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2-6 どんな高いものより、僕とのデートが宝物

◇ソーダの視点


翌朝になった。今日も良い天気だ。


おこめさんの浴衣姿を思い出すと、つい頬が緩む。

今日もデートできるなんて幸せだ。

おこめさんと、もっともっと仲良くなりたい。


おこめさんを迎えに軽自動車を走らせる。

昨晩は人で溢れていた大通りも、今は静かだ。

祭りの喧騒は嘘のように消えていた。



ホテルに着くと、おこめさんが車寄せで待ってくれていた。

僕の車に気づいて手を振ってくれる。


今日は、白いリネンのブラウスに淡いスカイブルーのフレアパンツ姿だ。つばの広い白い帽子を持っている。


昨日の浴衣とはうってかわった、涼やかな都会の女性だった。


「ごめん、お待たせ!」


「全然ですよ。おはようございます。良い天気ですね!」

「うん! ラッキーだった」


今日はドライブデートだ。

僕のボロい軽に、おこめさんを乗せるのは毎回申し訳なくなるんだけど、おこめさんは本当に気にしない。


嬉しそうに乗り込んでくれる。

「今日はどこに行くんですか!?」


軽く開いた首元でネックレスがキラリと光った。

可愛いなぁ。


「まず海を見に行こうかなって。夜は、花火を見る予定!」


おこめさんは目を輝かせた。

「でしたら今日は最高の日ですね!」




橋を渡ったとき、河川敷では今夜の花火大会の準備が始まっていた。

作業員がドラム缶みたいな筒を台船に並べている。


おこめさんが指さした。

「あれ、花火の打ち上げ台ですか?」

「そうそう。今夜の花火は、ここから上げるんだ」


「わあ、楽しみです!」

運転中だから、おこめさんの顔は見れないけど、きっと笑顔だ。




青々とした田んぼを抜け、海に出た。

海岸沿いの道路を走りながら、ときおり車を止めて風景を楽しんだ。


穏やかな海が、きらきらと輝いている。


ところどころで、鋭い大岩が海から突き出ている。

その向こうに、佐渡ヶ島の大きな輪郭が霞んでいた。



「綺麗。日本海って、こんなに青いんですね。知らなかったです……」

おこめさんが驚いてる。嬉しい。


「うん! 夏は、すごい綺麗になる。砂浜沿いだとエメラルドグリーンになるし、もっと沖は、さらに深い青になるよ」


「南の島みたいですね。ドラマと全然違う」

「ドラマの日本海は、たいてい荒れてるもんね」

だけど、それは冬の話だ。



おこめさんの白い帽子が海風にはためいた。

絵になるなあ。


「ね。写真撮っても良い?」

「はい。ニースタとかで公開しないでくださいね」

「分かってる。おこめさん、投稿ゼロだもんね」

「見る専門です」

おこめさんが両手で双眼鏡を作って、目に当てた。


「めっちゃ見てる」

「見る専門なので」

「説得力がすごい」


おこめさんが吹き出した。

その瞬間、シャッターを切る。


「すっごく良い写真が撮れたよ!」

おこめさんにスマホを見せた。加工なんて必要ない出来だ。写真のなかのおこめさんは、両手で双眼鏡を作ってるけど。


「これ、待ち受けにしようかな……」

「もう! ちゃんと撮り直してください!」


撮った。今度は、おこめさんが、画面のなかで素敵な笑顔を見せている。

「わあ、ありがとうございます」


それを見て、目の前のおこめさんも嬉しそうに笑った。


「ソーダさんと一緒に写真、撮りたいです」

「良いね! 撮ろう」


今度は車の上にスマホを固定して、二人で写真を撮った。


撮ったあと、二人でチェックする。肩が触れ合うくらい近い。

写真の中で、おこめさんも僕も、少し照れながら笑っていた。スマホの待ち受けにしよう。


ふと、すぐ隣におこめさんの顔があることに気づいた。少し頬が赤い。

ピンク色の唇に目がいく。


吸い寄せられるように顔を近づける。

おこめさんが目を閉じた。


優しくキスをする。やっぱり、柔らかい唇だった。




それからまた車に乗った。

途中でランチを食べてから、山の上に向かう。


だけどさっきから、隣席が気になって仕方ない。おこめさんが挙動不審だ。



窓を開けて風を入れたり、また窓を閉じたり。

エアコンをいじってみたかと思うと、音楽をちょこちょこ変える。


今度は、ポーチからウェットティッシュを取り出して、ダッシュボードを拭き出した。


「ソーダさん、サンバイザーを下げますね」

信号で止まったタイミングで、今度はサンバイザーらしい。


「あ、ありがとう」

「眩しいと危ないですし」


おこめさんが自分のぶんも下げた。

それから、スマホが映すナビのマップを確認しだす。


「あの、おこめさん。さっきからどうしたの?」

我慢できなくて聞いた。


「私、助手ですので」

僕のほうを向いて、おこめさんが大真面目に答えた。


「助手席ってそういう意味じゃ……」

「快適なドライブのために、私も役に立ちたいんです! あ、お茶飲みたいですか?」


もうちょっと落ち着いてほしかったけど、おこめさんが何だか楽しそうだったので何にも言えない。


「う、うん。ありがと……」


おこめさんは、ペットボトルを手に持って僕の口に運んでくれた。

ぬるいお茶が美味しかった。




やっと山の展望台についた。

360度、全方位が見渡せる。


傾きかけた太陽が海に反射して、銀色に光る道ができていた。


「わー! ここ、すごくないですか」

「でしょ!」

おこめさんがはしゃぎながら、あちこちを指さす。


「あの光ってるのが川ですか?」

「そう。海まで繋がってるよ」


「町も見えますね。あ、川と海に挟まれてる場所がある。あそこ、昨日行ったところですよね。すごーい。全部見えてる!」


連れてきてよかった。


「ところで、おこめさんって誕生日いつなの?」

何の気なしに聞いた。


おこめさんが、一瞬、何か迷うような顔をした。

「……先週でした」

「は?」


「8月3日です……」

「ちょっと!! なんで言ってくれなかったの!!」


「えへへ」

おこめさんがごまかし笑いした。

ショックだ。


「えへへじゃないよ! 知ってたら誕生日おめでとうも言ったし、プレゼントも準備したのに……。あ、お誕生日おめでとう!」


「ありがとうございます! ごめんなさい、直近過ぎて、なんかおねだりしてるみたいで言えなくて……」



「うーん、分かった。でも誕生日プレゼントはあげたい。何が良い?」


「もう、貰いましたよ。ほら、昨日の白鳥」

おこめさんが笑った。


そして、真剣な顔になった。


「昨日と今日の思い出は、私にとって、どんなに高い物より宝物なんです」


おこめさんが、僕の手を両手で包み込んだ。

柔らかくてほっそりした手だ。


「ソーダさん、私は何も欲しくありません。ソーダさんと、こうして楽しく一緒にいられるのが何より幸せなんです」


顔が近い。

良い匂いがした。


「……それ言われたら何も言えないじゃん」

「そうです。計算通りです」


おこめさんがイタズラっぽく笑う。

何も言えなかったので、おこめさんに顔を近づける。


おこめさんは、嬉しそうに目を閉じた。

甘いキスだった。



夕暮れ前に山を降り始めた。

市街地に戻る頃には、すっかり暗くなっていた。

これから花火だ。


中心部から少し離れた川沿いに車を停める。

道なりのお店で買った軽食を食べながら、花火を待つ。


やがて真っ暗な川面の向こうで、光が一つ咲いた。橙色、それから赤、青、白。ドン、ドドン、パラパラという音が遅れて聞こえてくる。


日中とはうってかわって、二人とも、あまり話さなかった。ただ、手をつないで寄り添いながら、花火の音と光に身を任せていた。



花火が終わる間際に、僕たちは車に乗った。

それでも道は、もう混みだしている。


今日は、新幹線が停まるターミナル駅には車で近づけない。

車を少し手前の小さな駅に置いて、電車で新幹線の駅に向かう。


ホームに入ってきた電車を見て、おこめさんがつぶやいた。


「東京の通勤電車みたい」


乗る前から、扉の中は人で溢れている。

今は、1年で最も混む時間帯だ。


この混雑に、僕たちは今から乗り込まないといけない。


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