこかへ飛んでいった。
僕も、おこめさんを抱きしめる。
初めてのハグだ。
ふんわりと、おこめさんの香りが漂う。
レモンのように爽やかでジャスミンのように甘い、いつもの匂いだ。
「また会うのが楽しみです」
顔が近い。
「僕も。気をつけて帰ってね」
「ありがとう」
発車ベルが鳴る。
「じゃ、行きますね」
おこめさんは、新幹線に乗った。
列車が走り出す。
布越しの柔らかい感触が、まだ僕の胸に残ってる。今日は、ハグできた。
おこめさんと僕は、一歩一歩、前に進んでる。
それが嬉しかった。
次のデートは、お付き合いしてから2回目。
次は、もう少し欲張ってもいいのかな。
◆◆◆
◎おこめの視点
グランクラスの車内は、静かだった。
窓に顔を近づける。周囲は田んぼなのか、ほとんど灯りがない。
雲が出てきたのか、月は見つからない。
シートに深く腰をかけて、ふう、と息をついた。
スケジュールを無理して調整したけど、来て良かった。
後悔なんて、一つもない。
ただ、一人で帰るのが少し寂しかった。
反対方向の電車も満員だったことを思い出す。
ソーダさんは、あの満員電車に、また乗ったんだよね……。
ソーダさんは無事帰れたかな。
おこめ: 今日も、楽しかったです!無事に帰れましたか?
すぐ既読がついた。
ソーダ: 僕も楽しかった!ちょうど今、車に乗ったところ。おこめさんも気をつけて帰ってね
おこめ: ありがとうございます!
満員電車の中でナイトだったソーダさんを思い出す。本当に安心感があった。
汗の混じったソーダさんの匂いも、男らしくて素敵だった。あのとき、もっと抱きしめてくれても良かったのに。正直、物足りなかった。
ソーダさんと、早くまた会いたい。
もっと先に進みたい。
残念ながら、ソーダさんに次に会えるのは、お盆の後だ。
おこめ: お盆は忙しいんですよね
ソーダ: うん!親戚が来たり、こっちから行ったり。毎年バタバタ!
おこめ: 大変そうです……
ソーダ: たぶん親戚にも、おこめさんのこと聞かれる!
おこめ: どう説明するんですか?
ソーダ: ふふふ。ひみつ!
おこめ: 気になります!
ソーダ: じゃあ、ヒント。可愛い写真は見せる!……いいよね?
おこめ: いいですけど、手で双眼鏡とか変な写真はやめてくださいね……
ソーダ: 先に禁止された!?あれ、可愛いのに
おこめ: やっぱりです!
どうしても口元が緩んじゃう。マスクが欲しい。
でも本当に、ソーダさんは親戚の皆さんにどう紹介するんだろう。




