2-1 女神は1か月なんて、待てません
◇ソーダの視点
僕は、応援してくれたゲームの皆に報告した。
ソーダ: 報告!おこめさんと付き合うことになりました!
金箔のせ: マジで!?おめでとおおお!(≧▽≦)
クラッカー: よっしゃ。で、当然大人の階段は上ったんだよな?w
ソーダ: いや、まだ……キスだけ……
クラッカー: まあ、妥当だな
金箔のせ: そうだよね!初々しい!
ペッパー: ソーダさん、これからのこと、もう話し合いましたか?
ソーダ: ……え
これからのこと。キスの先。
僕の頭の中で勝手に、とんでもなく大人で生々しい方向へと転がっていく。
顔が熱い。
ポテト: ソーダ殿?
我に返る。
ソーダ: あ、そっか。次に会う話ね
クラッカー: 何の話だとw
ソーダ: まだ決まってない。おこめさんのスケジュールがはっきりしないみたいで。水曜日に話す予定!
金箔のせ: 遠距離かー。がんばれー!(๑•̀ㅂ•́)و✧
ポテト: ファイトでござる!
ソーダ: 皆、ありがとう!
こういうとき、闇鍋に入ってて良かったと思う。
おこめさんも、たぶん同じだ。
おこめさんと付き合って初めての水曜日。
夜9時は、おこめさんとのビデオ通話の時間だ。
今週から定例が週2回に増えた。
日曜に加えて、水曜も。
今日は、次のデートの日を決めたい。
おこめさんは、いつもどおり、エイリアン戦艦と宇宙怪獣の背景だ。今日もオシャレで可愛い。
「東京旅行の後、体調は崩しませんでしたか?」
「僕は大丈夫! おこめさんこそ、大丈夫? いつも忙しそうだし」
おこめさんは曖昧に微笑んだ。
「はい。私は昔からこんな生活なので。忙しくないと落ち着かないんです」
普通、逆なんじゃないかな。
おこめさんのワーカホリックぶりに驚く。
「そうなんだ。すごいけど、僕はおこめさんが無理してないか心配だよ。無理するくらいなら頑張らないで良いと思う」
おこめさんの目が少し大きくなった。
不思議に思う。僕は当たり前のことを言っただけだ。
「ありがとうございます。無理はしないようにしますね」
おこめさんは嬉しそうに微笑んだ。
「それでさ。次のデートの日程なんだけど」
「はい」
おこめさんが目をキラリとさせた。可愛い。
「8月最後の週末はどう?お盆でバタバタするのと、お盆の後はたいてい体調崩すから……」
おこめさんが残念そうな顔になった。
「……けっこう、先ですね。あと31日もありますよ!」
「確かに、長いね……」
というか、計算はやい。
「……あの、だったら、お盆の直前の土日に私が新潟に行くのはどうですか? なんと17日後です!」
「だいぶ早くなった!」
おこめさんが少し笑った。
僕も、おこめさんと早めに会えるのは嬉しい。
「僕は、えーと、土曜日の午後から日曜日は大丈夫。なんだけど……」
おこめさんの顔が明るくなった。
「じゃあ、行きます!」
だけど、心配がひとつ。
「待って! お盆の直前の週末だよ? しかも、その週末は地元ですっごく大きなお祭りもある。新幹線もホテルも、今から取れるかどうか……」
おこめさんの声が低くなった。
「ホテルや新幹線が何とかなれば、大丈夫ですか?」
その目は、本気だった。
「う、うん、僕は大丈夫!」
「分かりました。確認しますね」
ゲームのおこめさんを思い出した。
まさかを可能にするスキルと行動力。
現実でも、たぶん同じだ。
混んでる時期に、そこまでして会いに来てくれようとしていることが、素直に嬉しかった。
「もし来れたら、一緒にお祭りへ行こう。県外からもたくさん人が来る大きなお祭りなんだ」
「良いですね! 私、浴衣で行きます」
おこめさんの声は、決意に満ちていた。
◆◆◆
◎おこめの視点
ホワイトボードも兼ねた白い壁が四方を囲んでいる。会議室のなかは、よく冷房が効いていて寒いくらいだ。
仕事の途中で定例通話の時間になったから、会議室に逃げ込んだ。
ソーダさんとの通話が終わり、残念に思う。
ソーダさんと毎日おしゃべりしたい。
毎週末でも会いたい。
1か月先なんて、随分先に思える。
きっと舞なら、「恋する乙女なんてそんなもんよ」と言うだろう。
こんな自分が嘘みたいだ。
でも、少し嬉しい。
だから、何があっても新潟に行くことにした。
迷ったのは正直1秒くらいだ。
「アイちゃん、お願い」
AI秘書のアイちゃんにお願いした。
「やっぱりね。アヤカは待てないから。普通の予約ルートじゃ無理だから、コンシェルジュ・サービス使っていい?」
招待制のサービスだ。
お金はかかるけど、大抵の無理は通る。
「お願い」
リクエストを送ってから数分後、提案が戻ってきた。
行ける。でも提示された金額は、ソーダさんの月収の何か月分だろう。そんな金額だ。
「アヤカ、どうする?」
「行きます」
迷いもしなかった。
「了解! だと思った」
早速、ソーダさんに連絡する。
おこめ: 再来週、行けます!
ソーダ: すごい! さすがおこめさんだね!
すぐ返信があった。嬉しい。
おこめ: 運が良かっただけです!
ソーダ: 強運すぎる!
……ということにしておこう。
かかった費用は、絶対にバレてはいけない。
脱いでいたジャケットを着て、意識を「アヤカ」に切り替える。
強行軍になるけど仕方ない。
ソーダさんに早く会いたい。1か月も待てない。
再来週の土日は、無理やり空けないと。
会議を調整して、夜に回せる仕事は全部回す。
ついでに東京の『自宅』も決めたい。ソーダさんを呼べるように。
全ての手配を終えて、少しのあいだ目を閉じる。
「無理するくらいなら頑張らないで良いと思う」と言うソーダさんの声が耳の奥で再生する。
優しい声だ。
「そこまでやるの?」「もう良くない?」と言われたことは何回もある。
だけど、こんなに優しく、思いやりに溢れた声で頑張らないで良いよ、と言われたことはない。
ソーダさんらしい。
全部に同意できるわけじゃないけど、思わず頬が緩んだ。
おしゃべりするたび、知らなかったソーダさんが見えてくる。
もっと、ソーダさんのことを知りたい。
仕事のことも昔のことも、まだよく知らないから。




