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2-3 女神は、僕を呼ぶためだけに部屋を借りた

◎おこめの視点


ソーダさんとデートする日。

早朝の羽田空港に降り立った。

深夜便は好きだ。自宅よりも良く眠れるから。


夏の朝の光が眩しい。

昼ごろには、シンガポールよりも日本のほうが暑くなるだろう。


午後にはソーダさんに会えると思うと、心が浮き立つ。



到着ゲートの前で、自分の名前が書かれた看板を持った女性が立っていた。


30代後半、黒いスーツにスマートグラス。コンシェルジュから送られてきた不動産屋さんの顔写真と一致した。

彼女の後ろには、若めの女性と初老の男性も立っている。



「細川様、はじめまして。本日担当いたします、森本と申します」

「はい、よろしくお願いします」


彼女の後ろの人たちも挨拶に来た。

百貨店の外商さんと家具のレンタル屋さんだった。


「ご案内いたしますね。お荷物をお持ちいたしますか?」


自分は機内持ち込みのトートバッグを持っているだけだ。他の荷物は今夜のホテルに送ってある。


「大丈夫です。ありがとう」


早速、事前にリストアップした内見場所に車で向かう。

目当ては、羽田空港や東京駅にアクセスしやすいけど、ターミナル駅から少し外れてリーズナブルなエリアだ。



早朝で道路が空いていたこともあり、空港を出てすぐに着いた。


オシャレな建物が点在する一方で、運河があって明るい。

実際に来るのは初めてだったけど、想像していたより落ち着きがあって悪くなかった。



最初の物件の前に着くと管理会社のスタッフが2名、眠そうな顔で待っていた。


年配の男性と、若い男性。二人とも、よそ行きの顔の下に『何かの間違いじゃない?』と書いてある。


もしかすると、コンシェルジュ経由の特別対応は初めてなのかもしれない。


コンシェルジュ経由なら、普通は超高級物件や投資物件だろうし、彼らが扱うような一般的な物件は少ないはずだ。


間違いじゃないですよ、と心の中でつぶやく。

普段は住まない。

ソーダさんを呼ぶためだけの部屋だ。


条件は三つ。セキュリティが高いこと。日当たりと風通しが良いこと。予算以下であること。


価格の相場感はネットで簡単に調べられる。


自分は、シゴデキOLという設定だ。自分のお金の使い方について、ソーダさんに心配されたくなかった。


1軒目、まだ築浅だ。セキュリティは文句なし。でも実際に中に入ると変に梁が突き出ていて期待外れ。次。

2軒目と3軒目も駄目。


4軒目。少し古い建物だけど、セキュリティはクリア。


「こちらは予算をわずかに超えておりまして」

と森本さんが前置きした。


ドアを開けた瞬間、光が来た。

朝7時の太陽光が白い床にまっすぐ伸びている。


悪くない。


でも台所の位置が気になった。1LDKと言いながら、玄関を入ってすぐ目に入る場所にキッチンがある。

生活感の無さが、ソーダさんにすぐバレちゃいそう。迷う。


5軒目。築浅だけど数字以上に狭く感じる。


困った。良い物件がない。

ソーダさんがリラックスできて、また来たいと思える部屋にしたい。



「もう少しご予算を上げてご覧になりますか? 私の方で選定したものですが、準備はできております」


森本さんが聞いてきた。

気を利かせてくれてありがたい。


金額を聞いてみたら、予算の5割増しの築浅少し広め物件から、20倍くらいの高級タワマン賃貸まで色々だった。



やめよう。ソーダさんのラインがまだ分からない。今の予算でもソーダさんの月収を超えてるし。


「4軒目にします。家具の配置とか相談させてください」


生活感がないのは、ほとんど外食や宅配で済ませているとして誤魔化そう。忙しいOLなら、たぶん普通。



4軒目に戻って、重要事項や賃貸借契約の説明を受けるあいだ、外商さんと家具屋さんが配置を話し合っている。


一人暮らしだけど、二人でも住めるくらいを想定して考えてもらっている。


「失礼します。ベッドのサイズはいかがなさいますか? このお部屋ですとクイーンサイズも難しいとは思うのですが……」

家具屋さんが遠慮がちに聞いてきた。


「……セミダブルでお願いします。この部屋に一般的なサイズで」


ソーダさんと泊まることを考えると、本当はダブルのほうが良いかもしれない。

だけど、一人暮らしという設定は壊せない。



カトラリーも用意する。後から買い足したみたいに、わざとペアじゃないものを。



護衛機能付き家事ロボットも準備する。

大型になるけど仕方ない。ソーダさん、ゴンダム好きだし、喜んでくれるかも。


あ。でもソーダさんに変に思われないよね?

ロボットを手配した外商さんに聞く。


「一般的ではないですけど、セキュリティに気を使われる一人暮らしの女性の方でしたら、そこまで不自然でもないかと」


外商さんは、ニコヤカに答えてくれた。


「こちらの機種は、主に宝飾店などに使用される特殊強化品でして、価格は一般に公開されませんので、ご安心ください」


頷いた。

ちょっと不安は残るけど、これにしちゃおう。

性能は抜群だし。



賃貸借契約まで終えたところで、業者さん達からプレゼンしてもらう。

モデルルームみたいに上質でオシャレだけど、ギラギラしない、さりげないトーン。


生活感を出すための色々を考えると、8月中には間に合わない。

だけど、その次には間に合うはず。



オシャレになったこの部屋で、ソーダさんと一緒に朝ごはんを食べるシーンを想像する。

ちょうど今くらいの時間だろう。


朝の歯磨きの後、甘いキスをして、ダイニングへ。そして、腕が触れるくらい近くに座る。


テーブルの上には、トーストと目玉焼きとサラダが準備してある。

ソーダさんが美味しそうにモグモグ食べてくれる。もちろん笑顔だ。


想像するだけで幸せになれる。


あ、朝食は和食派だったらどうしよう。

大丈夫。どっちも素敵だ。


うん。この内装案は良いと思う。

ゴーサインを出した。


秘密は増えたけど、東京でもソーダさんと楽しく過ごしたい。それだけだ。


建物を出て、眩しい光に目を細める。

これから外商さんと一緒に百貨店へ向かい、浴衣選びと着付けだ。

急がないと新幹線に間に合わなくなる。


どんな浴衣と下駄でソーダさんに会いに行こうか、ワクワクした。

やっぱり爽やかな青色は入れたい。


ソーダさん、綺麗って言ってくれるかな。

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