1-16 さっき別れたばかりなのに、もうソーダさんに会いたい
◎おこめの視点
ホームに立ち、ソーダさんを乗せた新幹線が遠ざかるのをじっと見ていた。
まだ暑いのに、さっきまで恋人つなぎしていた手が、ひんやりと感じる。
自分もそろそろホテルに帰らないと。
今度、いつ新潟に行こうか。
私の初恋が実って、ソーダさんと恋人になれた。
淋しいけど幸せ。幸せだけど淋しかった。
ホテルに戻り、素早く夜のルーティンをすませた。
最後にパックを顔に貼って、ソファでくつろぐ。
目を閉じると、今日の出来事が甘やかによみがえってくる。
遠慮がちで気遣いに満ちた優しいキスの余韻が、まだ唇に残っている。
ソーダさんらしいな、と思う。
本当に素敵な日だった。
人生で一番幸せな日だったかもしれない。
心地よい疲労感が体を包んでいる。
今日は、久しぶりにゆっくり眠れそうだ。
電話が鳴る。ママからだった。
日中、何度も着信があった。
取らないわけにもいかない。
ため息をつくと、ソファから起き上がり、顔に貼っていたパックを取った。
一呼吸してから、電話を取る。
「こんばんは」
「彩夏、こんばんは。やっと電話に出てくれた」
不機嫌そうにも聞こえるトーン。
でもこれが平常だと知っている。
「ごめんなさい、日中忙しくて」
「あなたも忙しいわね……。お盆に家に戻れそう?」
「戻れなさそう。仕事が忙しくて」
戻る気がない。
仕事が無くても。
「あなた、もう十分成功してるじゃない。そろそろ仕事のペースを緩めて、良い人を探さないと」
またこの話題。ため息をつく。
ウンザリとした気持ちで電話に付き合う。
「あなたに釣り合う人じゃないとダメよ。あなたは特別なんだから」
今日、初めて彼氏ができた。
すごく優しい人で大好きだということ。
言う意味を感じない。
「うん。分かってる」
仕事が忙しくてお盆に帰らないことは、何とか納得してもらった。
「おやすみなさい。あなたは私の誇りよ。頑張ってね」
「おやすみなさい」
電話が終わった。
コーヒーテーブルに置いたパックを見る。
乾きかけて、しおれていた。
もう良いかな。
さっきまで疲れた体を優しくつつみ込んでいた心地よさが消えていく。
心の奥に、虚無の井戸が見えた。
今日はもう、ゆっくり眠れそうにない。
ため息をついた。
通話アプリから、メッセージが届いた。
ソーダ: おこめさん、今日はありがとうね。家についた!
おこめ: 良かったです!箒ならもっと早かったのに。二人乗りの。
ソーダ: 良いアイデア!だけど、おこめさんも新潟まで来ちゃうよ
おこめ: 問題ありません
ソーダ: 失敗した(笑)
ソーダ: 彼女になってくれて、ありがと。これからよろしく!
おこめ: こちらこそです♡
ソーダさんとチャットするだけで、心が明るくなる。
本当に、大好きだ。
ソーダさんとのチャットが終わった後、今日撮ったばかりの写真をスマホで開く。
ソーダさんと自分が魔法使いになって、強敵に立ち向かっている。
でも二人とも幸せそうな笑顔だ。
ソーダさん。
初めての彼氏になってくれたソーダさん。
さっき別れたばかりなのに、もう会いたい。
次は、いつ会えるんだろう。
1か月なんて、待ちたくない。
※やっぱり待てません。




